帰るべき場所
宇宙の創世の危機。 生まれて間もない宇宙には、女王を助け支える守護聖がまだ存在しない。 つまり、守護聖が現れるまでは女王独りで宇宙を支えなければならない。 その際に女王の心身にかかる負担は絶大となる。 女王であるアンジェリークが倒れた今、伝説のエトワールが現れるまでは 主にアリオスが動いて育成を手伝っていた。 彼女は倒れながらも宇宙の安定を維持するために力を放っている。 維持がやっとの女王に代わり、星々を渡り歩いてサクリアの調査を行うのが アリオスの役目だった。 常人にはこなせないハードスケジュールだが辛いと思ったことはなかった。 彼女が倒れた時の心臓が凍るようなあの恐怖に比べればたいしたことではない。 アリオスは人前に姿を現せないほど衰弱した少女がいる部屋を訪れていた。 謁見の間の奥、補佐官ですら決められた時間でしか入れない場所。 彼だけが自由に出入りを許されている。 この宇宙と繋がった部屋。 宇宙船を使わずにここからアリオスは旅立つ。 「いってくるぜ。アンジェ…」 眠ったままの少女に囁いて、踵を返す。 「いってらっしゃい…気をつけてね」 「ばか、お前は寝ていろ」 眠っているように見えるが、常に意識は覚醒状態で宇宙を見守っている アンジェリークが彼に気付かないわけがない。 ソファのようなベッドに横たわっていたアンジェリークが 海色の瞳を開けて、身体を起こそうとした。 見送ろうとする少女の肩を優しく押し戻して再び横たわらせる。 「これくらいなら大丈夫よ」 見送らせて、とアンジェリークはアリオスの手を取り、儚げな微笑みを浮かべる。 「いってらっしゃい、アリオス…」 「ああ」 少女の唇に羽根のようなキスを落として安心させるように微笑んだ。 「すぐに帰ってくる」 「うん…待ってるわ」 そしてアリオスの姿を認めると嬉しそうに「おかえりなさい」と微笑むのだ。 もうすでに何度も繰り返され、これからも続いていく。 「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」。 自分の居場所を確信させてくれる声。 「俺の帰る場所は他でもない。お前がいるところだ」 〜 fin 〜 |
これはですね…ペーパーにも載せた超短編の加筆版です。 きっとプレイした方なら心当たりがあるかもです。 アリオスがエンジュにいってらっしゃいと言われて 「そんなことずいぶん長いこと聞いてない」みたいなことを言うのですよ。 コレットが「いってらっしゃい」を言わないわけないでしょう!と思って書きました。 あの宇宙にいるんだったら例え特別な関係じゃなくても コレットやレイチェルは絶対言ってくれるはずだよなぁ、と。 アリオスとコレットが会話してるシーン…ゲーム本編で見たかったなぁ。 |