make love
「アンジェー、私今日クラブなくなったんだけど、なんか予定ある?」 最近クラブと寮長の仕事で忙しかったレイチェルの久しぶりのお誘いに アンジェリークはぱっと嬉しそうな顔をした。 そんな親友の表情は抱き締めたくなるほど可愛らしい。 しかし、すぐにその顔が曇る。 「あ、でも…今日は用事が…夕方までならあいてるけど」 「あー、デートだなー」 最近恋人ができたという報告を受けたレイチェルのひやかすような笑みに アンジェリークは頬をかぁっと染める。 「や、あの…デートっていうほどのものじゃ…」 どうせ彼の仕事が終わる夕方までは暇だし、今日はどこも行かず、 彼の家で夕飯を作って一緒に食べるくらいなのだ。 最近、彼が外出できるほどの時間があかない、という理由と 外を出歩くよりも落ちついていられる、ということで マンションで過ごすことも増えてきた。 しどろもどろにアンジェリークは弁解をする。 ただ単に彼との『デート』という言葉にまだ照れがあるようである。 そんな彼女の様子にはお構いなしにレイチェルは彼女の手を引いた。 「んじゃー、彼とのデートまでは私とデートしよ♪」 (一体どんなヒトなんだか知らないけど、たとえ恋人でもアンジェを 一人占めなんてさせてあげないんだから) 「うん」 レイチェルの密かな対抗心など露知らず、アンジェリークはにっこりと微笑んだ。 「でねー、今日はレイチェルと映画観て、お茶して…ていうデートしてきたの」 くすくすと笑いながら昼間のことを話すアンジェリークをアリオスは 優しい表情で見下ろしていた。 「ほー、土曜の午後はデートのはしごか…。いい身分だな」 しかし出てくるのは少女が困ってしまうだろうからかいの言葉。 そして少女が自分を見上げる時にはわざとらしい不満げな顔。 「え、や、でも、ほら…アリオスとレイチェルだとデートの意味が違うし…」 案の定、本気で戸惑い自分を宥めようと必死に言葉を探している。 そんな彼女がとてもかわいくて愛しい。 「違うって証拠、見せてみろよ」 わざわざ背を屈めて少女の耳元で言うと、真っ赤になって逃げようとする。 「バ、バカっ…。なにも今そんなこと…」 「泡、床に落とすなよ」 「う…」 逃げようとしたアンジェリークがその言葉にぴたりと止まる。 今は、二人で食事の後片付けをしているところなのだ。 アリオスが洗って、アンジェリークがそれを濯いでいく。 洗った食器を持っているアンジェリークは流しから離れられない。 「もう…」 頬を膨らませ、上目使いで睨んでいたアンジェリークが瞳を閉じた。 唇が触れ合う寸前、狙いすましたかのように鳴り響くアリオスの携帯の着信音。 びくっとアンジェリークが瞳を開けるのと同時に、微かな舌打ちが聞こえた。 「アリオス…電話」 「ああ」 不機嫌さがもろに出た顔で、手についた泡を流す彼を見てアンジェリークは 苦笑し、電話をかけてきた相手に同情する。 きっといつにも増して冷たい彼の対応に、かけたことを後悔するだろう…。 「アンジェ」 「ん? …!」 ぼーっと電話をかけてきた相手のことを心配していて、呼ぶ声に素直に 振り向いたら不意打ちで一瞬、唇を奪われた。 「ア、アリオス! 早く電話に出なきゃ」 「続きはあとでな」 「バカっ」 ひらりと手を振ってリビングへ行く彼の背中に、アンジェリークは 真っ赤になって口癖となりつつある言葉を投げかけた。 「…ああ、わかった。お前に心配されるようなヘマするかよ。じゃあな」 最初は不機嫌だったアリオスの声が、電話を切るころにはもとに戻っていた。 (短い会話だったけど…いいお話だったのかな…?) アンジェリークは洗いものを終わらせ、リビングへとやってきた。 ソファから見えるアリオスの銀に輝く髪を見つめながら そっとその後ろに近付く。 ソファの後ろから少し身を乗り出して、アリオスの首にきゅっと抱きつく。 そして心配そうにアリオスに尋ねた。 「お仕事?」 その実に可愛らしい仕種にアリオスは苦笑した。 別にアンジェリークが詮索好きというわけではない。 ただ、彼女にそう思わせる程度にはアリオスには前科があった。 デートの直前、最中、何度こうやって仕事の呼び出しを食らったか…。 アンジェリークは何度そのまま電源を切りそうになるアリオスを慌てて止めて、 仕事へ向かわせたことか…。 「違う、仕事じゃねぇよ」 「そ…きゃあっ」 後ろでほっと息をついたアンジェリークを、アリオスは軽々と持ち上げ 自分の膝の上に移動させた。 「アリオスっ」 顔を赤らめ、おろして、と言う少女を腕の中に閉じ込める。 「続きはあとでって言ったよな」 「だ、って…もう帰んなきゃ…」 アリオスの甘い囁きにアンジェリークは俯いて視線を逸らす。 「泊まっていけよ」 「でも…んっ」 断る言葉は激しいキスで遮られて。 耳元で囁くついでとばかりに耳朶を甘く噛まれて。 「ゼフェルは今日、帰らない」 さっきの電話がその報告だったのだ。 「…だけどっ…」 力の抜けた身体がテーブルの上に横たえられ、その冷たさにびくりと震える。 固く閉じてしまった瞳を開かせるように、アリオスは瞼に口接けた。 「アンジェリーク…」 この状況で、息が触れる至近距離で、色違いの魅力的な 瞳に見つめられて…さすがに鈍いアンジェリークでも 何を意味するかは気付いた。 「で、でも…その…」 「いやか?」 本音を言えば、心の準備がまだです、また後日、日を改めて… そう即答したかったが……。 彼の求める瞳から目が逸らせない。 自分の心臓の音がやけに大きく早く聞こえる気がした。 どうしようという思いが頭の中でぐるぐると回る。 「いやならはっきり言ってくれていい」 一瞬だけみせた彼の寂しそうな表情にアンジェリークの胸が痛む。 「………あの、ね……ここじゃ…やだ」 真っ赤な、泣きそうな顔で視線を逸らし、アリオスのシャツの裾を握って 遠回しな同意を示すアンジェリークをアリオスは微笑んで抱き上げた。 「それもそうだな」 恥かしさで彼の胸に顔を埋めていたアンジェリークには見えなかった。 内心で舌を出している、彼の満足そうな笑みを…。 この少女はあの寂しそうな表情がまさかフリだとは気付くまい。 役者でもやっていけそうな彼は彼女を抱いて自分の部屋へと向かった。 「ア、アリオスっ…あの…お願い…明り……」 「わがままな姫だな」 「だって…」 アリオスはくっと喉を鳴らし、彼女の頬にキスすると部屋の電気を消し、 ベッドサイドの柔らかな光を放つライトだけをつけた。 「これでいいか?」 ベッドの上で座ったまま固まってしまった少女を苦笑しながら優しく抱き締める。 「怖いか?」 「…ちょっとね…。あ、でもね…やだってわけじゃなくて…」 必死な表情で自分の気持ちを伝えようとしているその姿が愛らしい。 「アリオスだから…アリオスなら…その…」 「それで十分だ。俺を信じろ」 アリオスは安心させるように微笑むとぱさりとシャツを脱いだ。 露になる彼の胸板に心臓が跳ねた。 どうして彼は男の人なのにこんなに綺麗なんだろう、と。 「…うん」 その落ちついた低い声が安心させてくれる。 優しく抱き締めてくれる腕を信じられる。 アンジェリークは素直に頷いて彼のキスを受け止めた。 「…んっ…」 激しく求めるキスの合間に微かに声がもれる。 彼女のまだ慣れない舌を絡めとりながらも、アリオスは実に器用に アンジェリークの服に手をかける。 それを止めようとする少女の動きを封じるように首筋に口接けた。 そしてブラウスのボタンを外したあとを追って唇を落としていく。 「や、アリオス…待って…」 ホックを外されて、アンジェリークはさすがに羞恥に耐えられなくて 滑り落ちかけたそれごと自分の身体を抱き締めた。 「待たない」 キスを仕掛けて抵抗する力をなくしてしまう。 「…ずるい。アリオスのバカ〜…」 潤んだ瞳で睨まれて、甘い声で抗議されて… そのアンバランスさに狂わされる、溺れていく。 「恥かしがることない。お前は綺麗だ」 「……っ…」 真っ白な絹のような肌に唇と手を滑らせる。 びくりと震える彼女を安心させるように、アリオスはいつもの優しいキスを贈った。 「大丈夫だ」 不安と欲望に潤む海色の瞳をのぞきこみ、微笑んでやる。 「うん…」 アリオスは頷く少女の額にいいコだ、とキスをした。 「…っや…」 ふいに漏らした自分の声が、やけに甘くてまるで他人のもののようで… アンジェリークは真っ赤になって口元、というか顔を覆った。 それでも柔らかなふくらみを包む彼の手は離れない。 「アンジェリーク…」 「や、やだやだっ…見ないで、聞かないで」 彼女らしすぎるその反応にアリオスは笑った。 「俺はお前のどんな顔でも声でも好きだけどな」 「………」 ちらりと指の隙間からこちらを窺う仕種にアリオスは頷いた。 「お前が俺に応えた証拠だ」 彼女の感じた証を口に含むとアンジェリークは切なげな声を漏らした。 舌先で、歯で、触れるたびに背中が仰け反る。 全身で反応してくれるその様子がアリオスを喜ばす。 「お前がどれだけ鮮やかに、俺の腕の中で乱れてくれるか… 楽しみにしてる」 「〜〜〜バカっ、えっち!」 その瞳に涙が滲んでいようとも、荒くなる呼吸のなかでも、 彼女の抗議は健在らしい。 またそれも煽るようにしか見えなくて、これはこれで楽しいかもしれない、と アリオスは肩を震わせて笑った。 「…っん、…ア、アリオスの…うそつき〜」 「なにがだよ?」 「やっ…ん、全然……大丈夫、なんかじゃ……」 まだ誰も触れたことのない花を長い指先で探られ、アンジェリークはポロポロと 涙を零している。彼に刺激を与えられる度にどこか思考が壊れていく気がする。 「身体…熱くて…。も…なにも、考えられな…… や、やぁぁ、やだ、ダメっ、待ってっ」 「クッ、何も考えられないんじゃなかったかよ」 開かされようとした脚をアンジェリークは必死になって閉じようとする。 「だ、だって…」 ねだるような彩の瞳をしておきながら、いまだに抵抗してしまう。 少女の意外に強情な面にこれはある意味拷問だろう、とアリオスは苦笑した。 「楽にしてやる」 宥めるようにわざと音を立てて少女の頬にキスをする。 今度はアンジェリークは抵抗しなかった。 しなかったというよりも何も出来なかった。 すでに十分に潤ったそこを舌がさまよい、蜜を舐め取る。 「ふっ…ぁ…ア、リオス……アリオス…」 初めて感じる不可思議な波にどう耐えたらいいのか分からない、 そんなようすで救いを求めるように彼の名を呼ぶ。 それに応えるようにアリオスは彼女の頬を優しく包み、口接ける。 「アンジェリーク…愛してる」 滅多に聞かせてくれない本気の『愛してる』にアンジェリークは目を見張る。 いつもは言ってくれないか、冗談混じりに言うだけだった。 上気した頬で、今夜初めて素直に嬉しそうに微笑む。 うっすらと汗ばんだ彼の首を抱き、引き寄せ、彼女から口接けた。 「アリオス…好き…愛してる」 それはアリオスが仕掛けるような洗練されたものとは違い、触れるだけのもの。 だけど花のようにやわらかくて優しい唇とキス。 きっとそれは一生彼の胸のなかに刻み込まれる。 「っっ! …んっ…う…」 あまりの衝撃に声を殺して耐え、彼の首に回す腕の力が強くなる。 苦しげに眉を寄せて声を押し殺して耐えるその姿は、不謹慎だとは思ったが さらに彼を昂ぶらせる。 「アンジェリーク…」 苦痛を和らげるかのようにアリオスは少女の名を呼び、顔、身体中に キスを贈った。 「アリオス…も…大丈夫…」 微笑もうとする少女の唇にアリオスはそっと口接けた。 「お前だけだ…欲しいと思ったのは」 こんなに溺れるとは思わなかった、と白状する。 「アリオス…」 アンジェリークはふわりと微笑んだ。 「……ん、あ、あれ? 今何時?」 「まだ30分と経ってねぇよ」 目が覚めるとアリオスの引き締まった胸が目の前にあった。 そして抱き締めてくれている腕と温かく包んでくれる彼の香りを感じる。 「…えーと…」 「あの後、お前気ぃ失ったんだよ」 「あ…」 アンジェリークの頬がかぁっと染まっていく。 おぼろげながら覚えている。 何度も突き上げられ、限界に達し…。 「〜〜〜っ」 どれだけ自分が淫れたか…恥かしくてとても顔など見せられない。 彼の腕の中でアンジェリークはくるりと反転した。 背を向けられたアリオスは苦笑しながら彼女を強く抱きしめ、項に口接ける。 「きれいだった」 「え?」 びくん、と反応しながらもアンジェリークは顔だけアリオスに向けた。 本当? ヘンじゃなかった?と訊く瞳にアリオスはいつもの不敵な笑みを見せた。 「確かめてみるか?」 「?」 「もう一度」 「ええ〜」 どうせ明日は休みだろ、と言う彼の一言と、お断りしても聞いてくれないだろう 彼の意地の悪い微笑みにアンジェリークは勝てなかった。 翌日、初心者相手にけっこうハードなスケジュールをこなしたアリオスは アンジェリークに怒られた。 といってもアンジェリークはその行為自体を怒ったわけではない。 ただ、起きてからレイチェルに何も告げず、無断外泊してしまった、 と気付き、青ざめたアンジェリークにアリオスはあっさりと言ったのだ。 「それならお前の携帯からメールで連絡いれといた」 「あ、ありがと」 それならばたぶん彼女を心配させるようなこともないし、無断外泊も寮側には ばれていないだろう。 「なんていれたの?」 「『デート 朝まで延長』ってな」 「なっ…」 簡潔すぎるその内容にアンジェリークは笑顔が固まり、絶句する。 「も、もっと気の利いた言葉はなかったのー?」 これでは昨夜の自分の状況はきっと彼女に正しく推測されているに違いない。 「どんな顔して会えばいいのよ〜。アリオスのバカ〜」 このように彼ららしいと言えば彼ららしいが、恋人同士の後朝にしては ずいぶんと情緒のない雰囲気だったのは確かである。 〜fin〜 |
いつものバカップル創作の10倍は時間と 労力をかけました(笑) 感想はぜひ聞きたいような もうそっとしておいてくれ、というような 複雑な心境です…(笑) 今までも皆様の反応が怖いと 何度か書きましたが 今回ほど怖いものはありません…。 |