未来確定図



翌日、アンジェリークは顔見知りのスタッフに運良く出会い、アリオスの控え室を訪れた。
(昨日はごめんなさい…それから頑張って、かな?)
言う言葉を心の中で一度呟いてドアをノックしようとした
その時、ドアが内側から開いた。
「きゃ…」
「あ…」
現れたのは昨夜の少女だった。
まだ衣装は身に付けてなく、彼のところに遊びに来ていたようである。
「えーと…スタッフさん?
 もう衣装着る時間かしら」
「いえ…私は…」
アンジェリークがステージに立つ顔ぶれではなかったのでスタッフと判断したらしい。
「急いで戻らなきゃ。
 じゃあまたね、アリオス」
親しげにウィンクすると少女はぱたぱたと駆けていった。

「とっても仲良しなようね。珍しい…」
昨夜といい、普段女性モデルを近付かせない彼がどういうことだろう。
「おい…?」
アンジェリークは泣きそうな顔で微笑んだ。
用意していた言葉なんてどこかへ消えてしまった。
「あの子すごくかわいいもんね」
「…なんか勘違いしてねぇか?」
「『じゃあまたね』って…また二人で会うってことでしょっ?」
昨日はまだ良い、そう思うことにしていた。
でもこんな風に二人っきりで、しかも彼女は明らかにアリオスに好意を持っていて…。
それでも穏やかでいられるほど自分はできていない。
「あっちが勝手に言ってるだけだ」
「でもいっつも適当に断るのに…そうしないじゃない」
「お前、俺にどういう答えを期待してるんだ?」
「私なんかよりもあの子の方がいいってはっきり言ってくれてかまわないっ」
「アンジェリーク」
アリオスはアンジェリークの様子に苛立ちながらも
落ちつかせようと彼女の身体に手をかけた。
「やだっ…」
いつもならおとなしく抱かれる少女が今日は抵抗した。
「あの子にも…こうしたの?」
「そんなに俺が信用できないか?」
彼の険しい瞳と声の低さに怒らせた、と思った。
だけど、退けない。
こんなに不安な気持ちで彼の腕の中にいられない。
「だって…信じたくても…あんなの見せられたら…」
「で?
 お前はどうしたいんだ?」 
冷たく響く声にこんなことをしに来たわけじゃないのに、と悔しくなった。
「お前の話まとめると別れたいって聞こえるんだが?」
「バカっ!」
叫ぶと同時に乾いた音が響いた。
小さな手が彼の頬を打っていた。
涙の零れる瞳で彼を睨みつける。
「昨日…あからさまに目逸らしちゃったからごめんね、って言いに来ただけよ。
 さよならっ」
言うだけ言ってアンジェリークは部屋を飛び出した。

廊下の角を曲がったところで人とぶつかった。
走っていたため、アンジェリークも相手もとっさに避けきれなかった。
「…っ…。
 ごめんなさい」
「…ったぁ…あら、アンジェちゃん。
 ……どうしたの?」
衝突してきた華奢な少女を抱き止めたのはサラだった。
「どうしたのですか?」
その後に続いて来たのはエルンスト。
アンジェリークはサラに泣きつきながら答えた。
「サラさん…私、アリオス…引っ叩いちゃった〜…」
そのセリフに二人ともぎょっとする。
よくあの彼を…という思いと、他の誰かだったら半殺しじゃすまないだろうな…という思いで。
肩を震わせたままアンジェリークは続けた。
「せめて…顔じゃなくて他のとこにしとけば良かった…」
これからステージに上がるモデルに大変なことをした、と言う。
パニクってるんだか冷静なのか分からない呟きに
サラとエルンストは顔を見合わせて苦笑した。

落ち着いて話ができる所にと場所を移され、アンジェリークは最初から話した。
昨日と今日の少女のこと。
「ああ、昨日からべったりだったものね……」
顔合わせの時からそうだったのよ、とサラは肩を竦めた。
「気にする必要はありませんよ」
エルンストは昨夜は別行動だったが、彼女のことは知っていたらしい。
「だって…アリオス、いつもならあんなこと許さないのに…」
気安く触れられることすら嫌なのだ。
「彼女は女性モデルの中でも今回のメインモデルなんです」
今回はちょっとしたイベントのようなもので、メンズもレディースも同時に見せる形となっている。
男性モデルのメインはアリオスで女性の方は彼女となった。
「アリオスもわがままだけど、あの子も負けないくらいでねぇ…。
 機嫌損ねたら…周りの迷惑省みずドタキャンするわよ」
「彼のわがままは仕事に支障は出ませんよ」
マネージャーの贔屓目か、比べてくれるなという口調でエルンストが口を挟んだ。
「…?」
まだきょとんとしているアンジェリークにサラは分かり易く言ってくれた。
「いつものように彼があの子を撥ねつけたら怒って帰っちゃうわ、きっと。
 困るのは私達やスタッフだって分かってるから我慢してたのよ」
「………」
「相当ストレス溜まってたようだけどね」
「…あ、だから昨日…こっちに戻りたくないって言ってたんだ…」
昨日の別れ際、彼の様子がいつもと違ったのを思い出した。
あの少女の相手をするのがわかってたから、行く前からうんざりしていたのだろう。
「…いまさら謝って…許してもらえるかな…」
理由を知ってしまえば、もはや怒りなどはなく後悔しか残っていなかった。





「アンジェリークに会いましたよ」
最初の衣装を着て、メイクをすませたアリオスのところにエルンストは訪れた。
「……」
「泣いていました」
無理して無関心を装う姿が見え見えで、苦笑が零れる。
「良い機会ですから私が慰めておきました」
「エルンスト、お前っ」
意味深な言葉でやっと振り向いた彼にエルンストはけろりと嘘ですよ、と言う。
「サラさんも一緒でしたよ、ご安心を」
「お前なぁ…」
「ちゃんと説明しておきました。
 冷静に説明すれば良かっただけでしょう…」
普段ならこんな大喧嘩にならなかったはずだ、との指摘にアリオスは眉を顰める。
「…悪かったな…。俺も相当イライラしてたんだよ。
 これだから女と仕事するのは面倒くせー…」
少女の相手をすることも、それを見た恋人の反応もアリオスを苛立たせた。
いつもあれだけ愛してると言っても触れても…伝えきれていなかったのか、と
不安そうなアンジェリークを見て思った。
「信用されてねぇ自分に一番腹立ったけどな」
叩かれた彼よりも叩いた彼女の方が辛そうな顔をしていた。
苛立ちと悲しさと後悔と…。
あんな顔をさせたくなかった。
「謝る相手が違いますよ。
 ところで例の計画、どうしますか?
 このまま進めますか?」
「ああ、準備頼む」
そう言うとアリオスはステージ裏へと向かって行った。



アンジェリークは両親と共に用意されていた関係者席でステージを見ていた。
ライトと音楽に合わせて堂々と歩くモデルと斬新な服達に誰もが見惚れる。
華やかなステージに釘付けにされたまま母親がアンジェリークを突付いた。
「で?
 彼ってどれ? それとも裏方さん?」
「さぁ…」
アンジェリークは曖昧に微笑んだ。
(今でもあなたは私の彼…って言っていいの?)



「ショーの途中ですみません」
突然アンジェリークはスタッフらしき人に声をかけられた。
「セイラン先生がお話があると…」
「セイランさんが?」
不思議そうな顔をしている両親に断って、アンジェリークは席を離れた。
バタバタした戦場のようなステージ裏の片隅でアンジェリークは
セイランとオリヴィエに迎えられた。
「ちょっとこっち来てくれる?」
「セイランさん?」
「単刀直入に言うと、これ着て出てくれない?」
「オリヴィエさん!?
 …って、このドレスをですか?」
アンジェリークは大きな瞳を丸くした。
「お願い!」
「頼むよ」
二人に頼み込まれてアンジェリークは困惑した。
「サイズがちょうど君くらいなんだ」
セイランの言葉にきっとアクシデントかなんかで代わりが見つからないんだ、と
納得はできたが…。
「分かりました…。
 でも、私歩けないですよ…?」
ステージの歩き方など素人の自分が知るわけがない。
「だーいじょうぶ♪
 なんとかするから」
「………はい」
不安でいっぱいだったけれど、ここでこれ以上悩む時間も隙も与えてくれなさそうだった。


「本番でしか着たくなかったな…」
あっという間にしっかりきっちりセットされたアンジェリークは小さく漏らした。
「どうかした?」
セイランの問いにアンジェリークは首を振る。
「私なんかがこんなすごいの着ちゃって良いんですか?」
「いいんだよ。よく似合ってる」
「ホントホント。
 自信持って行っておいで☆」
ステージの袖でアンジェリークは緊張に震えていた。
大体なんで客として来た自分がこんな所にいるのだろう。
いきなり大舞台に立たされるなど思ってもみなかった。
震える手をセイランが包んで励ますように微笑んだ。
「アリオスが見てたら怒るだろうね…。
 でもいないから良いか」
「セイランさん…?」
その名を聞いて胸が痛んだ。
彼はこれをどう思うだろう…。
それ以前に今まで通りの関係に戻ることができるだろうか。
「君のために作ったドレスだ。
 自信持って見せてくるんだよ」
「え?」
どういうことかと聞き返す前に、なんと彼はアンジェリークをステージに押し出してしまった。


「え、セイ…っ」
熱いくらいのライトに目が眩む。
歩かないと、と思うのだが足が動かなかった。
真っ直ぐ伸びるステージとその先に広がる人の海。
「アンジェリーク」
立ち竦むアンジェリークは呼ぶ声に反応した。
ステージの反対側からゆっくりと歩いてくる人。
腕を差し延べる彼のところへ迷わず飛び込んだ。
「アリオス!」
「綺麗だぜ?
 似合ってる。これ着てそのまま教会行くか?」
くっと魅力的な笑みで彼は少女を抱き止めた。
アリオスは真っ白のタキシード。
アンジェリークは純白のウエディングドレス姿だった。
アンジェリークをエスコートしてアリオスはステージの中央へと歩いていく。
まさに幸せな新郎新婦のように寄り添い、
客席に向かって微笑みながらアンジェリークは囁いた。
「…もう怒ってない…の?」
「なんとも思ってない、て言えば嘘だけどな…」
「………」
アンジェリークが表情を曇らせる前にアリオスは続きを言った。
「お前のその姿見たらどうでもよくなった」
「アリオス…」
折り返し地点で立ち止まるアリオスに合わせてアンジェリークも止まった。
「きゃっ」
軽々と花嫁を抱き上げた花婿は不敵に微笑んだ。
ギャラリーに、ここにいる何人ものライバルに見せつけるように。
誓いのキスを少女に贈る。
ちなみにオスカーは二人のすぐ下でカメラを構えて仕事をしていた。
「アリオス!」
「帰りはこれで連れてってやるよ」
ターンを知らない少女のフォローだというのが彼の言い分だったが、
関係者全員ただ可愛らしい花嫁を自慢したかっただけだろう、と読んでいる。
アンジェリークは仕方がないから彼の首に腕を回して、幸せな花嫁らしくしていた。
目の前に彼のすっきりとした輪郭の頬があって…言いにくそうに尋ねた。
「赤くなったりした…?」
「メイクで隠してる」
「ごめんなさい!」
「くっ、冗談だ。
 あれぐらいたいしたことねぇよ。気にすんな」
「もうっ…」
「ほら、ラストだ。
 振り向いた時、客席にブーケ投げろ」
「うん」






「も〜大成功だよ!
 ありがと♪ アンジェちゃん」
「いいえ、私なにも…」
ショーが終わった後、そのままホールの一室が打ち上げ会場となっていた。
「ラストのウエディング姿の二人のパフォーマンスが一番好評だったよ」
「セイランさん…でも、私はアリオスに任せてただけですし…」
「うん。もともと彼のアイディアだからね」
「え…?」
ラストにこのシーンを持ってくるのは一部だけで密かに当初から決まっていたが、
アリオスが相手役にアンジェリークを推したのだ。
相手役はアンジェリークでしかやりたくない、というわがままにより…。
「あー、昨日言ってた『特等席用意してる』って…」
これのことだったのだ。
確かに…本番でしか着たくない、と思ってたくらいだから
相手がアリオスだったのはすごく嬉しかったけれど…。
あんな寿命の縮む思いはできれば遠慮したかった。
「パフォーマンス…ていうよりあてられたって感じがするがな」
オスカーが不満そうに苦笑した。
「それでもお嬢ちゃんのドレス姿は眩しかったぜ?」
「オスカーさん…」
今度は俺の隣で着てくれ?と囁かれアンジェリークは真っ赤になる。
「こういう馬鹿がいるからわざわざ見せつけてやったんだ」
庇うようにアンジェリークを抱き、アリオスがオスカーを軽く睨んだ。
「そのおかげで女性陣は大変だったのよ」
今度はサラがアリオスを笑いながら睨んだ。
「あなたに憧れてる子達がどれだけいると思ってんの?」
肩を竦めて本当に大変だったんだから、と言う。
「お客は演出とか思ってくれてるだろうけど、関係者はそうはいかないのよ?」
このシーン自体リハーサルにはなかったし、アリオスはたとえ演出だとしても
『そういうこと』はしないので有名である。
「ショック受けた子は数知れず…キレて帰っちゃったお嬢さんもいてよ?」
「ショーが終わった後なら問題ねぇだろ」
これで俺に近付こうとする奴は減るだろう、と皮肉げに笑う。
「私、虫除け…?」
アンジェリークが不本意そうに呟いた。

「あ、そうだ…ごたごたしてて言うの忘れてた」
ケンカしたり、盛大な仲直りをしたりで言うタイミングを逃していた。
アンジェリークはぽんと手を打った。
「アリオス…。客席にパパとママがいたの」
グラスに口を付けていたアリオスが固まった。
「っ」
アンジェリークはむせそうになる彼を大丈夫?と覗き込む。
「あらら、あんなことしちゃって、もしや第一印象最悪かしら〜?」
「だろうな。どう挨拶するんだ?」
「お手並み拝見、といこうか」
お返しとばかりにサラ・オスカー・セイランが実に楽しそうに笑っている。

そこへエルンストがタイミングよくアンジェリークの両親を案内してきた。
大企業の上層部、第一線でも活躍している、というだけあって
凛とした気品ある紳士淑女の印象だった。
「あ、パパ、ママ…」
「アンジェ!
 もう、びっくりしたわよ。いきなりステージにいるんだもの」
口を開いた母親はずいぶんくだけた雰囲気になる。
「私もびっくりしたわ」
くすくすとアンジェリークは笑ってアリオスを紹介した。
「この人が…その、私の好きな人」
はにかみながらもはっきりと言った。
「アリオス、私のパパとママ」
「はじめまして。アリオスです」
偉そうな部分は抑えられ、堂々とした態度だけが残った礼をする。
「とりあえず…場所を変えましょう。
 ここはギャラリーが多すぎる」
興味津々で背後から覗き込んでいる人々を指し、アリオスは溜め息をついた。


結局、近くの一室に四人は落ちついた。
「本当に驚いたわ…。
 まさかあのモデルアリオスがうちの子の彼氏だなんて」
一番最初に口を開いたのは嬉しそうな母親だった。
「言ってなかったのか?」
「うん。アリオスだとは言わなかったの」
アンジェリークは舌を出して笑った。
「だって、いきなりそんなこと言って信じると思う?
 びっくりさせたいな、て思ったのもあるけど」
「さすが私の子ね、アンジェ!
 こんな息子欲しかったのよ〜」
母親に抱きしめられアンジェリークの方がきょとんとしていた。
「…もっと、反対されたりするかと思った…」
「まぁね…。業界の人だしいろいろと面倒なことはありそうだけど…。
 一年近く仲良く続いてるんでしょ?」
アンジェリークはこくこく頷いた。
それを見て、昨日今日のことは話してないんだな、とアリオスは悟った。
「ええ、良いお付き合いをさせてもらっています」
母親は幸せそうに頷く。
「そう、それにね、私モデルアリオスのファンだから♪ 
 お近付きになれて嬉しいわ」
「え、ママそうだったの?」
「そうよ。パパがいなかったら本気で惚れてたわ〜」
「ママ、それはちょっと…」
「あら、だって私とアリオスさんだってあなたと同じ11歳差よ?」
余裕で許容範囲でしょう、と微笑む彼女にアンジェリークは乾いた笑いを返すしかなかった。
「確かにママ若いけどね…。年より若く見えるけどね…」
「意外にさばけた人だったんだな…」
「………」
アンジェリークは無言で視線を逸らすしかなかった。
「これからも娘をよろしくね」
「はい」
気軽に差し出された手をアリオスは握り返した。

「あなたも黙ってないで…」
会話に入ってこなかった父親に彼女は微笑んだ。
「お前なぁ…そこまで大歓迎で、和んで…いまさら俺に何を言えと言うんだ…」
眉を顰める彼にアンジェリークとアリオスは少し緊張する。
「パパは…嫌なの…?」
かわいい娘に悲しそうに尋ねられ、彼は大きく息をついた。
「アリオスくん…」
「はい」
「大事な娘が親の傍を離れて…恋人ができただけでも気が気でないのが普通だ」
「そうでしょうね」
「しかも相手は一回りも年上で業界の人間。
 心配の種は尽きない」
そう思う親の気持ちも分からないでもない。
だからおとなしく頷いて聞いていた。
「認めるわけにはいかない」
「パパ!」
「…というのが普通なんだろうな」
「つまり?」
アンジェリークほどうろたえることもなくアリオスは静かに続きを促した。
「本音を言えば、認めない、反対したい、という気持ちもあったんだが…」
恋人ができたという報告を受けた後、アンジェリークから手紙・メール・電話で…
楽しそうにこんなことがあった、あんなことがあったと報告という名のノロケを
約一年延々聞かされ続けてきたのだ。
「反対するタイミングを逃したよ」
結局、娘が幸せなら良いではないか、という結論に落ちついたのだという。
それを聞いてアリオスはアンジェリークに向かって苦笑した。
「お前…挨拶する前にずいぶんと裏工作してくれてたんだな」
もっといろいろと言われるかと覚悟していた。
「別にそういうつもりじゃなかったけど…のろけたつもりはないんだけど」
複雑な表情でアンジェリークは呟いた。
「娘をよろしく頼むよ」
「お任せください」
力強い握手が交わされ、アンジェリークは嬉しそうに微笑んだ。


「私達はステージを見ていて思ったんだよ」
アンジェリークの父親はアリオスに話し始めた。
不安そうにステージに出た娘が彼を見た瞬間、顔を輝かせた。
あの笑顔は親にも見せたことがない類のもの。
そして彼は堂々と娘をエスコートしていた。
二人が一緒にいることはとても自然だった。
あそこが教会で、今本当に式を挙げているのだと
言われても納得できてしまう空気が二人にはすでにあった。
「あなたなら娘を任せられると判断した」
どうやらラストステージの相手役は少女じゃないと嫌だと自分のわがままを通した結果、
それが両親を納得させる決め手となったようだった。
「光栄です」
アリオスはふっと微笑んだ。

「お嬢さんは…アンジェリークは運が良いですよ」
「?」
お茶を淹れている母娘を見ながらアリオスは言った。
「この俺を惚れさせた」
そしていつもの不敵な笑みを浮かべる。
「世界で一番幸せにしてみせましょう」
「それは頼もしいな」
そして、とアリオスは続けた。
「俺も運が良い。彼女に幸せにしてもらうことができそうです」
「良い家庭を築けそうだな」
「そのつもりです」
「今度ぜひうちにも来てくれ。歓迎するよ」

しばらく四人で団欒した後、両親は一足先に帰っていった。
「ねぇ、アリオス。パパと二人の時なに話してたの?」
「…そうだな。未来確定図」
「…?
 予想図じゃなくて?」
「もう確定」
微笑んで隣に座る少女を抱きよせた。
「そのうちもう一回あのドレス着てくれるだろ?」
確信した笑みでわざと尋ねてくる。
「…そのうち、ね」
頬を赤らめアンジェリークは頷いた。
「お前用にセイランに作らせたんだ。
 あれ以上のドレスはないと思うぜ?」
「あのセイランさんにそんな事頼んだの…?
 よく作ってくれたね」
「別にお前のドレス作ることに異論はなかったようだぜ」
まだ隣に誰が立つかは決まってないからね、別にかまわないよ、彼はそう言った。
「お前の隣は俺しかいないって決まってるのにな」
「そうだね…」
絶対の自信にアンジェリークはくすくすと笑った。
「何があっても一緒にいるよ。
 …確かに確定図だね」
「だろ?」
アンジェリークの頬に触れ、唇を重ねた。
触れるだけのキスが回数を重ねるごとに深くなっていく。


打ち上げ会場から姿を消した二人が皆の前に現れるのはまだまだ先のようである。


                                      〜fin〜

                            初出 2001.07.10発行 『Sweet Memory』





というわけで、羞恥プレイその2(笑)
総集編っぽく本出して、この話書いて…
いただいた感想の中に「もしや最終回ですか?」
という質問がありました。
確かにそうしても違和感ないなぁと言われて気付きました。
が、こんなに続いてしまってます…。

読み返すと全部書き直したいところだけど
基本的には書き直すまい、と決めてましたが…一部直しました。
時代の流れに従おうかと(笑)
アリオスが電話するところ、当時は公衆電話からかけてました
今じゃ普通に携帯使えますので修正を。
技術って確実に進歩してるんだなぁ…と思ったですよ。




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