NEW YEAR PARTY


気持ちの良い昼下がり、アンジェリークは2階の渡り廊下から下を眺めていた。
手摺りに肘を付いて、微笑みを浮かべて…。
「なに楽しそうに見てんだ?」
ふいに心地良い声が耳元で囁かれ、安心できる腕に後ろから包まれた。
「あ、アリオス…」
振り向いたアンジェリークの顔がさらに嬉しそうに染まる。
「びっくりするじゃない…。
 お帰りなさい。ごくろうさま」
文句を言いながらもくすくすと笑う少女にアリオスは訊ねた。
「出歩いて大丈夫なのか?」
「もう元気になったって言ったでしょ?」
「まぁな。
 だけど昨日あんまり寝てないだろ」
涼しい顔で口の端を上げる寝不足の原因をアンジェリークは真っ赤になって睨む。
「…そうよ。
 心配するくらいなら…加減してよ…」
可愛らしい恨み事を触れるだけのキスで誤魔化して苦笑した。
「そればっかりはな…」
「もぉ…またそうやって誤魔化す」
アンジェリークも本気で怒っているわけではないので、困ったように微笑んだだけだった。
「で、なに見てたんだ?」
嫉妬を覚えるくらい彼女が優しい瞳で見つめていたものがなんなのか知りたくて訊ねると
アンジェリークは下を指差した。
そこは時折お茶会なども行う白の中庭。
「レオナード様ぁ、さぼってないでちゃんと手伝ってください!」
エンジュの元気な声が響いている。
「土の曜日でもねぇのに茶会か?」
レイチェルやエンジュの指示の下、守護聖達がセッティングをしている。
「うぅん。新年会ですって」
「は?」



レイチェルのところを訪ねていたエンジュが話をしている最中に気付いたのだ。
「あっ、レイチェル様!
 もしかしてもうすぐ新年じゃないですか?」
「ん、そうだよ」
それがどうしたの?と首を傾げるレイチェルにエンジュは言った。
「新年を迎える準備、私なんにもしてないです」
「まー、ずっとバタバタしてたしね。
 仕方ないんじゃない?」
ようやく先日守護聖が揃ったところなのだ。
「それにここでは特別するようなコトってないし」
「そんなの寂しいですよ。
 せっかく守護聖様達が揃ったんですから新年会やりましょう!」
「新年会か…それも楽しそうだネ。
 やろっか☆」



エンジュの提案にレイチェルが賛成して行われることになったらしい。
「新年会だぁ?」
アリオスは呆れたようにアンジェリークを抱いたまま、栗色の頭の上から中庭を見下ろした。
「聖地は時の流れなんてあんまり関係ねぇだろうが」
「うん。でもね…こういうのも大事じゃない?」
ただ日付を数えて過ごすよりも、日常にメリハリが出る。
「まだやることが山程あるってのに…たいしたヤツだな。
 伝説のエトワールとやらは」
「時々は息抜きが必要ってこと、分かってるのよ。
 ほら、みんな楽しそう」
「まぁな」
「楽しいことは多い方が良いわ」
アンジェリークが本当に嬉しそうに微笑むから、それでも良いかとアリオスは肩を竦めた。
「それにしても…」
「ん?」
「見事にまとまりがねぇな」
新年会ということで各自準備をしてきたらしいが、それぞれ慣れ親しんでいた風習が
違うので新年の祝い方も人数分あるらしい。
さまざまな文化がごった煮状態の会場を見下ろし苦笑する。
「あいつらをまとめるとなると相当大変だろうな。女王陛下?」
「それもきっと楽しいわよ」
のんびりと微笑む腕の中の少女にアリオスも微笑む。
「あいつといいお前といい…頼もしいことだ」
「去年は私とレイチェルしかいなかった。
 今年はアリオスやみんながいてくれるから…余裕が出てきたのかもね」
ふふ、と笑ってアリオスの腕に手を添えた。
「感謝してるわ」
「そういうのは行動で示して欲しいもんだな」
「え、えっ…アリオスっ…」
身体の向きを反転させられ、吐息が触れるほどに迫られ
アンジェリークはわたわたと慌てる。
「待っ…ここじゃ…」
「待たない」
「もぉ…」
観念したアンジェリークが瞳を閉じかけた時、下から声が投げられた。
「アリオスー!
 そんなとこでアンジェを襲ってんじゃないわよっ!」
腰に手をあて見上げているレイチェルが、見計らったようなタイミングで怒鳴っている。
その横でエンジュも手を振っている。
「アリオスさーん、陛下襲ってるヒマあるならこっち手伝ってくださーい」
「………あいつら…」
「エンジュまで…」
ちっと舌打ちをするアリオスの腕から抜け出し、
アンジェリークは頬を染めたまま下に手を振った。
「私も手伝うわ」
そして下に下りるべく、階段に向かう。
「アリオス」
それを見送っていると、アンジェリークは振り返って手を差し出した。
「アリオスも行くのよ」
「は?」
「いつもお茶会には参加しようとしないんだもの。
 今日くらいは一緒に行きましょ」
アリオスに彼女の手は拒めない。
素直についていくのも癪なので…差し出された手を取って
自分の方へと少女を引き寄せた。
「きゃっ」
「その代わり、さっきの続きは覚悟してろよ」
バランスを崩してアリオスの方へとよろめく身体を抱き止めて、
囁くついでに耳朶を甘く噛む。
「〜〜〜っ、アリオスの…ばかっ」
「ほら、行くぞ」
アリオスは喉で笑って彼女の文句を受け流し、アンジェリークの手を引いて歩き始めた。




穏やかで平和な午後を過ごした面々だが
約1人…平和とはほど遠い夜を過ごした人物がいたとか…。
しかしそれは当人同士だけが知るところである。

                                            〜 fin 〜



2004年のご挨拶として送らせていただいた創作です。
(忙しくて内輪の人達にしか送れませんでしたが…)
フォルダ整理をしていたら発掘しました。
おそらく、2007年現在これを読んだことある人は
そんなにいないだろうな、と思ってUPしてみました。




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