恋人達のルール
「あ…っ、待って…も、ダメ…」 深夜の寝室に乱れた吐息と泣きそうな声が響く。 「待たない」 しかし彼女の懇願はあっさり却下し、アリオスは少女の濡れた身体に口付ける。 「っ!」 敏感なところをキツく吸うとびくりと背を浮かせて反応する。 「ほら、まだいけるだろ?」 口の端を上げる彼をアンジェリークは潤んだ瞳で睨み返す。 「い、いじわるっ…アリオスの、ばか! …あっ」 つっと舌で上気した肌をなぞれば、甘い刺激に身を震わせる。 「文句言う元気もあるみてぇだしな…?」 可笑しそうに煌くその瞳にアンジェリークはしまった、と後悔した。 すでに何度昇りつめたか分からない。 彼の想いの激しさは嬉しくもあるし、受け止めてあげたいとは思うけれど…。 手離しそうになった意識を繋ぎとめるかのようにアリオスは アンジェリークに口接けた。 「まだ終わってねぇだろ?」 アンジェリークが応えるようにその背に腕を回せば、さらに引き寄せるように 大きな手が栗色の髪に潜り、後頭部を支えてくれる。 「…んっ…ふぁ…っやぁ」 絡む舌にやっとのことで応えられるアンジェリークにはひとつになっている 状態でのキスは難易度高である。 びくりと身体を仰け反らせ、甘い悲鳴をあげる。 僅かに離れた2人の口を透明な糸が名残惜しげに繋げ、そして切れた。 いきなりキスを中断させられたアリオスは、苦笑しながら 少女の髪をくしゃりとかきまぜる。 「なんだよ。 動いてねぇだろ?」 「でも……〜〜」 ほんの少しの身動ぎにすら敏感になった身体は反応してしまう。 アンジェリークは真っ赤になって口篭った。 「くっ…お望みなら動いてやるぜ?」 「…いらない、って言っても聞いてくれないような気がするけど…?」 アンジェリークは染まった頬を膨らませて余裕の笑みを浮かべる彼を見上げる。 いつだって彼のペースなのだ。 自分は敵わない。特にこういう場面では。 だから…。 アリオスの首に回した腕を引き寄せて触れるだけのキスをする。 先程までの官能的なキスではないけれど…。 「…して?」 アンジェリークの恥じらいながらの精一杯の背伸び。 彼を狂わすには十分だった。 アンジェリークがはっきりと覚えていたのは仕掛けたアリオスですら 息を乱すほどの激しいキスをしたことくらいだった。 その後のことはぼんやりとしか思い出せなかった。 目を覚ましたアンジェリークは億劫そうに腕を伸ばして時計を確認する。 窓の向こうが明るくなってきている。夜明けまであと少し…。 時計を元に戻してアンジェリークは息をつく。 気怠い感覚に明日が休日でよかった、と思う。 明日が休日だからこそアリオスが手加減してくれなかった、という 論理も成り立つが…。 「アリオスのえっち…」 自分を抱いたまま眠っている彼の整った顔を見つめて囁く。 しかしアンジェリークの表情はやわらかい。 彼をもっとも近くに感じる時間は嫌ではない。 ただ…ものには限度というものがあるだけで。 「くっ…それが目ぇ覚まして一番に言うことかよ」 「起きてたの?」 「お前が目を覚ました頃にな」 寝起きの良い彼ならば頷ける。 「でもアリオス、言われるだけのコトは絶対してるんだからね」 アンジェリークは頬を膨らませてみせる。 「お前だって楽しんでたろ?」 本気で嫌がる女を抱く趣味はないぜ?と平然と返すアリオスに呆気に とられながらもアンジェリークは言い返す。 「っ…で、でもっ…私、アリオスほどは体力ないもの…」 さすがにその時は良くても明け方までそういうコトをしていれば 翌日の活動に支障をきたしてしまう。 けろっとしているアリオスが普通ではないのだ、とアンジェリークは思う。 訴えるような瞳にアリオスは「さてどう誤魔化すか…」と密かに頭を回転させる。 「そうだな…。 じゃあ、お前が俺を満足させられるようなキスしたら終わらせてやるよ」 「へ?」 突然の提案にアンジェリークは目を丸くする。 そしてどういうことだろう?と首を傾げる。 「お前がもう限界だ、と思ったらそういうキスしろよ。 最後の締めくくりに相応しいのができたら終わりにしてやるぜ?」 「………」 なんとも勝手な提案。 しかし、それもいいかも、と思ってしまうアンジェリークは末期症状である。 「もう今日はムリ、って思ったらキスすればいいのね?」 「ああ」 アリオスが口の端を上げて頷く。 大抵、気を失うように眠りにつくアンジェリークとしては最後にキスができて、 「おやすみ」をちゃんと言えて眠れるのはなんとも魅力的な提案に思えた。 「分かったわ。決まり、ね」 ふわりと笑うアンジェリークにアリオスは勝者の笑みを浮かべる。 もしくは罠にかかった獲物を前にした表情…。 「ってことで寝直す前にしてみろよ。 まだ今日はしてねぇだろ?」 「え、いきなり? 今度からじゃないの?」 心の準備が出来ていないアンジェリークが戸惑うとアリオスはにやりと笑った。 「あいにく、俺としては時間があるなら寝るよりお前を抱いていたいんだよ」 「っ」 す…と肌をすべる指先にアンジェリークはぴくりと震える。 「『終わり』の合図がねぇ以上、遠慮なくいただくぜ?」 「〜〜〜」 アンジェリークは観念してアリオスの首に腕をまわした。 アリオスも受け入れる為に手の平で包み込めてしまいそうな 少女の栗色の頭を引き寄せた。 「…ん…は、ぁ…」 息苦しさに僅かに眉を顰めて、積極的に舌を絡ませる。 拙いくせに艶っぽいその表情を愉しみながらアリオスは少女のキスを味わう。 もし見られている、と気付いていたらアンジェリークは恥ずかしさのあまり 逃げ出したことだろう。 自分からは触れるだけのキスしかできないアンジェリークにとって とても長い時間のように感じた。 「どう、かな…?」 はぁ、と肩で息をついてアンジェリークはアリオスを見上げた。 彼のキスはとても巧みで気持ちよくて…それを思い出しながら 真似てみたけれど、最終的にはアリオスにリードしてもらった気がする。 テストの結果をもらう時のような心境でアンジェリークは彼の答を待つ。 「きゃっ…アリオス?」 ふいに胸元に口付けられアンジェリークは声を上げた。 「ったく…。 俺は締めくくりに相応しいのをしろって言ったんだぜ?」 「んっ…ダメ…だった?」 頑張ったのに…と、しゅんとしながら銀色の髪を見下ろす。 肌に吐息を感じて彼が笑ったのだと分かった。 「その気にさせるキスしてんじゃねぇよ」 「………? なっ…」 白い肌に散る紅い花びらを増やしながら言ったアリオスの言葉を 理解するまでに数秒。彼の企みに気付くまでさらに数秒。 遅れに遅れてアンジェリークは気がついた。 「ず、ずるいずるいずるい〜〜っ」 「何がだよ?」 「本当は終わらせてくれる気なんかないんだ〜」 「人聞き悪いこと言うなよな。 俺は約束破ってないぜ?」 『最後の締めくくりに相応しいのができたら終わりにしてやる』 確かにアリオスがそう思えなければ、約束を破ったことにはならない。 この判断基準…とてつもなくアリオスに有利である。 「騙された〜」 「心配すんな。お前の限界は俺が知ってる。 俺が手を出してる間は大丈夫だぜ?」 「………」 気遣ってくれているんだか強引なんだか分からない。 じっと見上げるアンジェリークの額にアリオスはふっと笑って口付けた。 「惚れた女に本気で無茶させるわけねぇだろ」 綺麗な翡翠と金の瞳と魅力的な笑みと心地よい声で紡がれる嬉しい言葉。 「アリオス…大好きv」 アンジェリークはきゅっとアリオスに抱きついた。 …本当に彼には敵わない。 幸せな気分でアンジェリークは微笑んだ。 新しく出来た2人だけのルール。 結局、それが施行されたことはまだ一度もない。 アンジェリークが何度か試みているもののお互いを燃え上がらせるだけに しかなっていないらしい。 おそらくこの先もこのルールが実際に適用されることはないと予測できる。 たとえそうだとしても… 甘い時間を楽しむ2人がそれを気にすることもないのだろう。 〜 fin 〜 |
アリ(レヴィ)コレで活動しておきながら実は今までスケブを お願いしたことがなく…ようやく2003年のSCCで描いていただきましたv その時運良く(?)、エロイラストを描きたいモード だったらしく「エロでいいですか?」と聞かれたので すかさず私は「はい!思う存分描いてください!」と…(笑) 貴重なイラストを頂いたので、「お礼にこれを元に創作書きます」と 半ば押し付け的に(笑)リクエストがあればそのようにします〜、と。 リクエストは「男らしいアリオス」。 …書けたのかな…男らしい、よりもケダモノ…? 設定はあえて明言しなかったのでサイドでもパラレルでも みなさまのお好きな2人を想定してくださいv ちなみに頂いたイラストは濃厚キスシーンです。 あ、でもたまたまそういう気分だっただけかもしれないので スケブお願いする時にいきなり「エロイラスト描いてください」とは 言っちゃダメですよ? それを世間一般ではセクハラと言います(笑) 今回は特殊な例ということで…。 藤枝あこさま、本当にありがとうございました♪ |