『 冬  蜂 』

  田川 みさ  
 
 頭の上で蜂がブ−ンブ−ンとうれしそうな?うなり声を立ててとび廻っている。夕方洗濯物を取込む時に寒さでとべないで困っているのを娘が部屋に入れてやった蜂である。蜂蜜でもやって見ようかと思っている中に声がしなくなってス−ッとスト−ブの上に落ちてきた。びっくりしてあわてて助けようと手を伸したけれど熱くて駄目だった。
 『家の中に入れなければ死ななかったのに』 と私は文句を言った。
 『助けようと思ったから入れたのよ』 と娘は言い返す。
成程とは思いながら 『それでも死んだじゃない』 と言おうとしたけれど止めにした。
仰向になって手足をかすかに動かして死んで行った蜂を忘れようとしてテレビの方に眼を向けるけれどやはり思い出す。
 『お薬缶をかけておけばよかったのにね』 といったら、
 『まだ考えているの』 と娘は笑っている。
スト−ブから上る熱気に巻込まれた蜂が、うかつだったか、人間の浅知恵を笑うべきなのか。
冬の蜜蜂のあわれな最期であった。

                                    第 5号(昭和47年) 
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