不思議の国のアリオス


よく晴れた木の曜日。
広い野にポツンと佇む大樹を日除けに、柔らかな青草をベッド代わりに
した俺は、両手を頭の下で組んで、ゆったりと流れて行く雲を眺めていた。

青空を自由にたゆたう白い雲を眺めているのが、俺の趣味。
・・・なんて言ってみれば多少の聞こえはいいが、ただ単にヒマだから
眺めているに過ぎない。傍から見たなら、暇人以外の何者でも無いだろうな。
真昼間から、いい年をした大の男が呑気に雲なぞ眺めていていいものかどうか。
そう思わない事もねぇんだが、他にやる事が無いんだから仕方が無いだろ。
それに、俺が日がな一日ゴロゴロしていても誰も困るヤツはいねぇし、
そこら辺に喝を入れてくる煩い知人ってモノも、俺は持っちゃいない。
・・・俺の場合、この体以外に何も持ってないって言った方が正しいんだけどな。


 『あなたの名前は、アリオスよ』


身一つで、この草原にぶっ倒れていた俺。
ぶっ倒れていた理由はおろか、それ以前にどこにいたのか、
何をしていたのか、それどころか自分の年も、名前すらも覚えていない状態で。
そんな俺を『アリオス』と呼び、名を与えてくれたのは偶然ココで出逢った
栗色の髪の少女。
天使の名を持つその少女に呼ばれた瞬間、俺の名は『アリオス』になった。
全く覚えのねぇ、はっきり言って本当にそれが正しいのかどうかすらも
疑わしい名だが、心地良く澄んだ明るい声でそう呼ばれるのは悪く無い。
何より、名を呼ばれてつい振り向いちまった時の、
少女の嬉しそうな顔と言ったら・・・。
短い返事を返してやるだけで喜びに満ち溢れた笑顔を見せるもんだから、
俺は拒否する気も失せて、すっかり『アリオス』で定着してしまった。
・・・ってのは、正しくないか。
有り体に言えば、惚れちまったんだよ。
一回りくらい年が離れてそうな、ガキの笑顔に。

見上げれば、上空にはプカプカと大きな雲が浮かんでいる。
俺は、ゆるゆると流れて行くソレをぼんやりと眺めていたが、
その後にくっついて視界に入って来た『わたあめ』のような形に、
止まっていた思考を動かした。
本当に、『わたあめ』と形容するのが相応しい、ちんまりとした丸い雲。
小さくて脆そうな見た目同様に、もしもこの手に掴む事ができたなら、
一瞬で溶けて無くなってしまいそうだ。
ふわふわと柔らかそうで、温かそうで、そして・・・・・・白い。
汚れなど知らない無垢で儚げな真白。
その柔らかい白さを眺めているだけで、唇は勝手に言葉を綴った。
「アンジェリーク・・・」
言葉が音に。
囁くような自分の呟き声が聞こえてきて。
とたんに、音に引かれて込み上げて来るのは愛おしさ。
出会って間もない、栗色の髪をした少女への、狂おしいまでの想い。

・・・重症だぜ。

名前を呟いただけでこれだ。
それも、無意識に呟いて勝手に鼓動速めてんだから、救いようが無いぜ。
しかし、この俺が、あんな色気も何もねぇガキにマジで惚れちまうとはな・・・。
ニッコリと笑う少女の笑顔を思い出し、ついでに、その『色気より食い気』
・・・どころか『はっきり言って食欲魔人』なチャームポイントまで思い出し、
俺は苦笑する。

チャームポイントか? あばたもえくぼだろ。
なんて自らのツッコミは、この際だから耳をふさいで聞かなかった事にする。
例え、『食欲魔人』だろうが『食い意地の権化』だろうが、
アイツが愛おしいことに変わりは無い。
カフェテリアの1番大きなテーブルいっぱいにケーキを並べて、
両手にフォークの準備万端状態でいようとも、あの笑顔さえあれば全ては
『仕方ねぇな』で片付けられてしまうのだから。
今の俺にあるのは、この体と、馴染みの無い『アリオス』と言う名と、
アイツへの想いだけ。

他には何も無い。
何も思い出せない。
けれど・・・・・・それでもいい。
アイツさえいれば。
あの笑顔が、あの声が俺を呼んでくれれば。それだけでいい。
それ以上、何を望めと言うのだろう。
ずいぶんと欲の無い、いや・・・違うか。
何よりも欲張りな願いを求める自分自身に呆れて、俺はわざと
皮肉った笑みを浮かべる。
けれど、脳裏に頬を染めて微笑む愛しい面影が過ぎっただけで、
皮肉った笑みは苦笑を経て温かな微笑みへと変わっていた。

つくづく、重症だとしか思えない。
けど、いつの間にか、そう思うようになってたんだから、コレはもうしょうがねぇだろ。
俺の記憶からスッポリと抜け落ちた、『アイツと過ごしたらしい』過去。
ソレを思い出したいと願う気持ちは、確かにあるんだが・・・。

・・・なぜだろうな。多くを望んだら、今の幸せを失ってしまうような気がするんだ。
絶対に口を割ろうとしないアイツの態度からも、楽しいばかりじゃ
無かったって事は推し量れる。
もしかしたら、とんでもねぇ過去が飛び出して来るのかもしれない。
けど、正直言うと、ソレはソレって気分なんだ。
いい加減だって言われても構いやしねぇ。
今はただ、アイツさえ傍で笑っていてくれれば・・・。


「アンジェリーク・・・」

再び、囁くように口にする。
アイツには絶対に聞かせられないような、甘い声音で。
すぐ後に、軽やかに駆けて来る足音が聞こえて来て、俺は囁きそのままに
柔らかい微笑を浮かべた。
もちろん、起き上がった時には、いつも通りの皮肉げな笑みに変貌していたが。
「来やがったな。アンジェリ・・・・・・・・・ク?」

パタパタパタパタ・・・。

軽やかに駆けて来る音は、約束の地の入り口方向から林の方向へと一直線。
つまり、俺の前方をキレイに通過して。
「・・・おい?」
いったい何の冗談だ? 
この前、2人で雪を見た時に「ちんくしゃな雪ダルマがはしゃいでる」なんて
からかった事への仕返しか?

見向きもせず、それどころか気付いた風も無く、お気に入りのワンピースの裾を
翻してテケテケとアイツは駆けて行く。
その頭の上で揺れる、大きな白いリボン。
今まで、髪にリボンを結んだ姿など見たことは無かったが、背の中程までの
栗色の髪と、ひらひらしたピンクのスカートをなびかせて走って行く後ろ姿は、
アンジェリークに間違い無い。
・・・って言うか、俺がアイツを見間違えるはずがねぇ。

「おい、アンジェリーク!」
慌てて立ち上がり声をかける。
が、返って来たのはコレ。
「遅れちゃう〜! 遅れちゃう〜〜〜〜〜っ!!」
返事って言うより、ただ単に焦りまくって喚いただけ。
そのまま、アイツは大慌てで林の中へと駆け込んで行った。

・・・何だってんだ、いったい? 
新手の遊び・・・じゃ、ねぇよな。やっぱ。
俺とアイツと。偶然の出会いに始まって、何度もココで会うようになって。
その間、はっきりと約束を交わした事はなかったが、火曜と木曜の昼に俺とアイツが
ココで会う事は、すでに暗黙の了解化している。
口では、『気が向いたらいてやる』とか『いつでもココにいるとは限らない』なんて
憎まれ口を叩いてたが、俺がアイツを待ってたのは事実だし。
ソレを知ってか知らずか・・・・・たぶん、絶対に気付いてないだろうけど、
アイツだって嬉しそうに訪れてた。

それが、いきなり今日は素通りだ。しかも、遅れるだなどと喚きながら。
コレを、「ああそうか、遅れるのか。じゃ、気をつけてな」で終わらせて
昼寝に戻るのは、どう考えたってムリだろ。
ムリ以前に、俺を無視して、ただで済ますわけねーだろうが!




わけがわからないが、とにかく後を追う。
その際、チラリと脳裏を掠めた、
『他の誰か(この場合、男)と約束しているので、無視して行った』との意見は即行で却下。
あの呑気で太平楽でボケボケな性格で、二股なんて器用な事ができるわけがないし。
わざと無視なんてしようもんなら、今頃、自己嫌悪に苛まれて七転八倒しているはずだ。
それに、アイツは俺に惚れている。
これだけは自信を持って断言できるぜ。
あそこまで感情が顔に出るタイプは、そうそういやしない。
反応1つとっても、笑いを堪えるのが難しいほど素直に好意を示されてんだ。
あれで気付かない男がいたら、救いようがねぇほど鈍感なマヌケ野郎って事になる。

そのアイツが、俺を無視して行った。
「・・・有り得ねぇよな。普通」
やっぱり何かあるとしか思えないわけで。
これはもう、追いかけてとっ捕まえて尋問してやるしか無いだろ。
・・・いろんな方法でな。

けど、リーチの長さと素早さでは俺に敵わないはずのアイツが、
今回に限っては妙に奮闘する。
いつものトロさは、いったいどこに消えた? って気分だ。
しかも、やけに身軽なピンクの影は、俺に距離を縮めさせないまま
林の中をテテテッと駆け抜け、そのまま高い茂みをピョンと飛び越えた。
ふわりと大きく揺れた、白いリボン。
それを最後に・・・・・・見えなくなる影。

「あのバカ! こけやがったな!!」
アイツの場合、運動神経が鈍い・・・どころじゃなくて無いと言ってもいい。
ハードルなんざ飛び越えようもんなら、端から倒して蹴っ躓き、膝小僧すりむいて
ベソをかくのがオチだ。
慌てて、俺は同じように茂みを飛び越えた。
もちろん、見事に転んでベソをかいているだろうアイツを踏みつけないよう、
落下地点に見当をつけて。
だが・・・・・・・。

・・・ん? そう言や、今のリボン・・・。


ジャンプした動きに合わせて、ふわりと揺れた真っ白なリボン。
ずいぶんと細長いそのリボンの形・・・っつーより、太さとモコモコ感を思い出して、
俺はつい、ジャンプ途中でありながら我が目を疑っていた。

・・・・・・耳? ウサギの・・・って、んな事あるわけが・・・・・・っ!!?

地面がねぇっ!!
言葉通りだ。解説するのもバカくさいが、飛び越えた茂みの先には地面が無かった。
正確に言うなら、そこだけポッカリと大きな穴が開いてた。
根性で飛距離を延ばしても、空中で3段跳びをしても届かないほどに大きな穴がな。
・・・んな事できる人間がいたら、お目にかかりてぇもんだが。
けど、そんなバカな努力はする必要もねぇだろ。下を見りゃ一目瞭然だ。
どんなに底が見えない深さだろうが、下の方にピンク色の小さな影が見えてんだから。

「・・・・・・マジかよ」
その瞬間、俺は悪足掻きをやめた。
今更悪足掻きをしたところで、穴の淵に指がかかったかどうかは神のみぞ知るだが、
悪足掻きをやめて引力に任せた俺の行く先は、当然ながらポッカリ開いた穴の中。
どこまでも深い、井戸のようなその中を、ヒュルヒュルと落ちて行く。
落ちてくうちに、普通だったら見えて当然の土やら緑やらは姿を消して、
辺りはすっかり濃紺一色に染まっちまったが、そんな事はどうでもいい。

濃紺一色の穴なんざ変もいいとこだが、それを言っちまったら、
太陽光もねぇのに下を行くアイツの姿がはっきり見える方が変だろ?
それに、目の端に時々妙な棚みてぇな物も過ぎるし、これだけ落ちてるのに
空気抵抗がまるで無いってのも変だし、色々とわけのわからねぇ事だらけだ。
だから、全部どうでもいい。
んな事気にしたところで、アイツに追いつくわけでもねぇし、
落下を止められるわけでもねぇんだから。

当面の問題は、こっちだ。
そう・・・落下し続けた果てに訪れる、最終地点。
このまま底に激突したら、痛いどころじゃ済まねぇんだよ!
潰れて弾けて飛び散るんだぞ! わかってんのか、あのバカは!!
何が『潰れて弾けて飛び散る』のかは、勝手に想像してくれ。
俺は想像したくもねぇ。
アイツが熟れすぎたトマトみてぇになるのだけは、絶対にゴメンだ。
見たくねぇ・・・ってより、させるかっ!

・・・なんて、俺が1人で歯噛みしてるってのに、アイツはとんでもなく呑気だった。
下から微かに聞こえて来る鼻歌が、無性に憎らしい。
自分の危機的状況をわかってんのか、あのトロ女は。
・・・だが、重力ってのは対象物の重さや大きさに関係なく働くもんで。
俺がアイツよりデカくて重くても、落ちるスピードってのはたいして変わりはしない。
それに、焦りまくった俺は肝心な事を忘れていた。

つまり。
某アニメのように空中を泳ぐなりして追いついたところで、
2人揃ってトマトの運命を辿るだけだ、と言う事実。


・・・空飛べねぇんだよ、俺は。
真っ当に生まれた人間は、普通、飛べないけどな。
捕まえりゃなんとかなるって問題じゃ無かったんだ。
俺がどうにかする事でアイツが無傷で済むのなら、いくらでもクッションになってやる。
アイツの下敷きになって砕けるなら、本望だろ。
けど、これだけ落下速度がついてりゃ、いくら俺が下になって庇ったところで、
まず間違い無くアイツも一緒に砕けちまう。
2人揃ってジ・エンドだ。

・・・そんな簡単な事に気付けなかったなんて、我ながら情けないを
通り越して脳みそカチ割りたくなってくるぜ。
ただもう俺は、アイツに追いつく事だけを考えていたんだから。
そんな俺のムダな足掻きを嘲笑うかのように、下を行くアイツは何やら
ゴソゴソと細長い物を取り出す。

宙を平泳ぎするってマヌケな方法を思いつく前に行動起こしてくれたのは有り難いがな。
・・・けど、これだけ盛大に落下してる最中に、普通出すか?
フリルのついた『パラソル』なんかを。
いったいドコから取り出した! ってツッコミを入れてるヒマさえ無かった。
ポンと軽快な音を立ててソレを開いたアイツに、俺はは一瞬、目が点になる。

「ばっ!!」

んなモンで、このスピードが止まるかっ!!
パラシュートじゃあるまいし、これだけの加速がついた後では、
アイツが楽しそうに聞かせてくれたアルカディア童話に出て来るメリー何とかって
名前の家庭教師でもムリだ。
・・・の前に、アレは童話でおまえは人間だろ! 少しは常識を考えやがれ!!
だが、俺の常識に反して、ピンクハウス系のパラソルはユラリユラリと降りて行った。
ついでに、軽快な音を立てて開いたパラソルは、無数のシャボン玉を撒き散らす。

・・・普通は、ねぇ。シャボン玉を吐き出すパラソルなんざ。
だが、現実に生まれちまった無数のシャボン玉群は、今更ながらに
浮力の常識を振りかざして、水の中を湧き上がるように昇って来る。
頭を抱える俺の周囲に。その視界を完璧に遮って。

「くっ、邪魔だ!」
見失ってる間に、アイツが底に激突して潰れちまうんじゃないかと、
俺は沸き上がって来たソレらを振り払う。
・・・なんとなく、常識を引っくり返したパラソルを手に、易々と着地するような
気もするんだけどな。
けど、アイツの姿が見えない。
俺を焦らすには、それだけで充分だ。

だが、視界を遮る泡は、それこそ無数に立ち昇って来て俺の邪魔をする。
しかも、庇うように手をかざしていた俺の顔を掠め、瞳の端に映ったモノは、
確かに景色と呼べるモノだった。
色づく落葉。ヒラヒラと舞い落ちてくる星型の葉。どこまでも続く小路。
驚いて景色の元、つまりシャボン玉を凝視した俺の前に、信じられない
光景は次々と押し寄せる。

緑なす草原。光溢れる渚。薄暗い洞窟。砂の稜線。満天の星空。
風景だけじゃない。
梢から飛び立つ小鳥。顔を除かせて逃げ去る小動物。でかいカニ。
近付いて来る小船。レンガ造りの建物。街並み。
そして・・・人。行き交う人々とは明らかに違った風情の、複数の旅人。
幼い子供から大柄な男まで、共通点などドコにも見出せない連中。
旅人と言っていいのかどうか返答に詰まるズルズルの格好と、貴族然とした外見。

だが、素朴な風景に違和感しか生み出さないソイツらは、明るい洞窟の中で
いがみ合っていたり、森の中で真剣に悩んでいたり、雪の中を懸命に
進んでいたりと、多種多様な顔を見せる。
どんなシーンでも活き活きと。楽しそうにすら見える表情で。

宵闇の中、煌々と輝く満月を見上げてるらしい、1シーンを除いて。

なんで、こんなモノが見えるのか。それは、このシャボン玉が妙だから。
俺には、そうとしか言えねぇ。
戸惑う俺にお構い無しに、シャボン玉は次から次へと押し寄せ来る。
まるで写真が中に入っているかのような、シャボン玉を通して
別の世界でも覗き込んでいるかのような、俺にとっては見覚えの無い
1シーンの数々をばら撒きながら。
・・・だが、無数に思われたソイツらが霧が晴れるように上へと
過ぎ去って行く寸前、視界を掠めた最後の1つに、俺は瞳を見開いていた。
つい、過ぎ行くその速度に視線を合わせて、見上げる。

晴れやかな笑み。アップで映った顔は、まるで親しげに顔を近づけたようで。
動く唇は、何かを囁いていて。
確かに見覚えのある顔。
いや、こんな楽しげに笑う表情に見覚えは無い。俺はコイツを知らない。
コイツの声も、その唇がなんと動いているのかもわからない。
だが、別の表情ならば知っている。
つい最近、見た。

『アリオス・・・』

呆然と。瞳を見開いて立ち尽くした姿。
見つめながら呟かれた、その掠れ声さえも甦る。
俺の名を噛み締め、押し出すかのように。
「今のは・・・。今のは確かに、天使の広場で会った・・・」

・・・って、だから・・・非常時に別の事に気ぃ取られてんじゃねぇよ! バカか俺は!!

シャボン玉・・・いや、見覚えのある顔に気を取られた俺は、いつの間にか、
恐れていた穴の底に到達。
受け身を取る暇も無く、積まれた木の葉の山へと、勢いよくダイビングしちまった。
・・・普通だったら、死ぬ。
パラシュートも命綱も無い状態で、星見の塔から落ちた以上の距離を
バンジージャンプしたんだからな。
いくら木の葉が山積みになってたからって、普通だったら死んでるはずだ。
いや、死なないとおかしい。
なのに、俺はピンピンしていた。
死ぬのはおろか、トマトの運命も辿らずに、五体満足で。
生きてて良かった。そう、素直に喜べないのは何でだろうな。
唇から落ちるのは、安堵の吐息ではなく、深い溜め息。
パラソルの常識に文句たれる前に、自分の不死身ぶりに文句つけたい気分だ。
「化け物か、俺は・・・」
物悲しく呟いてみる。

・・・この時の俺は、まだこの先にある出来事を知らなかった。
この先にある物も、この先に待つ者も。真の化け物がウジャウジャしてるって事もな。
見上げれば、這い上がることさえできない大きな穴。
見渡せば、濃紺一色で塗られた一本道。
遠くの角にチラリと見えた、白いリボン。


こうして、俺は妙な世界に迷い込んじまった。

 

 

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