OUR ROOM
「よぉ、どうした? むっつり黙り込んで」 年末年始の祭事を視察するという名目を付けて久々に『外』に出かけたのだが…。 用意されていた部屋の暖炉に火を入れたアリオスが苦笑気味にアンジェリークに声をかけた。 「別に…」 ベッドに腰掛けていたアンジェリークは呟いてぷい、と顔を背けてしまう。 聞かなくても原因は分かっている。お忍びで出かけたショッピング。 年頃の少女のように買い物をする機会などこの少女には滅多に有り得ない。 それだけにとてもはしゃいでいた。 アリオス1人を供に…という気軽さと嬉しさがあったせいもある。 アリオスもそんな少女を可愛いと思い、付き合ってやっていたのだが。 しかし…ものには限度がある。 加えてアリオスは気が長い方ではない。 一向に終わる気配がない買い物にいい加減飽きてきた。 実際はそんなことはないのだが…買い物に夢中で彼女1人でも 十分楽しそうな点もアリオスの機嫌を少々悪くさせるに一役かっていた。 だからつい大人気なく言ってしまったのだ。 『ねぇ、これ…どうかな?』 期待の混じった笑顔でショールを身体にあてて訊ねる少女に。 『なんだそりゃ、似合わねぇー』 本当は似合っていた。少女らしい薄い桃色のショール。 彼女の雰囲気とも合っていてそこだけ一足早く春が来たような印象を与える。 『…そう』 アリオスの返事にさっきまでの明るい笑顔が一瞬で消える。 俯く少女にアリオスは一見ポーカーフェイスを保ったままだが内心慌てた。 (言い過ぎたか?) ころころ変わる表情は見ていて和まされるが泣かれるのは別である。 『じゃあ、いい』 店を出て行く背中が怒っているのを察してアリオスは 我ながら捻くれていると思いつつほっとしたのだ。 泣かれるよりは怒っている方がまだマシだな、と。 「…ひょっとして、さっき俺が言ったことでまだむくれてんのか?」 じっと上目遣いに睨むその様子をおかしそうに眺めながらアリオスは続けた。 「クッ…そんなに頬ふくらませてると、ホントにそんな顔になっちまうぞ」 「いいもん」 「………」 アンジェリークは言葉少なに返事してそっぽを向いてしまう。 ご機嫌斜めな横顔にアリオスは肩を竦めた。 「大体、お前が悪いんだぜ?」 「なんで?」 アンジェリークは自分が何をしたのかと言わんばかりに問い返した。 「いきなりあんなピラピラしたショールを身体にあてるからよ。 だから、俺は素直な感想を言ったんだ。 『なんだそりゃ、似合わねぇー』って」 「っ…。 お世辞を言えとは言わないけど…それでもひどいよっ」 「そしたらお前、今みてぇに急に怒ってよ…」 「だって…」 彼の口が悪いのは百も承知だけれど…。 それでも好きな人にそんな風に言われるのは傷つく。 一目で気に入ったショールだけに落胆は大きかった。 「おい、聞いてるのか?」 涙ぐんでいたアンジェリークはその声に顔を上げた。 「ったく、そうやってすぐ俺の言うこと本気にするんじゃねぇよ。 あれは冗談だ、冗談」 「え?」 「似合わねぇっつったのは、本心じゃねぇ」 「じゃ、なんで…あんなこと…」 滲む涙を拭ってやり、アリオスは溜め息をつきながら答えてやった。 「買い物となると夢中になるからな、お前は。 俺なんかいなくても十分に楽しそうだったしな。 だからちょっとからかってみただけだ。 …悪かったよ」 「なっ、そんなことないよっ。 アリオスと一緒だから…つい、はしゃいじゃって…」 だから時間の経つのも忘れてしまった。 一生懸命訴える様子が愛しくてアリオスに笑みが漏れる。 「ほら、欲しかったんだろ、このショール」 アンジェリークが怒って出ていってしまった後に買ったショールをアリオスは差し出した。 「買っておいてやったぜ。 似合わねぇなんて嘘だ。まぁまぁ似合ってたぜ?」 「アリオス…」 彼流の誉め言葉にアンジェリークは呆然と彼を見上げる。 「クッ、いらねぇのか?」 「いるっ。いります!」 慌てて包みを受け取って、お伺いを立ててから包装を外していく。 「外は寒いからな…またお忍びで出かける時はそれ着て行けよ。 どうせ明日視察が終わったら初詣ってやつに行きたいとか言うんだろ?」 「アリオス…」 問題のショールを羽織ってアンジェリークは嬉しそうにはにかむ。 勝手に不機嫌になってひどいことを言ったくせに…。 ちゃんとこうやってフォローしてくれる。 傷ついた気持ちも怒っていた気持ちもどこかに消えていく。 買い物していた時よりも幸せにしてくれる。 「ありがとう…」 「おい…なんて顔してんだよ?」 「え?」 さっきまでのような仏頂面はしてないはずだけど…とアンジェリークは首を傾げる。 鈍いアンジェリークにアリオスはまたひとつ溜め息をついた。 あんな表情されたら男ならひとたまりもない。 自分の笑顔がもたらす効果を欠片も自覚していない少女をアリオスはそっと抱き寄せた。 「お前がそうやって無防備だから…お前を放っておけなくなるんだぜ」 「アリオス…?」 「…いや、それだけじゃない」 さらに強く抱きしめて囁く。 「…お前を離したくない、独り占めしたいって思っちまうんだ」 宇宙全てを愛する女王など辞めさせて攫ってやりたいと思うことすらある。 自分だけを見て自分だけに笑いかける少女。 だけどそんなことは彼女も自分も本気で望んではいない。 だから仕方ない。 彼女の周りにどれだけの人がいてもかまわない。 その中で自分は彼女を独占させてもらう。 「…俺は本気だぜ。さぁ…どうする?」 抱きしめて不敵な笑みを浮かべる彼を驚きながらも見つめて… そしてアンジェリークはくすりと微笑んだ。 「言わなきゃ分からない?」 ショールのお礼と彼の問いに対する返事を含めて、笑みを浮かべる唇にそっとキスをする。 「クッ…そうくるとはな」 不意を突かれて苦笑するアリオスを見つめて アンジェリークは1本取ったとばかりに可愛らしく微笑む。 しかしその余裕はその時までで…。 次の瞬間には自分が贈ったものとは比べ物にならない激しいキスを贈り返された。 「んっ…アリオス…っ」 そのまま腰掛けていたベッドに押し倒されて慌てて待ったをかける。 「今日は…ダメだってばっ…。 明日も視察あるんだからぁっ」 「お前の返事…もちろん言われなくても分かってるぜ?」 正しく受け止めたくせに「好きなように解釈させてもらったぜ?」と口の端を上げる。 そして遠慮なくアンジェリークのショールを奪い、衣服に手をかける。 アンジェリークはやはり彼の方が一枚上手だったと気付いたけれど それはもはや手遅れで…。 「アリオスだって…んっ…お仕事あるでしょぉっ」 「これくらいで支障をきたすわけねぇだろ」 アンジェリークの抵抗もなんのその。 少女の身に纏うものをほとんど脱がせたアリオスは余裕の笑みを見せる。 「安心しろ。寝る時間くらいはやるよ」 優しいキスと共にこう宣言されたらもう抗いようがない。 「本当に…?」 念を押すのが精一杯。 頷くそれが保証されたことなど数えるほどしかないけれど…。 だからもう一つ保険をかけておく。 「…優しくしてくれるなら、いいよ…」 そっと背に回される腕と真っ赤な顔で紡がれたその言葉に アリオスは一瞬眉を上げて喉で笑う。 「…了解」 翌朝。 「アリオスのうそつきーっ。ケダモノ〜! 大っ嫌いなんだから〜」 「仕方ねぇだろ。お前だってノってたくせに」 「なっ…! ばかばか、アリオスのばか〜!」 「それだけ元気がありゃ大丈夫だろうが。 もっとやっても平気だったんじぇねぇのか」 「〜〜〜アリオス!」 2つの約束をしていたにも関わらず… 最初は確かにそのつもりだったにも関わらず… それらをことごとく破ったアリオスはアンジェリークに責められていた。 あまりの可愛らしさに抑制が効かなかったという理屈など 言ったところで分かってもらえるはずもなく… かといってアリオスが大人しく責められる性格でもなく…。 女王陛下の正装を持ってきた侍女が寝室から聞こえてきた痴話ゲンカに しばらく入るのを躊躇っている光景が見られたとか…。 〜 fin 〜 |
タイトル通り、CD『LOVE CALL』創作です。 MY ROOMじゃなくてOUR ROOMですが(笑) だってこの2人の場合、というかアリオスさんの場合 一緒の部屋な感じがするんですよねぇ。 他の方はアンジェの部屋を訪ねる、という形が合ってるのですが 私的にアリオスさんはアンジェの部屋に帰ってくるという感じがして…。 で、イラストにトロワのED、押し倒しスチルがあったのでラストも こんな感じになってしまいました。 本当はその手前で終わるはずだったのにな…。 しかも無理矢理お正月ネタにしてしまったし…(笑) 実はこれお正月にお世話になった方や メールを下さった方に年賀メールとして送るつもりでした。 しかし忙しさに断念…ごめんなさい…。 実際にお渡しできたのはごく少数でした…。 このまま日の目を見ないのも可哀想なのでここで公開〜。 |