My little Emperor
「ん…」 朝の光と鳥の声にアンジェリークは目を覚ました。 「あれぇ…? 寒くない? まだ夢の中かな……」 この部屋には暖炉はあるが、燃やす薪がない。 朝はベッドから出たくないほど寒いはずなのだが……今は適温に保たれている。 レヴィアスの魔法のおかげなのだが、彼が魔法を使うことなど知らない 少女には原因が分かるはずもない。 アンジェリークは寝ぼけた頭でぼんやり考えてしまった。 「何を言っている」 呆れた声にアンジェリークが目を向けると、横の小さなデスクの上に昨夜見た不思議なモノがいた。 「えーと……? あれぇ、夢…じゃなかったっけ?」 アンジェリークはう〜ん、と腕を組みながら記憶を辿った。 確か昨日はいつものように深夜まで働いて……黒猫にミルクをあげて……。 そう、そこで自分も紅茶を飲もうとして……その後……。 たっぷり考えて……それから目を丸くしてレヴィアスに問いかけた。 「………? レヴィアス…に会ったのって夢じゃないの?」 「鈍すぎるぞ。 まぁ……何も話さぬうちにお前は浴室で倒れたから 夢と思っても仕方ないかもしれんがな……」 「だってこんなの夢とかおとぎ話みたいじゃない〜」 弁解気味に反論しかけて……そして思い出したようにアンジェリークはレヴィアスに向き直った。 「そうだ。 夢じゃないなら……」 「なんだ?」 「ありがとう。 昨日ここに運んでくれたのはレヴィアスなのよね。 意外に力持ちなのね」 にこにこと笑って御礼を言う少女にレヴィアスは眩暈を覚えながらも受け流すことにした。 ついアンジェリークの言い方から、この小さな姿で少女を引きずって運ぶ自分を想像してしまった。 「それにすごく楽になった気がするの。 本当にありがとう」 「あ、ああ」 こんなに無邪気な笑みを向けられたのはもしかしたら初めてかもしれない。 レヴィアスは新鮮な感覚に戸惑いながらも言葉を繋いだ。 「それより早く支度をしないといけないのではないか? 仕事があるのだろう?」 「あ、うん」 「あまり落ち着かないが、話はそこですれば良い」 「ごめんね。 ゆっくり話せなくて」 「気にするな。 昨夜だけでお前に迷惑をかけられるのは仕方ないと悟った」 「う……本当にごめんね」 「気にするなと言っているのになぜ謝る?」 しゅんとしながら着替える少女にレヴィアスは不思議そうに問いかけた。 「だって……」 「お前が我に迷惑をかけてもかまわない。 謝る必要はない」 皮肉でもなく、ただ真っ直ぐに見上げる小さな瞳をアンジェリークは見つめ返した。 「我はお前の為にここにいる」 「レヴィアス……?」 なぜ彼がそこまで言ってくれるのか、まだ分からないアンジェリークは ただ彼を見つめ返すしかなかった。 簡単な朝食を摂った後、アンジェリークは身が引き締まるような早朝の寒さの中、 屋敷周辺の掃除をしながら、前方に漂っているレヴィアスに小首を傾げて問いかけた。 幸い近くに人はいないので普通に話すことができたのだ。 「新月の晩の魔法?」 「魔法というよりは召喚儀式だな」 「召喚……儀式?」 なんだか物語の中に出てきそうな話ね、とアンジェリークはまだ首を傾げている。 「でも、どうして私があなたを呼び出せたの? なんにも知らないのに……」 「我を呼び出す条件が偶然だとしても揃ったのだ」 せっせと箒で落ち葉を集めて庭の外観を綺麗にする少女を見ながらレヴィアスは答える。 ぱちん、とレヴィアスが指を鳴らすとアンジェリークの集めた落ち葉の山が 自ら袋の中に飛び込んでいく。 「……すごぉい。あっという間に終わっちゃった。 ありがと。手伝ってくれたのね」 ぱちぱちと拍手するアンジェリークにレヴィアスはふん、と肩を竦めた。 「月のない晩……真夜中にある紅茶を淹れたティーカップに夜空を映して願う。 そんなことをする物好きがいるとは思わなかったが実際にいたとはな……。 おかげでこの我がお前に仕えなくてはならなくなった」 「う……物好きで悪かったわねぇ。 いつもは真夜中に外で飲んだりしないもん」 そう、たまたま黒猫に付き合って、たまたまその日に手に入れたお茶を飲もうと思って……。 でもタイミング悪く黒猫はいなくなってしまったので、誰かにいて欲しいと願ったのだ。 偶然が重なった。 「ふふ……天国のパパとママが私一人じゃ心配だから レヴィアスと会わせてくれたのかな。 感謝しなくちゃ」 「くだらん。死んだ者に何が出来る? 出来たとしても見守るくらいが関の山だろう」 「………そうかもしれないけれど…」 真実だが冷めた物言いにアンジェリークはちょっとだけしゅんとする。 「感謝ならお前自身の運と、呼び声に応じた我にするんだな。 今生きているのは我らだ」 「レヴィアス……」 「いない者をあてにするな。 我を頼ればいい」 偉そうに胸を張る彼にアンジェリークはくすりと微笑みながら浮かんだ疑問を口にした。 「どうしてそんなに親切にしてくれるの?」 「お前は我を呼んだ。 我はお前に仕え、三つの願いを叶えてやる。 それが新月の晩の魔法だ」 「三つの願い……」 「我に願うことがあるのではないか?」 見透かすような金と翡翠の瞳に射抜かれたようにアンジェリークは固まった。 「お前は元々は貴族の令嬢だろう?」 この屋敷のな、とレヴィアスは視線で示した。 「………うん」 アンジェリークは俯き、少しだけ躊躇ってから頷いた。 「三ヶ月くらい前……パパが亡くなったの。 ママはかなり昔に亡くなっていて……」 「アンジェリーク!」 「あ……」 「なに朝の掃除にいつまで時間かけてるの! トロい子ね。さっさと朝食のテーブルの準備しなさいよ」 話を遮るように上の階の窓が開き、アンジェリークと同じ年頃の少女が強い口調で声を投げてきた。 美人の範疇に入る容姿だったが、かなり気の強そうな印象を受ける。 彼女は他にも使用人がたくさんいるのにも関わらずアンジェリークをこき使う。 「はい……キャロル姉様」 「あれは?」 「……私の従姉よ」 困ったような複雑な笑みでアンジェリークはレヴィアスの問いに答えた。 「ごめんね、話はまた後で。 急がなくちゃ」 ぱたぱたと箒や落ち葉を詰めた袋を持ってアンジェリークは駆けていく。 「ふん……」 レヴィアスはアンジェリークの後姿を見送り、そして二階の窓を見上げた。 「面白くないな…」 大きなテーブルに着いたキャロルはアンジェリークを見るなり文句を言う。 「アンジェリーク。ぐずぐずしないでよ。 今日は早めに学校へ行くって言ったじゃない」 「あら、そうでしたっけ?」 そんなこと聞いたかしら、とアンジェリークは斜め上を見上げながら記憶を辿る。 「いつ頃言いました?」 「そ、そんなことどうだっていいでしょ? 覚えてない貴女が悪いのよ」 食後のお茶を淹れながら訊ねれば、キャロルは視線を逸らしながらもそう言い張った。 それで「ああ、本当は言ってなかったのか…」と分かったが追求はしなかった。 きっと昨日彼女を怒らせてしまったからその仕返しなのだろう、と想像できた。 「まったく……両親を亡くした貴女を気の毒に思ってここにおいてあげてるんだから それ相応の働きはしてほしいものね。アンジェリーク?」 「……ごめんなさい、おばさま」 冷たい表情をした婦人にアンジェリークは素直に謝る。 これが一番話が早く済むのだ、とすでに諦めが入っていた。 口答えは許してくれない。 例えアンジェリークの方が正しかったとしても、この屋敷では彼女達が絶対なのだ。 「もういいわ。馬車の準備をさせておいて」 「はい。もう伝えてあります。 いつでも出発できます」 「そう? それならいいわ」 キャロルは席を立つと鞄を持ったもう一人の使用人を従えて部屋を出て行った。 「貴女もいつまでもここでぼうっとしてないでさっさと行ったらどうです? 遅刻なんてしてうちの名に傷をつけないでちょうだい」 「はい。いってきます」 早めに退室しようとすれば、「仕事を放り出して行くのか」と言われるし 最後までいようとすれば今のように皮肉を言われる。 どちらにしても二人ともアンジェリークに文句を言いたくて仕方がないのだ。 受け流すしかないと学習した。 「まったく……面白くないな」 「何が?」 アンジェリークがとことこと歩きながら、学校にもついていくと主張したレヴィアスに問いかけた。 なぜか彼も先程から機嫌が悪い。 アンジェリークはどうしてみんな怒りっぽいのかなぁ、とのんびり考えていた。 「何が、ではない。全て気に食わぬ。 どうしてあいつは馬車で、お前は歩いて行くのだ?」 「……私と一緒はイヤみたい。 クラスも同じなんだけどね……。 大丈夫、学校へは徒歩でも行ける距離よ」 ふわりと微笑む少女をまじまじと見て、そしてレヴィアスはひとつ溜め息を吐いた。 「お前は強いんだか、流されているんだか、諦めているんだか……分からん。 ……学校へ行くまでにさっきの続きを話せ」 憮然とした命令口調。 本当なら気に障ってもおかしくない態度なのに なぜか彼が言うとぴったり合っていたし、手の平に乗る人形サイズのせいか どこか微笑ましいものがあってアンジェリークは特に抵抗もなく頷いた。 「両親がいなくなった、っていうところまでは話したのよね」 「ああ」 「えーと……確かパパのお葬式を終えた後だったかな…」 今まで音信不通状態だったおばが子供を連れて現れたのだ。 彼女は我が強く奔放な性格で、温厚だが真面目で芯の強いアンジェリークの父親とは たった二人きりの姉弟だったが折り合いが悪かった。 「おばさんはね、家族の反対を押し切って婚約者じゃない人と駆け落ちしちゃったんだって。 それっきりおじいさまおばあさまともパパとママとも連絡取ってなくて……」 風の噂で駆け落ちしてまで一緒になった男性とは別れたと聞いた。 「それが突然訊ねてきて……びっくりしたなぁ。 私、話には聞いてても会ったのは初めてだったから」 アンジェリークのおっとり口調で聞いていると誤魔化されそうだが、 話自体はとてもそんなに落ち着いて聞いていられるものではない。 「要するに、遺産目当てで戻ってきたんだな」 「私はまだ未成年で家は継げないし、それまでの間の後見人だって言って……」 連絡は途絶えていたが、勘当されていたわけではない。 話の筋は通っているため、誰も文句は言わなかったのだが……。 「たかが後見人が次期当主を使用人として扱うのか?」 「うぅん……今は後見人じゃないの。 ある日おばさまが言い出したの。 私のパパのお姉さんなんだから、自分がコレット家を継ぐはずだったんだ……って。 次期当主は私じゃなくて自分の子供のはずだって」 「……勝手なことを」 眉を顰め、吐き捨てるように呟くレヴィアスにアンジェリークは苦笑した。 「順番で言えばそうなのよ。 コレット家は男の人が後を継ぐ、なんて決まりはないし。 いなくなってしまったからパパが当主として色々こなしていただけだし…… 私はまだなにもできない」 「当主の役目を放棄した者がいまさら取り戻そうなど都合が良すぎる。 そいつに当主の権利などない」 虫が良すぎる。 切り捨てるようにレヴィアスは言った。 「でも……それを言える人なんていなかったの…。 気付けば弁護士さんとか決定権のあるような上の人はおばさまの味方になっちゃって……」 ある日突然、知らない顔ぶれに囲まれて告げられた。 もう今までと違うのだと。 屋敷に仕えていた馴染みの者達も半数ほどが入れ替えられた。 アンジェリークは思い出したせいで滲んできた涙を乾かすように、 青く晴れた空を見上げながら呟いた。 「その日から私が居候。 あの人の慈悲で置いてもらっているだけで お客人扱いはしない、使用人として働くように…ですって」 最初はアンジェリークが屋敷の主人で彼女達が客だった。 しかしおばの策略でほんの少しの間に立場が逆転していた。 キャロルが使っている部屋は元はアンジェリークの部屋だった。 おばが使っているのは当主の部屋、父親の部屋だった。 「たいした理屈だな」 「私がなにもできないから……仕方ないの。 学校はあともう少しで卒業だから行かせてもらってる」 ほら、とアンジェリークは前方に見えてきた建物を指差した。 「あれがその学校。 スモルニィ学院よ」 スモルニィ学院。 この国の貴族は大抵ここに通うという名門学校である。 そして、いわば社交場の予備会場とでも言える教室のひとつでアンジェリークの親友、 レイチェルが彼女の肩辺りを指差して声をあげたのだった。 「アンジェ!? なにソレ! いったいどうしたの?」 「え?」 アンジェリークも親友の驚いた声と表情に驚かされた。 肩の上に乗っかっていたレヴィアスを見て彼にしか聞こえないように囁く。 「他の人には見えないんじゃなかったの?」 「見えないはずだが……」 不思議そうに顔を見合わせている二人にかまわずレイチェルは言葉を続けた。 「その髪! どうして切っちゃったの? もったいない〜。短いのも似合ってるけどさ」 「あ、髪……?」 「なんだ、そっちか」 紛らわしいとばかりにレヴィアスが小さな肩を竦めてアンジェリークを見上げた。 「切ったばかりなのか?」 「昨日……」 せっかく綺麗に伸ばしていたのに……と 自分のことのように嘆いているレイチェルにアンジェリークは微笑んだ。 「ちょっと……ね。 気分転換よ」 微妙な間と曖昧な笑みに鋭いレイチェルはきらりと瞳を光らせる。 「アンジェ。私に嘘はナシだよ」 「レイチェル……」 「どうせまたあのキャロルが原因なんでしょ。 最近ホント調子に乗りすぎなんじゃない?」 ぷりぷり怒る親友を宥めるようにアンジェリークは苦笑した。 「髪はまた伸びるし……。 そんなにレイチェルが怒らないで、ね?」 「もう〜、本当にアナタってばどうしてそこまでされて平気なの? 私だったら絶対許さないヨっ」 「別に平気ってわけじゃないけれど……。 さすがにコレにはびっくりしたし…」 「アナタねぇ……びっくりした、じゃないでしょう!?」 まったくのんきなんだから……とレイチェルは額を押さえた。 「いーい? 今度何かあったらワタシに言うのよ? 絶対タダじゃおかないんだから」 「は〜い……」 まるで怒ることを知らないような親友に業を煮やしてか、 レイチェルがアンジェリークに約束させる。 ただでさえ両親を亡くして放っておけない状況なのに、 現状はますます悪化しているような気がして…レイチェルは心配でしょうがなかった。 「卒業した後どうするかも、そろそろ決めなきゃいけないんでしょ?」 「うん……そうなのよね」 アンジェリークはどこか他人事のようにおっとり頷く。 こんな辺りが根っからのお嬢様らしい。 本当ならこれから一人でどうやって暮らしていくのか深刻に悩むはずなのに。 レイチェルが呆れ気味に肩を竦めるとアンジェリークはふわりと笑った。 「やーね。私だってこう見えてもちゃんと考えてるわよ」 「本当かなぁ?」 「どうだかな」 「ひどい〜」 二人揃っての突っ込みにアンジェリークは頬を膨らませた。 「せめてアンジェを任せられるような人がいれば良いんだけど……」 唯一の親戚はあてにできないし、貴族には珍しくない婚約者も許婚もアンジェリークにはいない。 「いざとなればうちにお嫁においでヨ」 「レイチェルのお嫁さん?」 「幸せにしてあげるよ〜」 軽い冗談めかして言う彼女にアンジェリークも笑い出す。 「冗談はともかく……レイチェルはすぐにエルンストさんと結婚するの?」 互いの親同士が懇意にしていたため許婚となったエルンストとは政略結婚にも関わらず 普通の恋人以上に仲睦まじく過ごしている。 「ん〜、すぐじゃないけど。そう遠くはないカナ」 「ふふ、お幸せに」 「ありがと。……じゃなくって! 今はワタシのことじゃなくてアナタの問題でしょ。 そういう人……いないの? 家が決めた相手じゃなくても、付き合ってる人とか」 「うん。いないよ」 あっさり答えるアンジェリークにレイチェルは分かってたけど……と溜め息をつく。 「いたらアンジェがこの私に隠し通せるわけないもんね……」 モテるクセに……持ち前の鈍さで数々のアプローチをスルーしてきた親友を 間近で何年も見てきたのだ。 ここでいるという返事は期待していなかった。 期待していなかったが……それでも念のために聞いてみたのだ。 「あ、でもね。 アテに出来そうな人はいるのよ?」 アンジェリークはぽんと手を叩いてにっこり笑った。 「えー、誰? オスカー様? それとも……あ、ティムカ様? んーと、他にいそうなのって言ったら……」 すでに卒業してしまったが、時折学校行事に招待されるオスカー伯爵か……。 隣国の王太子で親交を深めるために留学してきた後輩にあたるティムカか……。 アンジェリークと親しく、なおかつ彼女に好意を持っていそうな人を 挙げていくがどれもぴんと来ない。 「も、もう……レイチェルったら違うわよ…。 オスカー様やティムカ様に失礼じゃない。 あの方達をアテにするなんて言い方しないわよ」 アンジェリークは慌てて両手を振った。 我ならば良いのか?とレヴィアスが面白くなさそうな表情をする。 「そう……? アナタが頼りにしてる、て聞けば両手広げて迎えてくれる人いっぱいよ」 賭けても良いよ、と自信たっぷりに胸を張る彼女にアンジェリークは弱々しく首を振る。 「そんなことあるわけないじゃない」 事実はともかく、寄せられる好意に疎いアンジェリークには冗談としてしか受け取れない。 遠回しな誘いにはもちろん気付かないし、 ストレートすぎても冗談や社交辞令だろう、くらいにしか考えない。 これが『難攻不落の少女』として学園内でアンジェリークが密かに有名な所以である。 「とにかく、アテにできそうな人はいるけどレイチェルの知らない人よ」 「じゃあ……いつか紹介してくれる? アンジェを任せるに相応しいかどうか見極めなきゃ」 「えーと……そういう意味の人じゃないんだけど…」 アンジェリークはちらりと肩の上に乗っているレヴィアスを見た。 紹介して良い?と瞳で訊く。 しかしレヴィアスは首を横に振った。 (どうして?) そう思ったけれども、きっぱり断られたのでアンジェリークは残念そうにレイチェルに言った。 「ごめんね。すぐに会える人じゃなくって……」 「遠方のヒト?」 「かな……? 機会があれば紹介するから、ね」 「絶対だよ?」 そう約束してようやく心配性な親友は自分の席へと戻っていった。 教師がやってくるのを待っている間、アンジェリークは窓際の席に着き 外を眺めるフリをしてレヴィアスに訊ねる。 「どうしてダメなの?」 「それ以前にお前はどう紹介するつもりだったんだ?」 「私の願い事を叶えてくれる紅茶の妖精さんでしょ?」 「………紅茶の妖精…か」 「なに?」 思案するように見上げられ、アンジェリークはきょとんとした。 「なんでもない」 「?」 「それよりも我の事は他人に紹介するな。 我が願い事を叶えることなど話したりしたら周囲がうるさくなる」 自分の願いも叶えてくれ、という輩が押し寄せてくる可能性もある。 「あ、そうか……」 レヴィアスの指摘にアンジェリークは納得した。 「お前が授業を受けている間、出かけてくる」 「え、うん。お散歩?」 「我が授業を聞いてもつまらんだけだからな」 「レヴィアスったら……」 くすりと笑ってアンジェリークは「いってらっしゃい」と小さく手を振った。 〜 to be continued 〜 |