『 早   春 』

   井野崎 英子  
 戸外に出ると、つめたい風に思わず首をちぢめてしまう。けれど路のほとりには青々とした葉をのばした草が胸をはって歩きなさい、春はもうすぐそこに来ていますよと話しかける様に延びている。空を見上げると、高くのびた木々の枝にも何かもやの様にかすんだ春の気配が感じられる。
 コ−ラスで歌う早春賦は私の一番好きな曲だ。夕焼け小やけを作曲なさった早川信先生に教えていたゞいた女学校の頃、一人っ子の私はどこへ行くにも母と一緒だった。いつも私が歌うので、母も覚えて親子でうたいながら歩いた。その母ももう亡くなった。
 今コ−ラス部でこの歌を合唱すると若かりし頃の思い出が次から次へと浮かんでは消える。64才になって明治会の方々と思いきり声をはり上げて歌える月曜日のひとときが本当に楽しい。私の友達は六、七十時代はいぶし銀の時代よと教えてくれた。老後等と言わず、若い人にはもてないいぶし銀のよさを発揮して元気に過しましょう。

                                     第21号(昭和52年)
 
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