『 こうりょうさにげんけさ 』

   片野 信作   
 ありゃさにこりゃさ、見たいだがさにあらず、我が家の菩提寺である超願寺の役僧の名である。おそらく幸良様に源海様とでもいうのであったろう。
新潟では「さん」を「さ」と発音する。私は座敷の大仏壇を枕に悠々と十五畳の部屋を独占して寝ていたのである。毎月の仏日にはどっちかの役僧が朝早くやって来て私の寝ている枕元に座ってお経を上げる。勿論仏壇に向ってである。この仏日が又実に多い。まだ学生だった私はバツが悪いのでいつも布団をかぶって知らぬ顔をしていたが、いつの間にかお経を覚えてしまった。
仏壇の前の小僧習わぬお経をよんだのである。
       「仏説阿弥陀経如是我聞一時仏在舎衛国・・・・・・・」云々
 私のこの阿弥陀経を今私の孫で高校へ行っているのが覚えていて、この間の長野旅行に「経本」を買ってきて曰く 『ハイお爺ちゃん、お土産だよ』 といって私にくれた。・・・・・いやはや。

                                    第 6号(昭和47年) 
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