Thank you



「ただいま〜、と。すぐにお茶淹れるね」
アンジェリークはご機嫌な様子で後から入ってきたアリオスに微笑んだ。
「ああ」
すでに自分の城と化している彼のマンションのキッチンへ向かい、
アンジェリークはお茶の準備をはじめた。
今日は2人で映画を観て、カフェに行ったり、買い物をしたりで…。
久しぶりの1日がかりのデートにアンジェリークはご機嫌だった。
最近は彼の時間が取れなくて、会うのがやっとだったから…。
付き合いはじめたばかりの頃、外でのデートは写真週刊誌の記者とか
ファンとか…周りの目を気にしたり、戸惑うことは多かったけれど
今ではもう慣れてしまった。
そしてなにより、自分達も普通にデートを楽しみたかった。

だいたいアリオスは記者を前に堂々とアンジェリークを抱き寄せ、
「(写真週刊誌の記者ごときのカメラと腕で)この俺を撮れるもんなら
 撮ってみろ」と言ってのけるような人なのだ。
ファン達の視線にも『今はデート中。邪魔できるもんならしてみやがれ』
というオーラを放っているのだ。
たぶん彼の中にファンサービスという言葉はないだろう…。
もとよりお互いしか目に入っていないようなカップルなのだが…
そんなことが続いてれば周りもそういう風に受け入れざるを得ない。
そのうち普通に2人で外を出歩けるようになった。

「アリオス?」
なかなかリビングにやってこない彼を呼びにアンジェリークは彼の部屋を訪れた。
さっぱりとしたデスクの上にはノートパソコンが開いてある。
その前でアリオスはうたた寝をしていた。
実に珍しい光景にアンジェリークはそっと彼の側へ近付く。
その端正な寝顔をじっと見つめた後、パソコンの画面が視界に入った。
それは一月分のスケジュール表だった。さすがに恋人でも見てはいけない、
とすぐに視線を逸らしたが、その過密さだけは一瞬で見てとれた。
(アリオス…こんなに忙しいんだ…疲れてるの当たり前だよね)
さすが超人気モデルだね、というのんきな感想を持ったあとに、
一瞬思考が止まった。
(え…もしかして…仕事以外の時間は私といる…てこと?)
嬉しさと同時に不安が生まれる。彼の時間はどうなるのだ、と。
自分が負担になったりはしないだろうか、と。
彼はそんな素振りを決して見せないけれど…。
いつも憎らしいくらいの余裕でこっちをからかうけれど…。
それでもすごく深い優しさを感じるから、見守ってくれてるのがわかるから。
頬にかかるさらさらの銀の髪をどけて、感謝の意を込めてキスをした。
「いつもありがとう」

そしてもう少し寝かせてあげよう、と上にかけるものを探しに行こうと
したアンジェリークを彼の腕が止めた。
「これで終わりかよ?」
「ア、アリオス? いつから起きてたの?」
「寝込みを襲ってくれるかと思ったんだけどな」
にやりと笑う彼にアンジェリークは赤くなって言った。
「アリオスじゃあるまいし…そんなことしないもんっ」
「失礼だな。俺は寝込みを襲ったことはないぜ?」
「で、でもっ、…たいていいきなり押し倒すじゃないっ」
「ああ、そういやそうだな…。こんなふうに」
「きゃっ」
言うなりすぐ横のベッドに2人は倒れこんだ。

「ねぇ…アリオス。1人の時間が欲しいとか思う?」
「なんだ? 突然…」
アンジェリークの視線を追い、パソコンを見つけて納得した。
「別に…。1人も悪くないが、お前といる方がずっといいしな」
「ホント?」
駆け引きを知らない嬉しそうな表情にアリオスは微笑んだ。
「それに…2人の方がイロイロと楽しいだろ?」
その笑顔はとても綺麗だが、警戒するべきものだということくらい
アンジェリークは身を以って知っていて…慌ててその身を起こそうとした。
が、なんなく彼に押さえこまれる。
「甘いぜ。ここまで来て逃がすわけないだろうが」
誘ったのはお前だぜ、と笑う彼にアンジェリークは首を振った。
「誘ってなんかない〜」

結局、せっかくアンジェリークが淹れたコーヒーはすっかり冷めてしまい、
もう一度淹れ直されることとなったらしい。 
                           
                                 〜fin〜


 



ちなみにラストの『甘いぜ』はトロワでのEDスチル、
成田ボイスでお読みください(笑)

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↑は2月頃でしたっけ…。
同人誌作る際のアンケートに答えてくださった方への
お礼として送ったものです。
その後、通販のおまけとして数名にもお送りしましたが…。

無事入稿も終わったことですし、
もう時効だろう…ということで。

しかし…相変わらずバカップルですね。



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