Shining Star
- 裸足の女神 -
初めて見たのは撮影中の彼女。 「がんばってね」そう言って、親友役の少女に微笑んだ。 「………」 この撮影を仕切る監督が友人だという理由だけで、 ふらりと見学に来ていたアリオスはスタジオの端でその少女を眺めていた。 あの微笑みにぞくりとした。 特別美人というわけではないのに、惹きつける。 人の心にすんなり入り込める雰囲気。 美人や美形を見慣れている周囲の者さえ見惚れさせたその表情。 自分が撮りたいと思った。 今度の映画にぴったりの役がある。 スタジオの出入り口にいたせいか、運良く簡単に彼女との接触は叶った。 ちょっとからかうと、うろたえたり膨れたり…。 打てば響くように反応が返ってくる。 撮影の時とはまた違う、くるくると変わる表情に惹かれた。 アリオスの中で彼女を撮りたいという希望は、すでに彼女を撮るという決定事項になっていた。 彼女が帰った後、早速、友人に彼女のことについて聞いてみた。 「アンジェリーク、か…」 「だが天下のアリオス監督が使いたいって思っても無理だぜ?」 「なんでだよ?」 面白くない忠告にアリオスは眉を顰める。 聞けば彼女は役者ではないという。 たまたま親友に頼まれて1シーンだけの出演をようやく承諾してくれたのだ。 映画出演など無理に決まっている、と友人は肩を竦めた。 「生憎、俺は欲しいと思ったら手段は選ばない主義なんでな」 アリオスは動じる様子もなく、不敵な笑みを見せた。 「会って説得して、その気にさせるまでだ」 「……アンジェちゃんもやっかいなやつに目ェつけられたな…」 どうあっても彼女をこの手で撮りたいと思った。 今までその直感に従って動いて失敗した試しはない。 そしてアンジェリークが撮影に途中から参加することとなった日。 本当はスタッフが駅まで迎えに行く予定だったが、撮影中のトラブルでまだ行けない。 すでに彼女が駅に到着する時間。 舌打ちをし、一瞬自分が迎えに行こうかとも思った。 もちろん、監督である自分が今抜けるわけにはいかないのだが…。 ふと椅子の上に置きっぱなしにしていた携帯が目に入る。 どうやら目を離していた間にメッセージが入れられたようだった。 「アンジェリークです。みなさん忙しいみたいだし、一人でホテルに行きますね。 ちゃんとアリオス監督にもらった地図持ってるから大丈夫ですよ」 駅からは歩いても10分ほどの距離。 しかし、それ以上の時間は経ったのに少女の姿は見えない。 「様子見に行ってくるか…」 今日の撮影は終わったのでアリオスは海沿いの道を駅に向かって歩き出した。 「………あんなとこにいやがった…」 あやうく見過ごして駅まで行ってしまうところだった。 探した少女の姿は道を降りた砂浜にあった。 裸足になって波打ち際をはしゃぎながら歩いている。 「人の気も知らねぇで…」 アリオスは前髪をかきあげ、溜め息をついた。 本人には伏せていたが、実は事務所から推されていた役者やアイドルを却下して アンジェリークを選んだのだ。 もしや、という心配があった。 彼女が出演できなくなれば、他の者達にチャンスが巡ってくる。 「……杞憂ですんでよかった、てことにしとくか…」 アリオスははしゃぐ少女を眺めながら苦笑した。 日の光を受けて煌く水飛沫を楽しんでいる。 その笑顔、表情をこの手で撮りたいと思った。 しかし、同時に誰にも見せたくないような気もしたが…。 がらにもなく散々心配させられ、探し回ることになったのは少々悔しくて、 わざと後ろから声をかけた。 お約束とばかりに振り向きざま、波に足を取られた少女は波間にしりもちをついた。 それでもアリオスを見つけて見せた少女の笑顔はとても印象的で…。 アリオスも笑いながら少女に手を差し出した。 「…ったくお約束だな。 大丈夫か?」 〜 Shining Star 本編へ 〜 |
コピー本の方のおまけが後日談的内容だったので こちらのペーパー用創作は予告編を意識して作りました。 せっかくなのでこれも公開です。 |