SLEEPING CINDERELLA

4 「幸せの黄色いリボン」

 その日の夜、アンジェリークは、レイチェルに報告がてらの電話をした。
「無事に終わってよかったよ、アンジェ!」
「うん・・・」
 電話口のアンジェリークはいつもの元気がなく、寂しそうに、レイチェルには思えた。
「何かあったの、アンジェ」
「何でもないよ・・・」
 益々元気がなくなり、切なそうな溜め息ばかりが受話器を通して聞こえる。
「まさか、誰かを好きになったとか?」
 まさに図星だった。アンジェリークはすっかり黙り込んでしまい、それはレイチェルにその通りだと伝えているようだ。
「そう・・・、か・・・」
 電話口からアンジェリークの忍び泣きの声が聴こえ、レイチェルも、自分のことのように切なさを覚える。
「リボンだけがね・・・、彼について行っちゃった・・・」
 しゃくりあげながら何とか話したが、次の言葉が続かない。
「ごめんね・・・、・・・、今、混乱してて、ちょっと話せそうにない・・・」
「ね、明日になったら話してくれる?」
「・・・うん・・・」
 やっとのことでアンジェリークは答える。
「じゃあ、明日、アナタの休憩時間を見計らって、バイト先に行くからさ、その時話して?」
 「ん・・・」
「じゃあ、あしたね、おやすみ」
「お休み・・・」
 電話を切った後も、アンジェリークは眠れなかった。
 アリオスのことを思うと、胸が張り裂けそうになる。
 彼女は、彼によって、本当の意味で恋をすることを知ったのだ。
 眠れなくても、食欲がなくても、働きにいかねばならないと、少しふらつく体を押して、アルバイトへと向かった。



 アリオスは、昨夜の親善パーティの事務局にコネを使い、"黄色いリボンの少女”について調べた。
 あれっきりにはしたくなかった。
 どうしてももう一度逢いたかった。
 逢って、出来ることなら、ずっと一緒に入れるものならいたいと、彼は思いつめていた。
 アリオスもまた、どうしようもないほど恋に落ちていた。
 彼は、アンジェリークが"レイチェル・ハート”として登録していたために、彼女のことをすっかり"レイチェル”だと思っていた。
 途中で彼女のために白い薔薇の花束を買い、それを愛車に載せて、住所を頼りにレイチェルの家へと向う。
 黄色いリボンと共に、薔薇の花束を持ったアリオスは、レイチェルの家のインターホンを押す。
「はい」
 インターホンに出でたのは、レイチェル本人だった。
「アリオスと申しますが、レイチェル・ハートさんはいらっしゃいますか?」
「ワタシですが?」
「え?」
 余りにも印象の違う声に、アリオスは怪訝そうに眉根を寄せる。
「昨日、"クィーン・ロイヤル・ホテル”のパーティで・・・」
「あっ!! チョ、ちょっと待ってください」
 ひょっとして、アンジェリークが恋をした相手かもしれない。
 レイチェルは、慌てて玄関へと向かい、ドアを開けた。
 出てきた少女の印象の違いに、アリオスは驚愕した。
 そして、レイチェルも息を飲んだ。
 彼が持っているリボンは、まさしくアンジェリークのものだからだ。
 レイチェルは確信をもつ。間違いない、彼だと。
「すまねえ、人違いだ」
「待って!!」
 帰ろうと踵を返したアリオスを、レイチェルは必死になって呼び止めた。
「昨日、ワタシの友人のアンジェリークが代わりに、そこに行ってくれたんです」
「え・・・、じゃあ」
「彼女の居場所を教えます。早く行ってあげてください。彼女もおそらくアナタのことが・・・」
 レイチェルは、素早くメモにアンジェリークのアルバイト先を書くと、それをアリオスに手渡す。
「サンキュ!! 助かった」
 お礼もそこそこに、彼は、自分の車に飛び乗り、そのままアンジェリークの元へと向かう。
 その姿を見送りながら、レイチェルはにんまりと微笑んだ。
「お互いに一目ぼれなんてスゴイね!! ひょっとして、ワタシが二人の愛のキューピッドかしら? きゃは☆ エルンストに自慢しよ!!」


 アンジェリークは、ぼんやりと、カフェでの仕事をこなしていた。
 カフェの横に、ひときわ目立つシルヴァーメタリックのスポーツカーが止まった。
 ドアが開き、長い足が地面へと降り立つ。
 その瞬間、誰もが注視する。
 優雅に姿をあらわしたのは、不思議な瞳を持つアリオス。
 アンジェリークは、その姿を見つけ、息を呑む。
 嬉しさで体に震えが来る。
 彼は、車から白い薔薇の花束と黄色いリボンを取り出して、肩に担ぐように持ち上げた。
「ちょっと、こっちに来るわ!」
 一緒にいた同僚が黄色い声を上げる。
 周りの注目の元、優雅に歩みを進めるアリオスの足は、ピタリとアンジェリークの前に止まった。
「リボン返さなきゃな。探したぜ? ----アンジェリーク!!」
 アンジェリークの表情に泣き笑いが起きる。
「おまえに運命を感じた。俺は総てにおいてお買い得だぜ? 試してみるか?」
「アリオス!!」
 アンジェリークは、アリオスに子犬のように飛びついて、彼はそれを受け止めた----

 THEY LIVED HAPPY EVER AFTER!!
THE END

 


コメント
「Searet Jardin」の葵瑠美様に、「天空なアリオス」の情報のお礼としていただいた、「天使の休日」のお返しに書かせていただきました。
童話のパロディということで、「シンデレラ」を書きましたが、長い上に、ヘボくてすみません!!!m(_)m
リクエストの趣旨に反してるな〜。すみません、クーリングオフしてください。
あんな、ステキで、可愛くて、tinkの大好きな作品のお返しがこれだとは。
首を洗って、反省します。
最近スランプだわ・・(いつもだろーが)



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tink様
クーリングオフだなんてとんでもない。
素敵なシンデレラストーリーです!
この2人のダンスシーンはすごくハマってますよね。
そしてさっさとアンジェを見つけ出す行動力はさすが。
アリオスさん、その間のお仕事は?(笑)
そして最後のセリフに私はオチました。
確かに彼はお買い得でしょう!
あんな風に売りこまれたら、
yesとしか答えられないですよ。
即、買いです!

tink様、ありがとうございました!

 

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