花嫁のライセンス (前編)
暖かな昼下がり、とある公爵家の広大な庭の茂みで小さなしゃくりあげる声と 耳に優しい柔らかな声が聞こえていた。 「どうしよう…っ…アンジェリーク……ごめんなさい…」 「大丈夫ですよ。メルさん」 「だって…メルのせいで…アンジェリークがクビになっちゃう…」 泣きつく少年にアンジェリークはにっこりと勇気付けるように笑った。 「すぐには辞めさせられません。大丈夫です」 「本当?」 メルは涙でいっぱいの瞳でアンジェリークを見た。 「少なくとも半月から一月くらいは…。忙しくなりますから屋敷で働くと思います。 それだけ時間があれば次のお仕事見つけられると思いますし…。 心配しなくても大丈夫ですよ」 「メルとはもう会えなくなっちゃう…?」 アンジェリークのこれからの心配もしているが、彼の一番の心配事は彼女と もう会えなくなることなのである。 メルの真っ直ぐな視線にアンジェリークははっきりと答えることはできなかった。 「…私以外の使用人の言う事も…これからはちゃんときいて下さいよ?」 困ったように微笑むことしかできなかった。 「アンジェリーク……」 「ほら、メルさん! そろそろお部屋に戻らないと。午後のお勉強が始まっちゃいます」 アンジェリークは努めて明るい顔と声で立ち上がり、メルも芝生の上に立たせる。 「でも…」 「レイチェル先生は怒ると怖いですよ?」 茶化した言葉の中に、行きなさいという意思を感じ取り、メルは仕方なく屋敷へと歩き出した。 「アンジェリークは?」 「私は処罰が決まるまでは…せっかくのお休みです。この広い庭でも散歩してます」 いってらっしゃい、と手を振るアンジェリークにメルは頷いた。 「メルはアンジェリークが大好きだからね」 「光栄です。私も大好きですよ、メルさん」 メルの姿が見えなくなったあと、アンジェリークは溜め息をついて青空を見上げた。 「…ああは言ったものの……。 どうしようか、アンジェリーク?」 彼を安心させるために浮かべていた気丈な笑みは消え、瞳が憂いの色を帯びる。 「まぁ…なんとかなるよね…。というか、なんとかしましょ。 今日は…不本意だけどせっかく出来たお休みだし、 お散歩して…街にでも行こうかな」 すぐに立ち直って歩き出したアンジェリークは、この時気付いていなかった。 二人がいたこの茂みのさらに少し奥に人がいたことを。 「いったいなんだったんだ…」 昼寝を邪魔された彼は、銀色の長い前髪をかきあげ呟いた。 「あー!アリオス、どこ行ってたんや!探したで」 しょっちゅう屋敷を出入りしている友人、チャーリーの大きな声に アリオスはつまらなそうに返事をした。 「人の来ねー所で昼寝を、と思ったんだがな。 邪魔が入った…」 そこまで言ってアリオスはふと言葉を切った。 そして疑問を友人に投げかける。 「アンジェリーク……って知ってるか?」 彼の口から女性の名が出るなんて珍しい、と思いつつチャーリーはああ、と手を打った。 「メルちゃん付きの侍女さんやろ。 なに、今日の騒ぎのこと?」 「なんのことだ?」 異母弟の使用人なのは先程の会話で想像できていた。 何があったのかが気になっていたのだ。促す瞳にチャーリーは説明を始めた。 「アンジェちゃんは庶民の出なんやけどメルちゃんにやたら懐かれてなー…。 特別にメルちゃんとこに仕えることになったんよ」 実に微笑ましい二人の光景を思い出し、チャーリーは一人でうんうんと頷いていた。 「だけど今日、メルちゃんのほんの悪戯心でなー、ちょっと驚かしたんやけど、 タイミング悪くて、公爵夫人お気に入りの花瓶割ってもうて…」 「あの女のか…要領悪ィな…」 ずいぶんぞんざいな、でも彼流の気遣いが感じられる言葉にチャーリーは苦笑した。 「もともと庶民出のアンジェちゃんが、公爵家次男につくってこと自体破格の扱いやったからな…。 公爵夫人をはじめ、気に入らなかった連中がここぞとばかりに口を出してきたんや」 辞めさせられるかもしれへん…と息をつくチャーリーを見て、アリオスは黙って何事か考えていた。 「実の子のメルちゃんがとりなそうとしても無理やったって言うし…。 あ、でも、もし辞めたらウチに来てもらうってテもあるなー。名案や!」 巷で有名な貿易商人は、ぱっと明るい表情になった。 「そしたら毎日あの笑顔見られるわ。よし、そーしよ」 「…ンな下心見え見えの奴のところに行かせるかよ」 「んー?なんか言った?」 聞き取れなかった彼の呟きを問いただすが、言った本人はもう部屋を出ようとしている。 「ちょっ…どこ行くん?これから街行く予定…」 「その前に寄る所ができた。行きたきゃ先行ってろよ。後から行く」 「あーもー!相変わらずマイペースやなっ。ここで待っとるわ」 数分後、アリオスは自分から訪れたことのない部屋へと来ていた。 まわりの使用人達もどこか戸惑いを隠せない様子である。 それを感じ取り、アリオスは苦笑した。 (…自分でもここに来ることになるとは思ってもみなかったぜ……) 控えの間から奥の間へ通され、アリオスは不敵な笑みを浮かべた。 「よぉ、継母上。ちょっと話があるんだが…」 「まぁ、何かしら」 綺麗だが派手な、まだ若い女性が馴れ馴れしく腕に抱きつく。 さりげなくその腕を引き抜きながら、アリオスはもたらす効果を自覚しつつ微笑んだ。 翌朝、アンジェリークは自分の処罰を言い渡された。 それはメル付きの侍女解任。 そして彼の異母兄、アリオス付きの侍女就任という内容だった。 その意外な待遇に周囲はもちろん、アンジェリーク本人も目を丸くしていた。 「とりあえず挨拶に行かないとね…」 数少ないアリオス付きの使用人達には挨拶をしたが、まだ新しい主人には会っていない。 アンジェリークは緊張しながら、彼の部屋をノックした。 「…?」 しかし返事がない。出掛ける用事なんてあっただろうか、と思ったが、 他の公爵家の人間と違って極端に使用人の少ないここには訊ける人もいない。 「仕方ない…。とりあえずお仕事だけでもしちゃうか…」 彼の部屋を整えるため、アンジェリークは扉を開けた。 「朝から出掛けたのかしら…?」 しかし、ベッドを直そうとして、それが使われた形跡がないことに気付く。 「えーと…つまり、これって…」 ふいにがたん、とバルコニーの方で音がして、アンジェリークはそちらへ目を向けた。 「なんだってお前まで来るんだよ」 「えーやん。俺も挨拶したいし」 「必要ねー。俺と違ってお前は何度かあいつに会ってんだろ?」 「そんな冷たいこと言わんと…。だいたいずるいわ…。 あんたが横から掻っ攫うとは思わんかった。 こっちの計画が…」 「何ぶつぶつ言ってやがる」 「お二人とも何やってるんですか!?」 二人の会話を中断させたのは、部屋とバルコニーを仕切るドアの開く音と少女の声だった。 「なんでご自分の部屋にバルコニーから入られるんです、アリオス様!?」 腰に手をあて、頬を膨らませている少女を見下ろし、アリオスは苦笑する。 「朝から元気だな、アンジェリーク?」 ぽんと頭の上に手を置かれ、髪をかきまぜられる。 「ア、アリオス様っ。誤魔化さないでください」 「ま、仕事の一環だな…」 「お仕事…で朝帰りですか…?」 疑わしげに見上げ、次にチャーリーの方を向く。 「本当ですか?チャーリーさん」 「んー…。仕事といえば仕事やな」 「別にやましいことはしてないぜ」 からかいの笑みを浮かべる彼にアンジェリークは頬を染めた。 「ど、どちらでもいいんですっ、別に。 ただ…黙っていなくなられると心配になるじゃないですか…」 アリオスは本当に心配していたことをその海色の瞳から読み取った。 だから自然と優しい笑みになる。 「悪かったな。次からは言っておく」 アンジェリークもその笑顔につられるように微笑んだ。 「はい、そうしてください」 「クッ、やっと笑顔になったな」 「?」 「初めて会って…ふくれっつらしか見てねぇなんてあんまりだからな」 「あ…」 言われてアンジェリークは自分がいきなり主人を怒鳴りつけていたことに気付いた。 「ご、ごめんなさいっ。 あの…いまさらですけど、これからよろしくお願いします」 「ああ、よろしくな」 「…朝食は用意しますか? それとも…」 「用意してくれ」 「はい。チャーリーさんの分も用意しますね。 少々お待ちください」 花のようにふわりと微笑んでアンジェリークは厨房へと向かって行った。 「…やっぱえーコや…」 ほぉ、と息をつく友人にアリオスは冷たく言った。 「やらねぇぞ」 「あんたのもんじゃあるまいし…」 「今日付けで俺のものだぜ」 自信たっぷりに言い放つ彼にチャーリーは肩を竦めた。 「アンジェちゃんも気の毒にな…」 数日が過ぎて…使用人は最低限でいい、と主張し、実際ほとんどの事を自分でやっていた彼の 側にアンジェリークの姿が見かけられるようになった。 二人で一緒にいる光景が当たり前のこととして、本人達にも周囲にも受け取られていた。 書類をめくる彼の側にアンジェリークは静かにお茶を置き、そっと離れようとした。 仕事の邪魔をしないようにと気遣ったのだが、アンジェリークの方が彼に呼びとめられた。 「今日の午後、メルが来る。顔を見せてやるんだな」 「では、とっておきのお茶とお菓子を用意してもらいましょう」 アンジェリークはなにか言いたそうに笑った。 「なんだ?」 「アリオス様ってやっぱり優しいですね。 メルさんをご招待したんでしょう?」 「さぁな」 家族といっても、お互いそれぞれのやるべきことをやっているとなかなか会う機会がない。 特にアリオスは何をやっているのかアンジェリークは知らないが、いつも忙しそうだった。 「アリオス兄様!」 久しぶりに会った一回り以上年の離れた兄にメルは飛びついた。 「ありがとう! 兄様が母様に頼んでアンジェリークを助けてくれたんだって聞いて…」 「別に…助けたつもりはねぇよ。 一人分人手が必要になっただけだ」 「でもこうやって今でもアンジェリークに会えるのは兄様のおかげだよ。 感謝してる」 楽しげに語らうメルとアンジェリークに付き合いながら、アリオスは心の中で溜め息をついた。 本当にアンジェリークを助けようとしたわけでも、メルのために動いたわけでもなかった。 ただ、自分が彼女を欲しいと思ったから…気付いたら行動していたのだ。 ふと見せる弱さも、それを見せまいとしている意地っ張りなところも、どんな時でも前向きに 生きようとしている強さも…あの日、一度に見せつけられ、惹かれた。 側にいる時間が増えるほど、その想いは強くなっていく。 (俺はお前のお気に入りのこいつを奪おうとしてるんだぜ?) メルの気持ちが恋愛感情にまで育たないことを祈りながら、アリオスは自嘲気味に笑った。 「…私もアリオス様には感謝してますよ」 メルが帰ったあと、片づけをしながらアンジェリークは、 再度書類に目を通し始めたアリオスにお礼を言った。 「本当はすぐにチャーリーさんにこのこと聞いていたんです。 でも言い出す機会がなくて」 ありがとうございました、と頭を下げる少女にアリオスは苦笑した。 「メルとお前は似てるな。そうやって純粋に人を信じるところとか」 アリオスは傍らにいる少女の腕を取り、引き寄せた。 「だけど男なんか簡単に信用するもんじゃないぜ?」 どういうことなのか、訊こうと口を開く前に彼の唇に塞がれた。 「な?」 すぐに離された唇が笑みをかたどる。 「アリオス様っ」 「クッ、礼をもらっただけだ」 アンジェリークは笑う彼を真っ赤な顔で睨む。 その直後、ハッとしてお茶の道具を片付け始めた。 「いけない、仕事があったんだ…。 アリオス様!文句は後で言わせてもらいますからねっ」 耳まで真っ赤にしてそう言う少女が可愛くて…。 アリオスは抑えきれなくなってきた気持ちをどうするか、しばし悩むことになった。 「アーンジェ? なにやってんの?」 アリオスの部屋から出てすぐの廊下の隅で、しゃがみこんでいた栗色の頭を レイチェルは持っていたメル用教科書でペしペしと叩いた。 「〜〜〜なんでもない…」 上気した頬でそんなこといわれても説得力はないのだが、レイチェルはそう?と受け流した。 「見た目はいいけど、性格に問題大有りの若様にいじめられて泣いてんのかと思ったよ」 「レイチェルったら…噂ほどの人じゃないよ。アリオス様は」 「とにかく…急いで広間行こ。明日の支度しなきゃね」 「うん」 仕事の話になり、アンジェリークはすっと顔を引き締めた。 (私はただの使用人なのよ? ヘンなこと考えちゃダメ…) 先程のキス…驚きよりも嬉しさの方が勝っていたなんて、決して認めるわけにはいかなかった。 今日の夕食も広間ではなく自分の部屋でとる、ということでアンジェリークが給仕をしていた。 彼は基本的に広間の大勢での食事が好きではなかった。 「明日の夜会はちゃんと出てくださいよ?」 サボったら私が怒られます、とアンジェリークは念を押しておいた。 「俺も信用がねぇな。正式な夜会くらい出席するぜ?」 「日頃の行いが悪いですからねぇ…」 アンジェリークは容赦なく言いながら食器を片付けていく。 実際、彼は宴を抜け出したり、ふと気付くとどこかに行ってしまっていたりする。 「フルーツは…下げてしまっていいんですか?」 そこには艶やかに光を弾くマスカットがあった。 「面倒くさくてな…」 「ふふ、アリオス様、メルさんと同じことを…。 だけどメルさんはちゃーんと残さず食べますよ」 言外に弟よりもわがままだと比較されて、アリオスは面白くなさそうな顔をした。 「食えばいいんだろ」 満足そうに頷いて他の食器を片付けるアンジェリークを見て、何か思いついたように笑った。 「お前にもやるよ」 「え……んっ」 振り向いたとたんに唇が重なって…アリオスの舌によって甘い果実は アンジェリークのところへやってきた。 互いの舌が一瞬だけ触れ合った。次の瞬間、ぱっとアンジェリークは離れた。 「アリオス様っ。びっくりして飲んじゃったじゃないですかっ…じゃなくて! どうしてこういう悪戯を…」 その場に座りこんでしまい、けほけほと咳き込みながら抗議した。 アリオスは苦笑しながら跪き、彼女と視線の高さを合わせた。 「クッ。まさかそう来るとはな…。ったく色気も何もあったもんじゃねぇ…」 「アリオス様?」 「まぁ、からかいがいはあるけどな」 「っアリオス様! 今といい、昼間といい、こんなおふざけは…」 「じゃあ、本気ならいいわけだ?」 踏み込むような真剣な空気にアンジェリークは言葉を返せなかった。 「お前に手を出す理由? 気に入ったからに決まってんだろ」 「…っ」 「好きだ」 煌く銀の髪の隙間から、それ以上の輝きを放つ金と碧の瞳をアンジェリークは呆然と見つめた。 そして、嬉しさを捻じ伏せるように視線を逸らした。 「でも…」 その歯切れの悪い答に、アリオスは言い方を変えた。 「俺のこと嫌いか?」 アンジェリークは即座に首を振る。 ふわりと舞ったクセのない髪がアリオスの頬に触れた。 「じゃあ好きか?」 「っ…」 その優しい眼差しに、つい自分の気持ちを打ち明けてしまいそうになった。 その広い胸に飛びこんでいけたら、と思ってしまった。 すんでのところで自分の立場を思い出した。だから震える声で囁いた。 普通だったら届かないくらい小さな声だったが、至近距離で見つめ合っていた アリオスには十分だった。 「アリオス様のことは…仕えるべき主人として愛しています」 一人の男としては愛していない…。 とても彼の目を見てなんて言えないから、瞳を伏せてそう言った。 瞳を伏せた拍子に一筋の涙が零れ落ちた。 「だったらなんで泣いてんだ?」 「………」 今の言葉が建前であることくらいアリオスにはわかっていた。 彼女が易々と身分の差を乗り越えられない性格であることも。 ただ、彼女に身分の差を忘れさせることができない自分が腹立たしかった。 アリオスは大きく息をついた。 「もういい」 その言葉にアンジェリークはびくりと身を震わせた。 自分で拒絶しておきながら、彼に嫌われたかと思うと胸が痛かった。 途方にくれたような瞳で自分を見上げるアンジェリークが愛しくて、アリオスは 抱き締めてこう言った。 「お前の性格考えりゃ、言えねぇよな。直接きく。嫌なら逃げろ」 意味を掴みかねている少女に優しく微笑むと、アリオスはアンジェリークの唇を奪った。 「…んっ…」 それは触れただけの昼間のものとも、先程のものとも違う情熱的なキスだった。 床に座りこんでいたのに、それでも身体を支えきれなくて、 彼の背に救いを求めるように手を伸ばした。 静かな部屋には微かな…官能的な切なげな吐息しか聞こえなかった。 彼女の濡れた口元もそのままに、アリオスは何度も求め続けた。 次第に彼女の舌も応えはじめる。 「!?」 ふいに抱き上げられ、アンジェリークは怯えたように彼の首にしがみついた。 「心配すんな」 彼女の額に口接けて、そのまま二人、柔らかなベッドへと倒れこんだ。 「…ん…ふっ……」 彼の口接けに躊躇いがちにも応えようとするその様子が、彼をどうしようもなく惹きつける。 抵抗する気配がないのを確認して、アリオスは彼女に触れた。 「やっ!?」 少しして、アンジェリークがびくりと身を竦め、声を上げた。 素肌を探る彼の手の、指輪の冷たさに驚いたせいである。 そして、その冷たさに現実に引き戻された。それは公爵家の紋章付きの指輪。 彼の身分を象徴するものである。 彼女の服に手をかけたアリオスの手をそっと包んで押しとどめた。 「アンジェリーク?」 今まで彼の好きにさせていたアンジェリークの抵抗に、アリオスは一度その手を止めた。 彼女の潤んだ瞳が真っ直ぐ見上げている。 「アリオス様…。これはおふざけですか? ……それとも本気ですか?」 「なにをいまさら…本気に決まってんだろ?」 「それを聞けただけで嬉しいです」 アンジェリークは頬を染めて、でも悲しそうに微笑んだ。 「遊びでこんなこと、もちろんイヤですが…。 本気なら……なおさら辛いです」 「どういうことだ…?」 彼女に覆い被さったまま問う彼に、アンジェリークは彼の視線から逃げるように 顔を背けて問い返した。 「明日の夜会…何があると思います?」 「あの女の主催する舞踏会だろ」 継母が定期的に行っている舞踏会だとアリオスは聞いていた。 「表向きは…。 でも本当は…あなたと…あなたの未来の花嫁、ローズ様の顔合わせです…」 「…なんだと?」 継母も勝手なことをしてくれる、とアンジェリークが帰ったあと、アリオスは眉をしかめた。 「今夜の…身分をわきまえない無礼な振るまい…お許しください」 泣きそうな顔でアリオスから離れた少女の笑顔が忘れられない。 「くそっ。爵位がなんだっていうんだっ…」 貴重な指輪を抜き取り、いまいましげにベッドに投げ捨てた。 確かに身分があれば、それなりのメリットはあるが…。 それ故に一番欲しいものを得られないのならば、邪魔なだけだ。 アリオスは鈍い輝きを放つそれを一瞥し、 バルコニーから木を伝って夜の闇のなかへ出掛けていった。 〜to be continued〜 |
…ごめんねアリオス。 いいところで…。 だけど今回はアリオスに口説かれても 落ちないアンジェを書くつもりだったんで…。 本当はもっと毅然と断るはずだったんだけどなぁ。 なのにアリオスさんよほどそれはヤだったんでしょうね。 けっこう強引にもっていかれました…。 こうしてまた作者の意図を無視して動くんだから。 裏に行きそうでどきどきしました。 しかし、アリオス…「様」が似合わない…。 敬語も似合わない…。 違和感を感じるのは私ぐらいでしょうか。 早く呼び捨て、敬語なしの関係にしてあげたいです。 書きにくくてしょうがない(笑) |