「じゃ、一日フリーパス買ってくるからよ」
「お願いね、アリオス」
「ああ----」
アリオスは、チケット売り場へと行きかけて、突然振り返った。
「それと、アンジェリークをしっかりと守っとけよ? ----ガキ」
「判っている・・・!」
レヴィアスは、アリオスと同じ瞳で彼を睨むと、アンジェリークと繋いでいる手に力をこめた。
「クッ、上等だ。頼んだぜ!」
アリオスは、レヴィアスに左眼でウィンクしながら、口角を僅かに上げて微笑む。
「とっとといけ!」
「はい、はい」
レヴィアスは、アリオスの背中に向かって、宙に蹴りを何度かかまし、追い払うような格好をした。
「----おい、アンジェリーク、耄碌阿呆者が行って、ようやく二人きりになれたな・・・」
レヴィアスにうっとりと見上げられ、アンジェリークは大きな溜め息を吐く。
そして毎度の事ながら思う。----どこで育て方を間違えたのかと。
気を取り直して、彼女は微笑みながらレヴィアスを見、話し出す。もちろん、彼の危ない思考の暴走を止めるために。
「今日は、家族みんなでこれてよかったね!」
アンジェリークの心からの嬉しそうな笑顔に、レヴィアスは胸を鷲掴みにされる。溢れるような微笑は、彼を天国に連れて行く。
アンジェリーク・・・! なんて、なんてかわいいんだ!!!!!!!!!!(!マークを増量しております。当社比)
「レヴィアスは何に乗りたい?」
アンジェリークの可愛らしい嬉しそうな声に、レヴィアスはまたもや胸がきゅんとなる。
「俺は・・・、コースター」
「コースターか・・・。私はちょっと恐いかな。ふふ」
アンジェリークは、少し恥ずかしそうにレヴィアスに微笑んだ。
----コースターが恐い・・・! その一言は、レヴィアスを妄想モードに突入させるのに充分だった。
コースターか・・・。アンジェリークが我の隣に乗り、乗ったときから、アンジェリークは震えて我の腕をつかむ。
「レヴィアス・・・、恐いよ・・・」
「心配するな・・・、アンジェリーク・・・」
アンジェリークは、我に総てをゆだね、顔を肩に寄せる。
・・・想像するだけでたまらない・・・。
一番の高さから落ちるとき、アンジェリークは恐怖の為に悲鳴をあげながら、我に抱きつく。
そして、乗り終わったときに、こういうのだ。
「やっぱりレヴィアスは、アリオスより頼りになるわ。大好き!!!」
(妄想警報発令中)
レヴィアスは、危ないオーラを醸し出しながら、ニヤリと不適な笑みを口元に浮かべる。
「----また何か怪しいことを企んでるう〜」
アンジェリークは、大きな溜め息を吐きながら、困ったように眉を寄せる。
「そ、それにしてもアリオス遅いね」
アンジェリークは、わざとアリオスの話題を出してみる。我が子の暴走を止めるために。
「----なあ、アンジェリーク、あんなイカレ男はほっておいて、俺と一緒に逃げ・・・、って!!!」
頭を叩かれ、振り返ると、予想通りにそこにはアリオスが不機嫌そうに立っていた。
「そこまでだ、レヴィアス」
「何をする貴様・・・!」
レヴィアスは、頭を抑えながら、挑戦的な眼でアリオスを見る。憎しみを込めて。
「----おまえ忘れてるんじゃねーか? アンジェリークが俺の女だってことをよ」
アリオスは、レヴィアスの目の前に人差し指を突き出し、彼を見据える。
「おまえが余裕をかましているのは、今だけだ・・・、アリオス!」
二人は、お互いに譲らないようににらみ合っている。
「また始まった・・・」
アンジェリークは、二人の意識を逸らそうと、互いの顔を見る。
「ね、何を乗るか決めようよ。レヴィアスはコースターらしいんだけど・・・」
アンジェリークの言葉は、一気に二人に緊張状態を緩和させ、和みモードに突入したのは・・、つかの間だった。
もちろん壊したのは、アリオスだ。
「----クッ、コースターだ? おまえ、乗れるのかよ? その身長で」
アリオスは、皮肉げに喉を鳴らして笑うと、意地悪げにレヴィアスを見る。
「ちょっと、アリオス!」
アンジェリークもさすがにまずいとアリオスを諌めた。
しかし、レヴィアスがそんなことで傷つくわけがないことをアリオスは十分理解していた。
レヴィアスは、怪しい笑みを浮かべると、リュックから怪しいものを取り出す。
「大魔導士ヴァーンが開発した、”シークレット・シューズ”!! これで俺の身長は10センチ伸びるから、コースターだって乗れる・・・」
「あー? たった10センチぐれーだったら、こんなことは出来ねーだろ!」
「あ、何、急に、アリオス・・・」
アリオスは、アンジェリークを急に抱き寄せると、そのまま唇を奪う。
「こら! 何をする! 我の女に!」
レヴィアスは、小さな体を二人の間に割り込ませ、必死に離そうとするが、アリオスの唇は、中々アンジェリークから離れない。
「・・・あ・・・、もうアリオス・・・こんなところで恥ずかしいじゃない・・・」
アンジェリークは、咎めるようにしてアリオスを見、余りの恥ずかしさにそのまま俯いてしまった。
アリオスは、レヴィアスを見下ろすと、優越感に浸った笑みを彼に向けた。
「できねえくせに!」
レヴィアスは、アリオスを飛び蹴りしようとかまえたが、あっさりかわされてしまった。
悔しさが彼を覆う。
-------------------------------------------------------------------------------------
夕日があたりを覆い始め、アリオス家の、遊園地での1日が、まもなく終わろうとしていた。
途中、アリオスXレヴィアスのバトルは、ひっきりなしに続き、その度にアンジェリークが止めるいつものことが繰り返された。
しかし、たまにしか家族が揃って出かけることが出来ないせいか、アンジェリークにとっては、素晴らしい休日となった。
「----ねぇ、最後にみんなで観覧車に乗ろうよ!」
アンジェリークは、レヴィアス、アリオスの二人と手を繋ぎながら、まるで子供のようにきゃきゃとはしゃいでいた。
アリオスはその姿を見て、愛しそうにフッと微笑み、レヴィアスは、幸せそうに笑う。
「ね、早く行きましょう! 今から行けば、きっと綺麗な夕焼けが見れるわ!」
アンジェリークは二人をひっぱって観覧車へとゆく。
「クッ、しょうがねーな」
アリオス流の同意の言葉。その奥に隠れている優しさを、アンジェリークは充分わかっている。
「アンジェリークのためなら、どこにでも行く」
レヴィアスの同意の言葉にも、母親として自慢したい優しさがあることを彼女はよく知っていた。
幸せそうな三人の姿は、往く人たちに羨望の溜め息を吐かせた。
「ほら、あそこにとっても素敵な家族がいるわ!」
三人の順番はすぐやってきて、観覧車へと乗り込む。
「ほら、つかまれ」
「俺にもつかまれ」
左右から同時に差し出された、大きな手と小さな手に、アンジェリークは穏やかな微笑みを浮かべると、そっと、両方に手を差し出す。
右は、アリオス。左は、レヴィアス。
二人にエスコートされながら、アンジェリークはゆっくりと観覧車の中へと乗り込んだ。
「ほら、俺のとこに来いよ」
「え・・・、あっ!」
観覧車に乗りこむやいなや、アリオスはアンジェリークの腕を取り、彼女を膝に乗せた。
「おまえにはできねえよな、クサレ息子」
「何をする! この暴走男!」
レヴィアスは、アンジェリークが傷つかないように上手く避けながら、アリオスの銀色の髪を憎らしそうにつかむ。
「----何しやがるこのガキ!」
アリオスも、左手でレヴィアスに応戦しながら、右手でアンジェリークを支える。
アンジェリークは、肩をぶるぶると震わせながら、こみ上げる怒りを抑えきれずに、ついに爆発した。
「もう!!! いいかげんにしなさい二人とも!!! 危ないでしょ! ここは観覧車の中よ」
威力のあるリーサル・ウェポン、アンジェリークの怒りは、一瞬にして二人を黙らせた。
レヴィアスは、うなだれて、アンジェリークの向かいに座る。
「----レヴィアス・・・、私の膝の上にいらっしゃい」
「アンジェリーク・・・!」
レヴィアスの顔は一気に晴れ、嬉しそうに彼女の膝の上に座る。
「重い・・・!」
アリオスは、ぶつくさと云ってはいるが、レヴィアスと同じ左右の色が違う不思議な瞳は、深い優しさが宿っている。
「何だか、親亀、小亀、孫亀みたいね・・・、ふふ」
アンジェリークは、幸せの溜め息を吐く。
ふと、観覧車の外を見つめると、夕焼けが一面の空を茜色に染めていた。
切なく、美しい空。
蒼、紅、紫、紺と色が何重にも重なり合い、ひとつのハーモニーを醸し出している。
そして・・・、総てを綾なす太陽は、太平洋の大海原へと続く地平線へと眠りにつこうとしている。
「きれいね・・・」
アリオス家の、夫々の顔を、太陽が最後の力を振り絞り、茜色に染め抜く。
「アンジェリーク・・・」
アリオスは、優しく、そして深い口づけをアンジェリークにし、彼女は、それをうっとりと受けた。
アリオスの唇が離されると、今度は、レヴィアスの小さな唇が、降りてきた。
「---・・・ん」
「舌いれてんじゃねえよ!このガキ!」
アリオスの一撃をレヴィアスが食らい、再び戦いのゴングが鳴る。
アンジェリークは、あきれたように溜め息を吐くと、ふふっと優しく笑った。
THE END
コメント
葵瑠美様が書いてくださった、「朝のドライブ」のお礼の創作で、半ばtinkの押し付けで書かせていただきました。
リクエストにあった、アリオス家の人々について書いたのですが。
ごめんなさい。ここで謝っておきます!!m(_)m
へぼすぎ〜
アホ家族が遊園地に出かけるというシチュエーションで書かせていただきましたが、色々なネタから無難なものを選んだんですよ、これでも・・・。
私の職場が、某関西では有名な遊園地の隣でして、窓から、それらをみながら、ネタ繰りをしましたが、レヴィアスが暴走してしまった。
もちろん、クーリングオフはききますので、安心してくださいませ。
あんな素敵な創作のお返しがコレなんて〜本当にごめんなさい。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
tink様 楽しい作品をありがとうございました! この家族のお話大好きなんです。 本気でアンジェを取り合うアリオスとレヴィアスがもう…。 幸せなアリオス家のお話、その他の素敵なお話は リンクの庭から「異間人館」へ。 |