CHAIN of LOVE

「わあ…」
偶然通りかかったおしゃれなビル。
そのショーケースの向こう側に映る光景に、少女は思わず感嘆の声を上げていた。
それは以前に自分も『彼』とお揃いで、つけたことのあるアクセサリー。
全ての始まりはそこからだったのかも知れない……[chain]シリーズの集大成とも言えるディスプレイ。
「この中に、あのペンダントもあるかなぁ?」
とんでもなく恥ずかしいショットで使われることになった決定写真は、第一段目の
ペンダントをつけた少女を抱きしめた『彼』が、そのトップをくわえて不敵にカメラを
見据えているというものだった。
今では自分の恋人となった『彼』は、思えばその頃から傍若無人っぷりを発揮していたのである。
加えて、とろい少女は押し切られるのに慣れてしまったフシもあり、要するに本人同士はいたって
幸せな関係だった。
それ以降に[chain]はシリーズ化されたと聞いたのだが、『彼』が自分をモデルに引っ張り出す
ことはなく、従って少女の方も、シリーズがこんなに増えているとは知らなかった。
そうは言ってもやはり年頃であるから、アクセサリーには素直に見とれてしまうのだけれど。
ショーケースの前に佇んでいた少女に声がかけられたのは、その時。

「なにやってんだ、お前?」
「!? ……あ、アリオス!」
ガラスのドアが開くと同時に、たった今思い描いていた相手が現れた。
いきなりの恋人登場に、少女はなぜか慌ててしまう。
青年の声、仕種、雰囲気     そういったものを不意打ちで感じると、未だに胸が
どきどきしてしまうのだ。
自分でも物慣れない子供のようだと落ち込んでしまうのだが、青年が少女のそんなところも
溺愛しているのだとは、本人は気づかない。
「どうしたの? お仕事は?」
「今日はここで仕事してたんだよ。……チッ、やべぇな」
青年の職業はモデルである。それも頭に『超売れっ子』のつく。
傍若無人なのはプライベートに限ったことではなく、所属事務所の社長もマネージャーも
手を焼くという筋金入りだが、それも青年の圧倒的な実力に裏打ちされてのことだった。
「やばい、って、何が……」
「いいから行こうぜ。時間、いいだろ?」
さっさと少女の手首を掴んで歩き出してしまう。
引きずられる格好になった少女はいよいよ『?』マークを頭上にいくつも抱えるハメになった。

「ねえアリオス。お仕事途中で抜けてきたんじゃないの?」
青年の愛車の中で、買ってもらったミルクティーを飲みながら。
少女は詰問口調ではなく、純粋に心配そうに訊ねた。
一緒の時間を過ごせるのはとても嬉しいが、青年がそのために仕事に影響を及ぼすのは、
少女の本意ではない。
銀色の髪をくしゃりとかきあげ、青年はぼやいた。
それは機嫌がやや悪いときの癖だと、少女も知っている。
「あのままそこに居たら、お前まで引きずり出されてたぜ」
「え? ……なんで、私?」
「ショーケース見てたろ? [chain]シリーズの集大成だ。
 商品と同時に、今までの広告に使ったモデルも全部集めるって企画だったんだよ」
[chain]第一弾の広告が男女ペアで好評を博したことから、以降のシリーズも全て
男女ペアで撮られている。そこにパートナーを連れずに顔を出したのは、アリオスだけだった。
もちろん、少女には話そのものを知らせていない。

「お前の素性がバレても困るからな。安心しろ、吐いてねぇから」
「でも、それじゃあアリオスが、すっごく気まずかったんじゃないの?」
ごめんね、と俯く少女の髪の毛をさらりと撫でて、青年は微笑んだ。
「勘違いすんな。俺がお前を独占したいだけだ」
「っ!」
あっさりと言われてしまうと、少女は真っ赤になって固まってしまう。
この青年は、こと少女に関しては、異常なまでの所有欲を発揮するのだ。
髪の毛を撫でていた指先が、まろやかな頬をたどり、唇をすっとなぞる。
「……っ、だっだめ、アリオス!」
「何がだよ?」
しれっと答える間にも、青年の指先は悪戯にあちこちを這い回り、
少女の身体にゆっくりと熱を呼び起こしていく。
「ここっ、車の中……っん!」
言い募る唇は自分のそれで塞いでしまい、思う存分に貪る。
しばらくしてようやく大人しくなった恋人に、青年は上機嫌にくつくつと笑いかけた。
「ここじゃイヤか?」
こくこくと必死で頷く少女。
罠にかかったことに気づいていない、哀れな獲物。
「じゃあ、場所を変えようぜ。俺のマンションに、な」
「!!」
絶句。この反応も青年のお気に入りである。
決して愛玩動物のように見ているのではなく、愛しくてたまらない、
可愛い恋人として扱っているのだが、少女本人はそう思えていないらしい。
「……アリオスのバカ……」
毎度お決まりの文句を言って、少女が降参してしまうのも、いつも通り。



「……ん」
ようやく意識が戻る頃には、少女の身体には気だるさが刻みつけられていて。
とてもではないが起き上がれない。
それでも、何も言わずに再び瞳を閉じてしまうのは。
傍らで自分を抱き寄せ慈しんでくれる、愛する人の存在のせい。
好きにされているんだろうなぁ、と、青年のペースにはまる度に思う。
でも、自分も確かにそれを望んでいるから。
「アリオス、大好きよ?」
眠りに落ちる寸前の少女の呟きに、青年も耳元に吐息を届けた。
「愛してる、俺のアンジェリーク」


                                             Fin.


ANGEL LOUNGEの由宇さまから頂いたお話です。
嬉しいことにモデルアリオス設定の2人ですよv
このシリーズは皆様に気に入っていただけて
嬉しいですが、自分以外の方にも
書いていただけるのは作者冥利に尽きますねぇ。

以前に書いた2人の出会い編を思い出し、読み返しました。
そういえばこういう馴れ初めだったなぁ。
相変わらずアリオスさん我が道を行く人だなぁ、と(笑)

由宇さま!
素敵な甘いお話を本当にありがとうございました!



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