『 故  郷 』

  徳永 シゲノ  
 私の故郷は唄にもある通りの港の町、坂の町、昔からの石畳もなつかしい長崎です。天主堂や、グラバ−邸のある大浦という所で生まれ育ったので、あのあたりは特になつかしい。
朝6時に天主堂の鐘が鳴り渡り、澄んだきれいなひびきがたまらない程すがすがしい気持になります。今も昔と変らず十年一日の如くという言葉の通り、もう何十年も何事もなかった様に平和に時を告げております。グラバ−邸の並びには、各国の大公使館が隣接して建っていて、それぞれの国旗が風にひるがえり、異国情緒豊かな風景が今でも忘れられません。
 夏になればオランダさんのお墓に赤いカンナの花が一面に咲いて、とても美しいと思うが、異国に眠る地下の仏様の事を考えるとあわれにも思われます。
長崎の三馬?と言って、昔から三つの大きな行事があります。4月のハタ揚げ(タコあげ)、お盆の精霊流し、秋の諏訪神社のお祭りはとても賑やかです。
お盆は長崎中のお墓に提灯や電気がともって、まるで不夜城の様に美しかった。家族や親戚の人々が墓前に集って、先祖の霊をなぐさめたのです。子供達は線香花火や爆竹をならして楽しんだものです。今でもお墓は線香の匂いと爆竹などの匂いでむせかえるようです。長崎は昔からお墓を大切にする所だと思います。
稲佐山から見る夜景はルビ−やサファイヤ、エメラルド等の宝石をちりばめた様な、たとえようもない程の美しさです。港を行き交う遊覧船のあかりも、ふぜいあって美しい。
 私は毎年のように帰りますが、昔歩いた所や思い出のある所は昔をしのび乍ら足まかせに歩いて見ます。あたりも大分変わっていて淋しい気がしますが、それよりも親しかった友人知人が次々と亡くなられて本当に淋しい気がいたします。
長崎駅で帰路に立つ折には、又元気に長崎の土をふむ事が出来るかと心を残して帰って来ますが、今年も又元気で行かれそうです。
 いつ帰っても故郷の山や海、それに子供や孫達が温かく迎えてくれます。
本当に故郷は身も心も温めてくれる所です。

                                  第20号(昭和51年)
 
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