HONEYMOON NIGHT


「あ…雪、降りだした…」
アンジェリークは窓際に寄り、外の景色を眺めた。
今、彼女がいるのは宮殿の自室でもなければ、アリオスの部屋でもない。
『風花の街』の宿屋の一室である。
二人は皆に祝福された結婚式を終え、そのままレイチェル達にプレゼントされた一週間の
休暇を使って、新婚旅行に来ていた。
旅行先に選んだのは、アンジェリークの故郷だった。
全てを清算させた今、思い出をたどるように二人はこの宇宙を旅していた。
辛いことも楽しいこともあった。そしてあの時の約束も忘れはしなかった…。



窓を開けようとするアンジェリークの手を、ふいに後ろから来たアリオスが止めた。
「風呂上りでそんなことすんな。風邪ひくぞ」
「あ、アリオス…お帰り」
ついでとばかりにそのまま細い身体を抱き締める。
「ふふ、アリオスあったかい」
自分を包む体温がいつもよりも少し熱くて、アンジェリークは背を預けて彼を見上げた。
「シャワー浴びてきたばっかりだしな、それにお前が冷えてんだ。
 ったく、なんだってわざわざ寒い窓の側にいんだよ?」
呆れたような口調で言われ、アンジェリークは頬を膨らませて外を指差した。
「雪…降ってきたから」
しばしその光景を見つめ、アリオスは穏やかに笑った。

「前にもあったな…。こんなことが」
「そうだね」
あれは旅の途中、アンジェリークが雪見たさにアリオスの部屋を訪れたのだった。
「………」
その続きを思い出し、アンジェリークは頬を赤らめた。
それに気付かないアリオスではない。
「期待に応えてやらねぇとな」
にやりと笑う彼にアンジェリークは真っ赤になって抗議した。
「…なんにも言ってないじゃないっ」
あの時…二人で雪を見た夜、そのままはじめて朝まで一緒に過ごした。
互いにそれが禁忌だと知りつつ、求め合わずにはいられなかった。
あの旅の間は…刹那の幸せの代わりに罪悪感が伴った。
今は…過去の全てを受け入れた二人には、そこに存在するのは互いを愛する気持ちだけ。
なにも躊躇うことはなかった。

ローブの隙間から差し入れ、その柔らかなふくらみに手を這わす。
アンジェリークの身体がびくりと震える。
「…っ…ね、アリオス…」
「なんだ?」
アンジェリークはとめるようにアリオスの手を掴んだ。
はだけた白い肩に唇を落としながらアリオスは答えた。
「…昨日も、一昨日も…したよ?」
「つらいか?」
加減はしてるつもりだが、とさらりと聞き返されてアンジェリークは耳まで赤くなる。
「そ、そうじゃなくてっ…こんな、毎日……するものなの?」
恥かしさに最後の方は囁きになってしまう。
「新婚旅行だぜ? 決まってんだろ」
「…そういうもの…?」
親愛なる補佐官殿がいれば、即座にそんな決まりどこにある、と突っ込んでくれるのだが…。
あいにく、今は別の宇宙で仕事三昧である。
だから…小首を傾げているアンジェリークは丸め込まれようとしていた。


アンジェリークをベッドに運び、アリオスは彼女の上に覆い被さるように口接けた。
容易く侵入した舌が口内を探る。
「…ん……」
深さを、角度を変えて何度でも求め合う。
「アリオス…」
彼女本人は気付いていないが、すでに潤んだ瞳が彼を捕らえて離さない。
甘い声は誘うようにしか聞こえなくて…。
アリオスは苦笑しながら言った。
「これでも毎晩は嫌か?」
「…嫌、じゃないけど…その…」
見上げる純粋な視線が逸らされる。
「…こんなんじゃ…一人で寝られなくなっちゃいそう…」
「………クッ」
少女をじっと見つめていたアリオスが数秒後、肩を震わせて笑い出した。
そんなにおかしなことを言ったのだろうか、と泣きそうな顔でアンジェリークは零した。
「なにもそんなに笑わなくてもいいじゃない…」
「クッ…悪ぃ」
謝りながらも依然と笑いが収まらないアリオスを真っ赤になって睨む。
「悪いと思ってないでしょ…全っ然」
宥めるように少女の頬にキスをして、アリオスはその海色の瞳を見つめた。
「いいことじゃねぇか…。
 そのうち俺なしじゃ生きられないようにしてやるよ」
とんでもない殺し文句にアンジェリークはそれ以上のお返しをする。
「…もうなってるよ」


舞い降りる雪のような白い素肌を優しい手が探る。
前の晩に付けた所有の証をなぞるように口接ける。
その度にアンジェリークの艶やかな溜め息が零れる。
「…っや、ん……アリオス…の意地悪…」
彼女以上に彼女の身体を知り尽くしているアリオスは、弱い所ばかりを責めたてる。
「心外だな。こんなに尽くしてやってんのに」
なだらかな丘の頂をぺろりと舐め上げられアンジェリークの身体が竦む。
「あっ」
今まで与えられていた刺激を今度はその舌で与えられる。
「…っ…」
止めさせたいのか、引き寄せようとしているのか…少女の細い指先がアリオスの銀糸の
髪に触れた。その髪を梳く仕種があまりにも優しくて…ぞくりとした。
「アンジェ…」
「やぁ…っ…」
甘く噛まれてアンジェリークの身体が仰け反る。
「アリオス……」
うわ言のように名を呼ぶ声が、欲しい気持ちをさらに強める。


大腿を撫で上げられ、触れられる予感に身体が竦んだ。
「ぁ…」
濡れたそこはあっさりと彼の指の侵入を許す。彼が触れる度に淫らな音が響く。
「や、あ、アリオスっ…も…」
だんだんと激しくなる愛撫にアンジェリークは涙混じりで限界を訴える。
「いいぜ。イっても」
「や、やだっ」
シーツを握り締める小さな手が白くなる。それでもアンジェリークは即座に首を横に振った。
その可愛らしさについ苛虐心を煽られた。
普段、彼女の泣き顔は見たくはないが…この時だけは別である。
自分の腕の中で、快楽に泣く時だけは。
「どこまで耐えられるか試してみるか?」
お前の泣き顔見てるとそういう気にさせられる、と苦笑した。
アンジェリークは再び首をふるふると振った。
「そ…じゃなくて…。一人じゃ…やだ。
 …アリオスも、一緒じゃなきゃ…」
その外見以上に可愛らしい願いに征服欲も殺がれる。
アリオスは優しい眼差しで彼の天使を見つめた。
それは彼女にしては珍しい誘いの言葉。

「力抜いとけ」
少女の足を肩にかけ、アリオスはその身を割り込ませた。
彼だけに許された道を奥まで辿り、強張る身体を宥めるため口接ける。
いつもの彼の気遣いにアンジェリークは微笑んだ。
「アリオス…大好き」
その微笑みを合図にアリオスは動き始める。
絡みつく花と突き上げられる刺激が二人を繋ぎ、意識をも溶け合わせる。
「あ…っん……」
動きに合わせて甘やかな声が漏れる。それがまたアリオスを促していく。
「…ぁ…アリ、オスっ……や…も…ダメ……っ」
「アンジェ…っ」
昇りつめ、頬を伝う涙が窓からの雪明かりに照らされていた。
こんな時でも…こんな時だからこそ、彼女は自分の輝きを手放さない。
それが眩しくて、だけど同時に自分の腕の中で乱れる少女に対抗心もあって…。
(いつかお前を俺で染め上げてやるよ)
そんな宣戦布告を胸に、今はその思いをただ解き放った。





「アリオス…」
「ん?」
彼の広い胸に頬をすりよせながらアンジェリークは微笑んだ。
「私とっても幸せよ」
「そんなに良かったか?」
分かっててからかう彼の言葉にアンジェリークはそれでも素直に真っ赤になった。
「ばか…。私、アリオスのお嫁さんになれて本当に幸せよ。
 以前はこの願いは叶わないものだと思ってたから…」
「アンジェ…」
アリオスは華奢な身体を強く抱きしめた。
先程のような熱さではなく、心地良い暖かさが互いの肌を温める。
「それに、今日はオーロラ見ることが出来たしね」
アンジェリークも彼の首に抱きついた。

それが今回、ここに来た目的だった。
初めて岬を訪れた時に一緒に見ようと約束して…
その約束を盾に二度目に訪れた時は、オーロラは現れてくれなくて…
まぁ、オーロラの出現など本来は運試しのような確率なのだが。
そのあとは…一人で行こうという気は起きなかった。
一緒に見なくては意味がない、そう思っていたから。
アルカディアで…星見の塔で見た時も感激したが、約束したのはこの地だから…。
実際にここで光のカーテンを目の前にした時、なにも言葉が出てこなかった。
ただ泣くことしかできない少女をアリオスは抱き締めていたのだった。
「やっと約束果たせたな」
「ありがとう…旅行先、ここにしてくれて。
 アリオスは…本当はこの宇宙には来たくないかとも思ったから」
「もう過去のことだ。…それにお前との約束は絶対だからな」
「アリオス…」
ありがとう、とアンジェリークは彼の頬にキスをした。


たぶん…それが彼に火をつけた…と思われる。
「ア、アリオス…?」
一瞬で体勢が逆になり、組み敷かれたアンジェリークはイヤな予感に青ざめる。
「あの…明日は眠れる大地の惑星に行くんだよ、ね?
 その次の日は蒼き群島の惑星とか…白銀の環の惑星とか…」
言外にもう寝ようよ、というアンジェリークの提案はあえなく却下された。
「アリオス〜」
「夜は長いんだぜ?」
「朝も早いのよ〜」
「多少寝坊しても困らねぇよ」
「でも…」
結局許してしまう自分は彼に敵わない、と思いつつアンジェリークは甘い溜め息をひとつ零した。


旅行中、彼女を愛しすぎた罰なのか…
その後、宮殿に帰った彼を待っていたのはアンジェリーク以上に積み上げられた仕事と
彼女も忙しかった為にくらった一週間のおあずけだった。
…それでも、自他共に認める幸せな新婚カップルだったのは言うまでもないが。


                                              〜fin〜



最初と最後はすらすらと書けましたが…
やはり例のシーンは時間がかかります(笑)

パソコンを前に固まってしまうんですよ。
いや、一応気を使うべき内容だし…
言葉の表現とか、その他いろいろ。
ごめんなさい、これが私の精一杯です。

リクエストには応えられたでしょうか?


 

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