「かそう」
いやな予感がする、と思われた方は正解です。 お引き取り願った方が無難です。 これはまったくのフィクションです。 舞台、登場人物が瑠美さまの「花葬」と似ていると 思われても、まったく関係ありません。 苦情等諸々ありますでしょうが・・・ごめんなさい。 written のりさま |
「大きな嵐が突然消えた。彼が無茶をしたんだろうな、と思って見に来ただけだよ」 目の前で不適に笑う美しい青年。 けれどもその瞳は楽しそうな顔とは逆に震えるほどの冷たさを出している。 ・・・この人は危険だ。 それを敏感に感じた少女は一歩後ろへ下がる。 「そうしたら驚いたよ。人間がいついてるなんて・・・」 挑むような彼の視線にアンジェリークは不思議に思った。 何故いきなり敵意をぶつけられる? 「いちゃ・・・いけなかったの?」 「別に。ただ・・・彼も酔狂なことだなと感心しているだけさ」 魔族である彼と人間である自分。 その間には深い隔たりがあるのだと分かってはいたが。 「まったく、あんなことがあったっていうのに・・・」 「あんな・・・こと・・・?」 人間である自分を側に置いているレヴィアスに関係すること。 思い当たるのはひとつだけ。 かつてこの城にいたという女性。 いったい、彼女が何をしたというのだろう。 「君は彼女とは違うみたいだね。・・・確かに、あんな人間がうじゃうじゃいたら、僕らの身が持たない」 「・・・?」 「気に入ったよ。君なら、血をもらわなくても永遠の命をあげる」 それだけ言うと、青年は来たときと同じようにかき消えるようにいなくなった。 後に残された少女はぽつりと呟く。 「何があったのかしら・・・」 知りたい。 今も尚、あの人の心に居続けているにちがいない少女のことを。 『ねぇ・・・レヴィアス。今までここに来た女の子であなたを好きになった人いないの?』 本を読む手を休め、この邸の主はそっと目を閉じる。 浮かぶのは心優しい少女のこと。 やわらかい少女の体を膝に乗せて語ったときはとてもしあわせだったというのに。 少女の何気ない一言に、レヴィアスの体は硬直した。 顔には出さなかったが、心臓をふいにつかまれたような感じがした。 かつて、この邸にいた女性の姿が浮かぶ。 「なぜ・・・何故今さらになって思い出す・・・?」 忘れていたはずの感情。 追いやっていたはずの激情が、今また吹き出してくる。 「どこまで我を苦しめれば気が済むのだッッッ!!」 「レヴィアスッッッ?」 尋常でない主人の様子を察知してか、青年の分身である銀狼と共に彼の天使が駆け込んでくる。 「どうしたの、レヴィアス?具合悪い?大丈夫?」 心から心配している様子の少女の存在が、今の彼には心地よい。 手を伸ばせば応えてくれる、実体を持った温かなもの。 「アンジェリーク・・・」 抱き上げて胸に顔を寄せてくる、いつになく弱々しい彼に戸惑うが、それも初めだけ。 アンジェリークはやわらかく包むようにレヴィアスを抱きしめた。 「恐れることはないわ。わたしはここにいるから・・・」 ぽつりぽつり、と青年が語りだしたのは、それからしばらく経ってのことだった。 少女は青年の膝の上で、ただ黙って聴いている。 「我がその娘に出会ったのは、もうどれだけ前のことか」 忘れてしまった、と呟く。 「しかし、あの娘だけは忘れることができぬ。この先、何があったとしても、我はあの娘に囚われつづけるのだ・・・」 ※ その娘は「のり」といった。(注・笑うところです) 一見普通の娘に見えないこともないが、実はその中身は大変おバカであることを見破っていない者はなかった。 そんな阿呆な娘だが、ある時、当時通っていた学園での素晴らしい発表にたいしての質問で、 その大バカぶりを見事に披露することがあった。 おバカだおバカだ、とは皆思っていたが、まさかここまでの大バカ者であるとは・・・と呆れ果てる皆の視線の中、 のりは恥ずかしさの余り竦みあがり、小さくなり、おとなしくなり、静かになり・・・ そして爆発した。 それはもう、広島に落ちた原爆のように、突然ドドンっとそれはそれは見事な爆発をしでかしたのだ。 それからののりは、まるでこれまでの鬱憤を払うかのように暴れに暴れ、辺りをなぎ倒し、 壊せるものはすべて壊し尽くすという暴挙に出た。 そのあまりの迷惑ぶりに困り果てた村人達は、なんとかのりをおびき寄せ、捕獲し、 地下牢に繋げていたのだが、地下牢での接待、食事が悪すぎるだのなんだのと 文句を言い始め、再び暴れ始めた。 あわや地下牢も崩壊か、次にはこの人間離れした娘をどこに監禁しようか、という危機に面したとき、彼は現れた。 『若い娘と交換条件で、助けてやろう』 村を壊しまくる化け物を退治してやる代わりに、娘を生け贄に捧げよ、ということらしい。 村人達は、そのありがたい申し出をすぐさま受けた。 なにしろ、村人達の被害の元凶はこの娘。 この娘の処置に困った村人達は、どうやら「どこぞやの化け物に困っている村人達」と完璧に 誤解しているらしいこの吸血鬼にすべてを託すことにした。 それはもう、喜んで。 のりの方も、『こんなシケタ村にいたってやることないし、あの発表で、もう、おバカぶりを発揮しちゃったから、 居たくないし』という、『破壊行動のことはいいのかッ?』とつっこみを入れたくなるトンチンカンな思いを抱え、 なにやら幸せそうに手を振って別れを告げる村人達を背に、ひとり、この城にやってきた。 無論、真相は知らないままで。 「うわ・・・気味悪ィ・・・」 どよんと暗闇たちこめるその城を前に、のりは呆然と立ちつくす。 「まいったなぁ。私、お化け屋敷苦手なのに・・・」 ぼそっと呟けば、狙っていたかのように扉は自然と開き。 のりはそのまま恐る恐る中へと一歩足を踏み入れた。 そのままおっかなびっくり歩いていけば、突如ガタッという音がして。 「ひああああああああ!!!!」 「ぐるるるる・・・・」 見るとそれは見事な毛並みを持つ銀色の狼で。 銀狼は、侵入者をギッと睨み付け、うなり声をあげる。 大抵のものは、そのひと睨みで震え上がり、慌てて去っていくだろう。 ・・・だが。 今、銀狼が相手をしてるのは、おバカのりその人である。 「なぁんだ。お化けじゃないのか。お化けじゃないなら怖くないよ。あっちいけ、シッシ」 ・・・銀狼くんは見事にあしらわれてしまった。 「くん・・・・」 狼であることの誇りを傷つけられた、何とも哀れな声である。 ・・・のりの神経までもがおバカ仕立てとなっているようで、どうやら普通の人とは異なるつくりのようだった。 「うん。何をすればいいんだか・・・だいたい、ヴァンパイアだかバンパーだか知らないけど、 勝手に呼び寄せといてこの扱いはないんじゃない?」 大人しくなってしまった銀狼くんの前をずかずかと数歩進んだその時。 「おまえが贄とされた娘か・・・」 びゅおおおおお・・・・とブリザードが襲ってきそうなほどの冷たさを兼ね備えた黒髪の青年。 左右色を違えた金と翡翠の瞳が冷たくのりを突き刺す。 その眼差しはひどく冷たく、側に従う銀狼もピリと、神経を研ぎ澄ます。 まともな神経を持つ者は、すぐさまその場に崩れ去っていただろう。 それほどまでに威圧的な空気を身に纏っている青年。 青年は一歩のりに近づく。 「・・・おとなしく我に血を与えよ。・・・命までは取らぬ」 一歩、また一歩と近づいていく。 のりは身動きひとつせずにじっと青年を見つめていたが。 「・・・どうした・・・足がすくんだか」 「・・・よ・・・」 「よ・・・?」 闇に溶けるように囁かれた言葉は青年には届かない。 おそらく自分の持つ気にあてられたのだろう、と思っていたが。 次の瞬間、あまりのことに凍り付く。 「嫁にして下さいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」 不幸にもヴァンパイアレヴィアスは、この娘が「まともな神経を持つ者」から かけ離れている人間だということを、この時知らなかった・・・ ※ 「それからヤツはことある事に我の前に立ちはだかるようになったのだ」 ※ 嫁にしろ、嫁にしろとうるさい娘に耐えられず、無理矢理に血を吸い取ってしまった。 すべての血を吸い尽くしてやろうか、などと考えながら、 多少多めに吸い取られたのりはそのまま意識を失い、床へとぶっ倒れた。 さて、貰うのも貰ったし、さっさと化け物退治に出かけるか、と意気込んだ青年。 しかし、意識を研ぎ澄ましてみても、化け物の存在は確かめられない。 ・・・おかしい・・・確かにあの時は「化け物」の存在があったというのに。しかも、「化け物」にやられたとしか 思えぬ瓦礫の山があちらこちらにつくられていたというのに・・・ そして青年は、やがて目覚めたのり本人によって、驚愕的事実を知らされることになる・・・ アーメン・・・ どこへなりとも去れ、といい渡した青年だったが、しかし、のりは決してここから去ろうとしない。 毎日毎日「嫁にしてくれ」攻撃をしかけられ、流石に無敵のヴァンパイアレヴィアスもげんなりとし始めた。 しかも、彼の悲劇はそれだけではなかったのだ。 のりという娘の血も他の人間と違うのか、あれ以来、腹の調子が宜しくない。 気分もスッキリしない。 それに加えて毎日のりの「嫁にしてくれ」攻撃。 我らがレヴィ様のご機嫌ボルテージは、今や尽き果てようとしていた。 「久しぶり。元気でしたか」 ある時やって来たのは蒼い髪の危険な微笑みを持つ青年だった。 「やぁ、珍しい。あなたが人間を側に置くなんて・・・」 とひとり語りはじめたときだった。 「ちょっと!私のレヴィ様に気安く話し掛けないで!!」 ・・・その後はお分かりだろう。 蒼の青年とのりの言い合い合戦が続き、遂に本気を出した青年がのりの血を吸い取ろうとした。 それに気付いたレヴィアスが、慌てて止めようとしたが、もう遅い。 不味・・・そう言いながら口に付いた血を舐めとっていたそのとき。 蒼の青年は、「化け物」扱いされたのりの呪いの血によりぶっ倒れた。 「こんな人間、初めてだよ。もう二度と会いたくないね」 こんな捨てぜりふを吐いて消え去った青年が、以来、人を襲う件数が減ったとか減らないとか。 このままではこの娘に殺される。 命の危険を感じ取った青年は、のりが寝ている間にぐるぐる縄で縛り付け、城の外に放り投げた。 勿論、二度とこの城には行って来れないように、しっかり術もかけて。 ・・・けれど、どこをどうしたのか、再びのりは舞い戻ってきた。 『悪魔が来たりて笛を吹く・・・』 思わずそんな台詞が脳裡を横切ったが、それに屈していてはこの先、彼の平和は保障できない。 血を吸いとって・・・というのは自殺行為だと身をもって知った。 ならば他の手で、と、出来ることはすべてやった。 閉じこめてみたり、川へ投げ込んでみたり・・・ けれど不思議なことに、のりは必ず舞い戻ってきてしまう。 その時レヴィアスはのりの背後に悪魔を見た。 もう耐えられぬ、と覚悟を決めたレヴィアスは、禁断の術を使った。 それは『異世界へとばす』ということ。 時空転移、それは禁断の術であり、しかもそれを第三者が使うとあっては、術者に対してかなりの危険を伴う。 けれども迷っている暇はなかった。 彼の明るい未来のためにもそれは絶対の条件。 「あぁれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」 愚かにも気づきもせずに異世界へとばされてしまったのり。 その行く末は誰にも分からない。 ・・・誰も知りたいとは思わない。 ようやく彼に平和が訪れた。 これからは枕を高くして眠れることだろう。 レヴィアスと銀狼くんは、お互いほっと溜息をついた。 けれど。 のりの呪いはそれだけでは終わらなかったのだ。 「う・・・うううううんんんんん」 夢の中にまで襲ってくるのりの「嫁にしてくれ攻撃」。 毎晩毎晩うなされるその悪夢に、レヴィアスはもう限界だった。 しかし、そんな彼をあざ笑うかのように、悪夢は続いていくのであった・・・ ※ 「しかし、そんな呪いもやがては消え去り、我もあの悪魔のことなど思いもしなくなっていたというのに・・・」 「レヴィアス・・・」 アンジェリークは悟った。 自分の何気ない一言が、彼をここまで追い込んでしまったのだ。 あの時、あんなことを言い出さなければ、彼は「悪魔」を思い出したりしなかったはずなのに・・・ 彼はきっと、その人のことを忘れることはないのだろう。 でも、それはあまりにも酷すぎるではないか。 アンジェリークはそっとレヴィアスの首に腕を巻き付け、抱きついた。 「レヴィアス。大丈夫。 あなたがうなされることがあったら、きっとわたしが夢の中に入っていって、助けてあげる。 だから、安心して、ね?」 「アンジェリーク・・・」 青年もそっと天使を抱きしめる。 新に感じ始めたやわらかな幸せを、そっとかみしめながら。 それから後、彼の天使と「らぶらぶ」な生活を送る我らがレヴィアス様は、 夢でうなされることはなくなったという。 そして、新たな夢を見る。 とてもしあわせな夢を・・・・・・ |
ありがとうございました、のり様。 『アンジェリーク』のパラレルとして書いた『花葬』。 さらにそのパラレルが生まれるとは思ってもみませんでした。 作者冥利に尽きます♪ しかし…本当にご本人こんなキャラで 出演してよろしいのですか…?(笑) |