LOVE PHANTOM


「…ったく、お前には振り回されるぜ」
苛立たしげな口調で、でも栗色の髪を梳く手は優しい。
「そう…?
 私、いっつもアリオスのペースだと思ってたけど…?」
「自覚がないのは良い事なのか悪い事なのか、分からねぇな」
苦笑混じりの言葉にアンジェリークはますます戸惑う。
「まぁ、そのままでいろよ」
「うん…?」
今でさえこうなのに…。
自覚されて、わざとアリオスを振り回すようになったりしたら
それはそれで頭が痛くなる。

不思議そうに首を傾げていたアンジェリークはふいに小さくくしゃみをした。
制服を着ているような、脱いでるような、中途半端な格好で
話しこんでいたせいだろう。
アリオスが温めるように包みこんで誘う。
「続き、しようぜ」
アンジェリークははにかんでこくんと頷いた。

「今度はちゃんと優しくしてやる」
ベッドの上に倒れこんで、キスの合間に少女の唇に囁いた。
「アリオス…うん、でも…」
アンジェリークは視線をさまよわせた後、躊躇いがちに口を開く。
「あの、ね…。あの…時々なら…たまになら…」
「?」
「……アリオスの好きにしていいから」
「アンジェ…?」
アンジェリークは耳まで真っ赤にしてしどろもどろに話す。
「あのね…さっきのアリオス、いつもと違ったの…」
「そりゃ、あんな風に襲ったことはねぇからな」
「襲っ…。
 ち、違う。…そういうんじゃなくて…」
激情にかられていた、ということを差し引いてもなにか違和感を感じた。
「その、アリオス…今まで…遠慮、してた?」
この考えに行きついた瞬間、まさか…と思ったけれど。
それでも触れ方とかコトの進め方とか。そう考えるのが自然だと思えて…。
寝かせてくれない夜もけっこうあったから退屈だったとは
思わないけれど…。思いたくないけれど…。
「その…私を、気遣って…くれてた?」
何も言わないけれどふっと微笑んだのが答なのだろう。
彼は大人だから子供の自分の成長に合わせてくれてたのだ、と思う。
きっと、待たせてた。

「だから……」
「手加減しなくていいって?」
「うん。アリオスの好きなように…っん」
可愛らしく健気な挑発の言葉は途中で激しいキスに遮られる。
深さを角度を変えて何度も唇を重ね、舌を絡ませる。
酸素不足な少女の濡れた口元を舐め上げて、彼は綺麗に微笑んだ。
「後悔するぜ?」
「…絶対しないもん」


すぐに彼の言葉は冗談じゃなかったのだと思い知らされた。
「や、待っ…ムリ、そんな………」
「ムリじゃない。いける」
反射的に逃げようとする少女の肩を押さえ、内に滑り込んだ長い指達でかき混ぜる。
そのキツさと聞こえる水音にアンジェリークは頬を染める。
「っん…ァ…リ、オス…ダメ…」
いままでどれだけ気遣われていたかが分かってしまう。
いつも心と身体の準備ができるまで彼は時間をかけて愛してくれた。
普段なら徐々に増やされるはずなのに、突然の強い刺激に
アンジェリークは甘い声で鳴くことしかできない。
容赦なく責めるくせに、それでも宥めるようにくれるキスはとても優しくて…。
「…ずるい、アリオス」
そんな風にされると、彼の要望を受け入れてあげたくなってしまう。
「何がだよ?」
拗ねたような少女の声に彼は口の端を上げながら問い返す。
「絶対…わかって、んっ…やってる…でしょ…」
「さぁな」
指先に絡みつく蜜を舐め取る彼の艶やかな表情は確信犯の笑みだった。

「んっ…は、ぁ……アリオス…」
どれだけ身体を重ねても最初の一瞬だけは緊張が解けない。
重ねられた彼の手をきゅっと握りしめる。
「も、大丈夫…」
アリオスはアンジェリークの涙を唇で拭い、囁いた。
「悪い。もっと泣かしちまう」
え? と聞き返す前に彼が動き始めた。
「あ、あ、やぁっ…アリ、オスっ……待っ」
いつもよりも性急な律動にアンジェリークは甘く短い悲鳴を上げる。
「や、だめぇ…あぁっ、ん…」
「手加減しなくていいって言ったのはお前だぜ?」
「言った、けど…っ…」
彼のペースがこんなに激しいとは思わなかった。
彼が予告したように泣かされる。
慣らされる暇もなく感じる所を突き上げられ、昇りつめる。


「…ん…」
唇を割って入ってきた冷たい水をアンジェリークはこくんと飲んだ。
「あ…」
「気がついたか?」
「うん…」
そうか、気を失っちゃったんだ、とアンジェリークは頬を染めながら
彼の腕の中で頷いた。
「もっと飲むか?」
「うん、ちょうだい」
鳴かされすぎたせいで喉が乾いている。
そのまま受け取ろうとしたら彼がグラスに口をつけていた。
アンジェリークはその意味を悟り、一瞬湯気が出そうなほど
顔を赤らめたが、アリオスに再度抱き寄せられ降伏した。
口移しの延長で軽いキスを繰り返す。
「もっと…」
「どっちを?」
水か、キスか。分かっていながら訊いてくる彼が憎らしい。
「…キスして。今までできなかった分…」
「くっ、膨れて言うことかよ」
頬を膨らませながらねだる姿もそれはそれで愛らしいが。

「っ…んぅ〜〜〜」
ふいにびくりとアンジェリークの肩が震えた。
いつの間にか這わされた掌がやわらかな膨らみを弄ぶ。
まだ彼の唇に遮られているため声は零れない。
やわらかさを楽しむように悪戯を仕掛ける。
存在を主張する先端をなぞると少女の背が仰け反った。
「ア、アリオスっ…」
ようやくキスから解放されアンジェリークは涙目で彼を睨む。
「なんだよ?」
「きゃ…ぅ」
今度は舌で愛され、その感覚にアンジェリークは鳴かされる。
快楽に震える身体を支えたくて彼の首に縋る。
きゅっと彼に抱きついて恐る恐る尋ねた。
「…さっきので、終わりじゃない…とか?」
返事の代わりに桜色の蕾を甘く噛まれ、刺激を与えられた。
「たった1回で赦すと思うか?」
「や、ん…そのままで、喋んないで…」
微かに息がかかるのも、唇がそこを掠めるのにも反応してしまう。
そんな様子を満足そうに眺めながらアリオスはいつもの笑みを浮かべる。
「お前もまだ足りねぇだろ?」

アンジェリークは瞬時に真っ赤になる。
「じゅ、十分だもん…」
少女の中であれは絶対数回分に換算される(笑)
「ホントかよ? だったらこれはなんだろうな」
「あっ…」
反応した蕾を摘み、さらに下へ滑らせた指先で少女の花弁を撫で上げる。
果てたばかりなのに新たな蜜で溢れている。
「だって、だってアリオスが…ヘンなこと、するから…ぁん」
この後に及んでなんとか逃げようとする少女に
アリオスは苦笑しながら頬に口接けた。
「怖いか?」
「アリオス…?」
「さっきみたいなのは」
彼の尋ねていることがようやく分かり、アンジェリークはふるふると首を振った。
「びっくりした、けど…怖くはない」
怖いのは変わっていく自分。どんどん溺れていく。
彼の手によってきっと際限なく変えられていく。

アリオスはアンジェリークの髪を梳きながら苦笑した。
「そうか。さすがに怯えられたら困るからな」
それを避けるために今まで丁寧過ぎるほど段取りを踏んで抱いていたのだ。
ここで密かに続けてきた自分には似合わぬ努力を無駄にするのは痛すぎる。
「あの、あのね…大丈夫。
 びっくりしたけど…ちゃんと、よかったから…」
真っ赤な顔と上がる体温にどれだけこれを言うのに躊躇いが
あったか分かってしまう。
「上等。今度はもっとお前も楽しませてやるよ」
「へ? ちょ…待っ…どうしてそうなっちゃうの?」
抵抗も抗議も虚しく、上機嫌な彼に封じられる。

開かせた脚の中心に顔を埋め、直に蜜を舐め取る。
「ゃあっ…アリオス…だめ…」
時折、内にまで侵入する舌にアンジェリークは翻弄される。
甘い喘ぎ声と淫らな水音が室内に響く。
「も…おかしく、なっちゃうよ…」
軽く歯を当てられアンジェリークは泣きじゃくる。
「見せてみろよ。どんなお前も俺に隠すな」
少女の懇願にアリオスは細い足を肩にかけた。

内に自分以外の熱を感じ、アンジェリークは吐息をつく。
狂わされるのに、ほっとする。
「アリオス…」
「アンジェ…」
もっともっと繋がっていたくて彼に腕を伸ばす。
そうすれば彼はしっかりと抱き締めてキスしてくれる。
抱かれる時に泣いてしまうのは嬉しいからなんだな、と思う。
「アリオス、大好き…」
その微笑みがどれだけ美しくて、彼を煽るか少女自身に自覚はない。
(どこまで俺を振り回す気だよ…)
内心アリオスは苦笑しながら、少女を強く抱き締める。
「愛してる」
「アリオス…」
ひとつになれるコトが嬉しくて幸せで気持ちよくて。
夢中になって求め合った。




眠り始めてまだ少し…だけど朝の光にアンジェリークは目を覚ました。
身体がだるい。
しかし、学校へ行かなくてはと真面目な少女は起きようとする。
「今日は休んじまえよ」
眠そうな目をこするアンジェリークを抱き寄せてキスをした。
そんなアリオスも気怠げである。
「…そうもいかないよ。シャワー浴びてくる」
そうしたいと思う気持ちもあるけれど、アンジェリークは素で優等生である。
アリオスの魅力的な誘いを断ってベッドから出た。

「っ!?」
瞬間、アリオスの視界からアンジェリークが消えた。
これにはさすがにアリオスも驚いて起きあがる。
「おいっ」
ベッドの脇にアンジェリークが呆然と座りこんでいる。
「…うそぉ……。立て、ない…?」
その情けなさそうな表情が可愛くて、アリオスはくっと笑った。
「アリオス! アリオスのせいなのに〜…」
アンジェリークは真っ赤になって、抱き上げる彼を睨みつける。
「私、もうやだって言ったのに…。あんなに…いっぱい…」
初めての事態にアンジェリークは少々パニック気味で涙を浮かべる。
この状況が初めてだということ自体、彼が今まで抑制していたことを
暗に指し示していたりするが…。

「アリオスのばかぁ〜〜。どうしてくれるのよぉ〜」
ぽかぽか飛んでくる少女の拳はとりあえず放っておき、宥めるために抱き締める。
「ま、とりあえず今日は休みだな。
 さすがに俺もここまで予想つかねぇよ」
「う…。そ、だよね…」
口ではそんなことを言っておきながら、胸中ではあれだけ
やり尽くせば仕方ねぇかも…と納得しているあたり食えない男だが。
アンジェリークに同情を禁じえない。
「でも…もうこんなのはダメだからねっ」
「時々は好きにしていいって言ったじゃねぇか」
すでに言質をとっているアリオスは少女の抗議もなんのその。
たいして反省してないらしい。
「だって…」
「お前相手だと歯止めがきかねぇんだよ」
「っ!」
ストレートすぎる殺し文句にアンジェリークは絶句する。
金魚のように口をパクパクするしかできない。
「ば、ばかぁっ…もう知らない!」
とても目なんて合わせられなくて俯いて熱い顔を覆う。
「誉めてんじゃねぇか」
心外だな、とばかりに肩を竦めるがその意地悪げな笑みを見たら
少女の反応を楽しんでいることはすぐに分かる。


ようやく熱がひいてきたアンジェリークはずっと抱き締めて離さない彼に呟いた。
ここで許してしまうあたりがアンジェリークである。
「……本当に、本っ当に…時々しかダメだからね…」
「くっ、分かってる」
彼の楽しそうな笑顔が少しだけくやしくてアンジェリークはむ〜、と見上げる。
「…いいもん。珍しいアリオス見られたから…」
「あ?」
「アリオスだって、夢中だったわ」
「………」
いつも余裕を残していそうな彼だったが、昨夜はそうでもなかった。
汗が光るその表情も、早くなる呼吸も
男の人とは思えないくらい色気があって。
今も気怠さを残す彼に抱きついて微笑んだ。
そこまで乱れさせた自分に少しだけ誇りを持てる。
「…だから、おあいこだもん…」
せめてもの意趣返しとしてのこの言葉も
頬を染め、拗ねたような仕種で呟いてはちっとも反撃にはならず
むしろ彼を喜ばせることにしかなってない。
不幸なことに、そしてアリオスにとっては幸いなことに
アンジェリークはそれに気付くような少女ではない。

「そう言えばシャワー浴びに行くところだったんだよな」
「うん…」
「連れてってやるよ」
ひょいと抱き上げられ、アンジェリークは一瞬凍りつく。
すぐにじたばたと下りようとする。
「い、いいっ。そこまでしなくても自分で…」
「くっ、腰抜けてるくせに。遠慮すんな」
「遠慮なんかしてない〜」
彼が連れていってくれるだけで終わるわけがない。
アンジェリークはほんの数時間前までのいろいろを思い出し
思いっきりうろたえる。
「今日休みになるならゆっくり入れるな」
そしてとどめのアリオスの企んでそうな一言。
「ア、アリオス〜」


結局、狼アリオスに学校を休まされることとなったアンジェリークは
昨夜の続きに付き合うことになったとか。
そして学校ではアンジェリークの欠席にレイチェルとゼフェルが
昨日の一芝居ははたして本当に良かったのだろうか、と複雑な心境でいたとか。



                                        〜 fin 〜

ずいぶん長くなってしまいました。
…のわりにたいしたことない気もして…。
狼アリオス、あんまり上手く書ききれなかったかな(笑)
まぁ…ほんの一部分を書いたということでお許しを。
省かれた部分は皆様の想像の中でしっかり狼にしてあげてくださいませ。

ちかさま、副題の「イイ男が嫉妬する、またはヘコむ姿」
はクリアしましたでしょうか?

ちなみにタイトル『LOVE PHANTOM』は
おそらくご存知の方も多いでしょう。
B'zからお借りしました。

 

       
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