My little Emperor



卒業パーティーを終え、自分の荷物や財産の整理ができると
アンジェリークはおば達や使用人達に挨拶をして新しい家へと引っ越した。
「けっこう良いお家でしょ。
 私一人で住むにはちょっと大きいくらいかな」
二人でちょうどいいかもしれない。
言いかけた言葉をアンジェリークは慌てて飲み込んだ。
「どうぞ。
 皇帝陛下には狭いお家ですが、我慢してください」
ぱたぱたとレヴィアスの前を歩き、自分の胸くらいまでの高さの門を開けて
おどけて彼を招き入れる。
門の先は小さいが庭も広がっていた。
「ああ、過ごしやすそうだな」
アンジェリークの好みがそのまま形になったような外観の家を見上げ、
レヴィアスは満更でもないように頷いた。
「ふふ。こっちがお家の玄関。
 この裏側の……通りに面している方がお店の入り口になるの」
「家と店の中間が厨房、ということか」
「うん。そうそう、屋根裏部屋もあるのよ」
二人で部屋を見回る姿を近所の住人が目撃したなら
仲睦まじい新婚夫婦と信じて疑わなかっただろう。
「部屋は余ってるんだから、レヴィアスの部屋にしても良いのよ?
 本当にいらないの?
 家具買い揃えるぐらいのお金はあるよ」
「店の資金にでもしておくんだな。
 今まで通り小さい姿になればベッドもいらぬ」
「意外に堅実派なのね」
「……我の物など増やさぬ方が良い」
「…………うん」
遠くない別れを示す言葉にアンジェリークは表情を曇らせて頷いた。
分かってはいるけれど……それでも寂しいと思う気持ちはどうしようもない。
「荷物を……」
「ん?」
「荷物を片付けたら散歩にでも行くか?」
「うんっ。
 あ、あのね。行ってみたい場所たくさんあるのっ」
くしゃりと髪をかきまぜる優しい手と元気付けようとしてくれるその言葉に
ぱっと顔を輝かせる。
「やっぱりこの近所のお店は把握しといた方が良いでしょ。
 それに仕入れ先も決めなくちゃ」
「一度には回りきれないぞ」
「は〜い。ちゃんと考えてから行きます」



結局引越し当日は荷物を片付けたりとばたばたしていたので
近所を挨拶がてら歩くだけにとどめておいた。
その翌日、仕入先を決めるべく朝食をとった後、二人で連れ立って出発した。
「目星はつけてるのよ」
「なるほど……」
「あ、レヴィアスにこの辺の地理話してなかったよね」
「そうだな」
「簡単に言うと……この国の中心地にお城があって、
 その周りをぐるっと貴族のお屋敷が並ぶ地区になるの。
 私がいたお屋敷もスモルニィもそこだったのね」
「ああ、だろうな」
アンジェリークは歩きながら、空中に段々と大きな円を描いて説明をする。
「そのさらに外側を埋めるのがこの国で割りと栄えてる……城下町って言えば良いのかな。
 正確にはお城からはかなり遠いんだけれど、町としてはお城に一番近い場所だし。
 あとは畑とか農場とか森とか緑が広がってる。
 そして、私のお家は貴族のお屋敷と城下町の境くらいの地区」
ちょっと躊躇ってからレヴィアスを見上げて笑った。
「ちょっと高い物件になっちゃったけどね。
 どっちの地区の人達にも買ってもらえたら良いなぁって思って。
 まず買ってもらえるようなお菓子を作らなきゃなんだけど……」
「頑張るんだな」
「あ〜、他人事みたいに言ってる。
 二つ目の願いごとなんだもん。こき使うからね」
アンジェリークはくすくす笑って宣言した。
「好きにしろ」
「嘘よ。居てくれるだけでいい。
 レヴィアスが居てくれるだけで頑張れる」
「まぁ、やれるだけやってみろ」
レヴィアスは真っ直ぐ見上げる少女の瞳を受け止めることができず、視線を逸らした。
その先にはちょうど目的地が見えていたので、
アンジェリークも違和感に気付かず正面を指差した。
「あの農場にお話しようと思うの」



「こんにちは〜」
大きな家のドアをノックして……
出てきたのはアンジェリークと同じ位の年の少年だった。
「……誰だ、おめー?」
アンジェリークとレヴィアスを見て、知り合いでもなければ顧客でもないと判断した
彼はぶっきらぼうに尋ねた。
「えーと……仕入れをお願いしたいのですけれど……」
片やどこかトロそうな少女。
片やその少女の後ろで黙って立っているのは
見るからに気品を漂わせている人並外れた美貌の青年。
どちらも客には見えなかった。
商人には見えないし、屋敷の使用人にも見えない。
「本当かよ?」
「これ、ゼフェル。
 お客様になんという口の利き方ですか」
奥からおっとりとした声が少年……ゼフェルに注意した。
「だってよー、ルヴァ。
 客に見えねーぞ?」
「お話を聞けば分かることです。
 こんな玄関で立ち話をせずに、その方達をお通ししましょう」
通されたのは家の中だが仕事場でもある応接室だった。
簡素なテーブルとソファ、所々に花やセンスの良いインテリアが置かれている。
今二人の目の前にいる穏やかな青年らしい部屋だった。
ここでならきっと誰もが落ち着いて商談ができるだろう。
「私がここの農場の責任者でルヴァと申します。
 先程は弟が失礼しましたね」
まったく愛想のない子で……と隣のゼフェルを眺めて苦笑する。
当の本人は「ふんっ」と顔を背けながらも同席した。
「とりあえずお茶でもどうぞ〜」
「ありがとうございます。
 ふふ、気にしてませんよ」
「ではお話を始めましょうか。
 あなた方はうちに仕入れをお願いしたいと?」
「あ、はいっ」
おっとりルヴァの口調から仕事の話を振られてアンジェリークは返事をした。
「今度、お菓子のお店を開きたいと思っていて……。
 いろいろ調べて、ここなら必要そうなものはほとんど手に入りそうだし
 評判も良いみたいだし……」
小麦粉などのベースとなる材料はもちろんのこと、果樹園も持っているこの大農場が
良いのではないか、と思ったのだ。
ここで作られていない物も、ここを経由して取り寄せてもらえる。
「うちからもそんなに離れてないし、えーと……それに…」
「なんでしょう?」
ちょっと恥ずかしそうに口篭る少女にルヴァは優しく促した。
「私そんなに器用じゃないから
 たくさんのトコと契約すると大変そうで……」
話を聞いていたルヴァとゼフェルだけではなく、横に座っていたレヴィアスまで吹き出した。
「ちょっ……レヴィアスまで笑わなくたって…」
「お前が笑わせるようなことを言うからだ」
あれはここ、これはあっち、と各ジャンルごとに契約を結んでも良いのだが
店を開くだけでも精一杯の自分には負担になるだろう、と少女は自覚していた。
「意外に自分を解っているのだな、アンジェリーク?」
「もう、ひどい〜」
「……アンジェリーク……?」
「はい?」
二人の微笑ましい会話を聞いていたルヴァは何かに気付いたようにアンジェリークを見た。
「アンジェリークとおっしゃるのですか」
「ええ。あ、自己紹介が遅れましたね。
 私はアンジェリーク・コレット。こちらはレヴィアスです」
「あ〜失礼かもしれませんが……
 もしかして……あのコレット家の……?」
「はい。そうです」
言いにくそうに訊ねるルヴァにアンジェリークはけろりと頷いた。
「屋敷を出てこの近くに引っ越してきたんです。
 そこでお店を開こうと思ってます」
「そうだったのですか……。
 噂はこちらの方まで流れていましたよ……」
気休めにもならないので多くは語らず、ルヴァはただ頷いた。
アンジェリークはそんな彼の気遣いを感じ取って微笑んだ。
「でも、実はけっこう新しい生活を楽しみにしてるんですよ。
 味方もいるし」
そしてレヴィアスを見て笑う。
「それは良いことです。
 うちで宜しければ力になりましょう」


「ちょっと待てよ。俺は反対だぜっ」
「ゼフェル?」
行儀悪く足を組んでいたゼフェルがまとめかけたルヴァの言葉を遮った。
アンジェリークもきょとんとゼフェルを見つめる。
「お嬢様のお遊びに付き合えるかよ。
 その隣のやつにメンドー見てもらえばいいじゃねーか。
 その方がずっと楽だぜ?」
「遊びだなんて……私は真面目に……。
 それにレヴィアスは……頼りにしてるけど、寄りかかる気はないもの」
きゅっと拳を握ってアンジェリークは静かだけれども
しっかりとした声で言った。
「私一人でもやっていけるようにならないと……」
ちょっと言ってやれば泣いて諦めるかと思ったが……
意外な反論にゼフェルは眉を上げた。
「ふん……根性はあるみてーだけどな…。
 だとしたらなおさら商売舐めてんじゃねーの?」
「ゼフェルっ」
キツイ瞳で一睨みして席を立った少年をルヴァが呼び止めようとしたが、
彼は聞く耳も持たずに退室してしまった。
「ああ〜、申し訳ないです。
 ひどいことを……。きちんと謝らせます」
「あ……いえ…びっくりはしましたけど…」
アンジェリークは呆然としながら首を振った。
「何が気に入らなかったのかな……」
「根は良い子なんですが……」
ルヴァも弟の態度が解らずに首を傾げていると、ゼフェルはすぐに戻ってきた。
「ゼフェル?
 いったい……」
「ルヴァは黙ってろよ」
ゼフェルは兄で責任者である彼に偉そうに言って、アンジェリークとレヴィアスを真っ直ぐ見た。
「これはうちで扱ってる果物の一部だ」
「?」
持ってきたベリー系や柑橘系のフルーツなどをテーブルの上に並べる。
アンジェリークは並べられたフルーツとゼフェルを見比べた。
レヴィアスも興味深げに眺めている。
「おめーならいくら出す?」
「いくらって……値段は私が決めるの?
 そちらの言い値を買うんじゃないの?」
うーん……と考えるアンジェリークにゼフェルはある金額を提示した。
「これくらい出せるか?」
「え、うん。出せるけど……」
レヴィアスと顔を見合わせた後、アンジェリークは頷いた。
するとゼフェルはわざとらしく肩を竦めてみせた。
「ったく、やっぱり話になんねーな」
「?」
きょとんとしているアンジェリークにゼフェルは苛立たしげに言った。
「確かにうちのモノは質がいいぜ?
 だからってンな値段で頷いてんじゃねーよ。
 相手の言い値で買わずに値引き交渉くらいやってみろよ。
 そんなんじゃすぐに店つぶれるぜ?」
「えーと……」
ぱちぱちと瞬いてアンジェリークはゼフェルに訊ねた。
「今の……高かったの……?」
ルヴァが苦笑しつつ頷いた。
「そうですねぇ〜。相場よりは……」
「うちで買ってた果物とかはもっと高かった気がしたけど……」
ゼフェルの言い値は安いとすら思って頷いたのだ。
「そっちのダンナもしっかりしろよな」
「城ではその何倍かで買っていたと思ったが……」
レヴィアスが買い物をするわけではないので詳細は知らないが、
それでも一応、城の主として財産管理している者に大体のことは聞いて把握している。
レヴィアスの言葉にゼフェルは脱力した。
「そっちは城持ちかよ。
 たいそうなご身分だな」
未だに首を傾げているアンジェリークにゼフェルは溜め息を吐きながら言った。
「真面目に商売する気があんなら、原価とか純利益とか……
 ちゃんと勉強してからにしろよ。
 ったくよー……いくらのケーキを売るつもりなんだよ?」
たとえお菓子作りの腕があっても経営手腕がとてつもなく問題アリに見えたのだ。
そしてゼフェルの読みはとても正しかった。
「……そうよね……。
 ちゃんと儲けなきゃ生活できないものね……」
頭ではわかっていたが、具体的にはどうすれば良いのか見当もつかなかった
お嬢様はお店を始めてから考えていけば良いかとのんびり考えていた。
「基本がなってねーんだよ」
ゼフェルは髪をがしがしかき回しながらぶっきらぼうに言った。
「おめー、生活のためっつーより菓子を作りたくて店開くんだろ?
 儲けたくてやるわけじゃねーんだろ。
 だからお嬢様の遊びと同じだって言ったんだ。
 ……悪いとは言わねーけどよ。
 せめて金銭感覚普通にしてからはじめろよ」
もっともな彼の助言にアンジェリークは心底納得していた。
確かにこれは問題である。
どうやら自分は普通とは違う感覚らしいし、レヴィアスにいたってはもっと違うだろう。
これに関してはレヴィアスは頼りに出来ない。
というか頼りにしたらとんでもないことになりそうである。
「そうよね……」
でも、どうやって勉強しよう?
新たな疑問にぶつかり、そのまま考え込んでしまったアンジェリークを見て
ゼフェルはまたもや苛立たしげに声を上げた。
「あーもー仕方ねー。
 そこらへんの勉強はうちとのやり取りで覚えろよっ?」
「え……?」
アンジェリークは目を丸くしてゼフェルを見つめる。
そして次にルヴァを見た。
「契約しても良いんですか……?」
「もちろんですよぉ」
「だって……」
戸惑う少女にルヴァは微笑みながらゼフェルには聞こえないように小声で言った。
「根は良い子だと言ったでしょう?」
アンジェリークはくすりと笑った。
「本当ですね」
何も知らないアンジェリークなら相場以上の値段を吹っかけられても
気付かずに契約しただろうに……。
言い方に少々問題はあったが、結果的にはアンジェリーク達と世間一般の
金銭感覚のずれを指摘したうえに面倒まで見てくれると言ってくれたのだ。
「自慢の弟ですよ」
誇らしげに微笑むルヴァがちょっと羨ましかった。



「今日は得しちゃったね」
アンジェリークはにこにこと夕食をテーブルに並べながらレヴィアスに話しかけた。
「これで食材の仕入先はクリア、と。
 初日の活動にしてはなかなかじゃない?」
「そうだな……」
「ゼフェルに感謝しなくちゃね」
契約したアンジェリーク達にゼフェルがもうひとつ世話を焼いてくれたのだ。
「おめーら、後はどうする予定なんだ?」
「ん〜……今日は食材の仕入先を決めたいと思ってたの。
 ここでほとんどの物を揃えられるけど……。
 あと牛乳とか卵とか……牧場にあたってみようと思うの」
食材は近くのお店で買う、という選択肢もないこともないのだが……
せっかくなら専門のところから直接買いたかった。
アンジェリークの返答にゼフェルはやっぱりな、と頷いた。
「ゼフェル?」
「おめーらだけじゃすげー不安だからな。
 紹介してやるよ」
とても偉そうに牧場を紹介すると告げた少年を見ながらレヴィアスは低く呟いた。
「つくづく偉そうなやつだな……」
「そう?
 レヴィアスもあんな感じよ?」
「………………」
慣れた、と言わんばかりのアンジェリークにレヴィアスは溜め息を吐いた。
「我は皇帝だ。
 同じにされても困るがな」
実際に偉いのだし、偉そうにするのが仕事なのだが……
この少女に言っても無駄かもしれない。
「何こそこそ話してんだ?
 行くのか? 行かねーのか?」
「行きます〜」
すでに出かける準備万端のゼフェルの後を二人はついていったのだった。


「よぉ、ランディ野郎」
大きな牧場に到着して少し歩くと動物達の世話をしている人物を見つけた。
ゼフェルは片手を挙げて彼に声をかける。
「ゼフェルじゃないか。珍しいな。
 こっちに来るなんて」
「まぁな。感謝しろよ。
 客を連れてきてやったぜ?」
「お客さん?」
そして彼はゼフェルの後ろから歩いてきたアンジェリークとレヴィアスに目を向けた。
アンジェリークは慌ててぺこりとお辞儀をした。
「アンジェリークです。
 ゼフェルに良い牧場があるとお聞きして……」
「ばっ…かやろー!
 『良い牧場』なんて別に言ってねーだろっ」
「でも紹介してくれるってことは認めてるからじゃないの?」
ねぇ、とレヴィアスと顔を見合わせてアンジェリークは首を傾げる。
「へー、そんな風に思ってくれてたんだ。ゼフェル」
「…っ、別に……俺は…なんでもねーよっ」
「単なる照れ隠しだろう」
レヴィアスに図星を指され、ゼフェルはそっぽを向いた。
ゼフェルとは対照的に素直に嬉しそうな顔をした彼は爽やかな笑顔で名乗った。
「俺はランディ。よろしく」
世話をしていた仔牛を一撫でし、立ち上がったランディは三人を連れて家へと案内した。
「契約とか難しい話は父さんとしてくれるかな」
「あ、はい。
 よろしくお願いします」





こうしてゼフェルの口添えのおかげで
かなり良い条件ですんなり契約することができたのだ。
「後はお店の備品とか機材とかその辺のを買い集めなきゃ」
この近くにあんまりそういうの扱ってるのないのよね……と
ナイフとフォークを使いながらアンジェリークはぼやいていた。
「具体的にどうするかは決めているのか?」
「う〜ん……この辺のお店の人に聞いてみようとは思ってるけど……」
あまり具体策としては利口な答ではないと自覚しているだけあって歯切れが悪い。
「お店に出すお菓子の修行しながら、探してみるよ。
 それよりもレヴィアス……昨日から聞きたかったんだけれど……」
ふとアンジェリークが真面目な顔で見つめるので、
レヴィアスは動かしていた手を止めて少女を見つめ返した。
「どうした?」
「私の料理……どうかな?」
「どう……とは?」
講評しろということだろうか、それとも感想を聞いているのだろうか。
一瞬迷って素直に問い返した。
「考えてみれば二月以上も一緒にいるのに私の料理を食べてもらったのって
 昨日が初めてなのよね」
ちょっと心配そうな海色の瞳がレヴィアスを見つめる。
彼からは美味しいとも不味いとも言われていない。
「レヴィアスって皇帝なんでしょ?
 美味しいもの食べ慣れてるんだよね」
もしかして口に合わなくても無理して付き合ってくれてるかもしれない……。
少女の不安にようやく気付いたレヴィアスは苦笑した。
「案ずるな。美味いぞ」
見惚れるほどの微笑と、嬉しい言葉にアンジェリークは頬を染めて俯いてしまった。
「貴族の令嬢が料理上手なのは珍しいと思っていた……アンジェリーク?」
突然俯いてしまった少女に訝しげにどうした、と問いかける。
「な、なんでもないのっ。
 すごく……嬉しかっただけ」
ドキドキする胸を押さえてアンジェリークは真っ赤な顔で微笑んだ。
レヴィアスに美味しいって言ってもらえただけで
こんなに嬉しくなるなんて……。
自分でも不思議に思うくらいである。
「そうか?」
自分の微笑みの効果を知らないレヴィアスはそんな素直な反応を返す
アンジェリークを可愛らしく思いながら、優しげな瞳で見つめた。
「だからお前の作る『商品』とやらも、けっこう楽しみにしているのだがな……」
「あ、じゃあっ、明日は試作品をレヴィアスに見てもらおうかな。
 甘い物は苦手な男の人って多いじゃない?
 だからレヴィアスもそうかなって思って遠慮してたんだけど……
 さすが紅茶の妖精さんね。
 紅茶と合うようなお菓子は好きってことかしら?」
「まぁ……甘い物は割りと好きだな」
意外な事実にアンジェリークは純粋に喜んだ。
「やっぱり食べてくれる人がいると試作品でも作りがいがあるよね」
彼の好きな物はなんだろう?
喜んでくれると良いなぁ、と思いながら今日ゼフェルの農場とランディの牧場から
試供品代わりにもらった食材を思い出し、それらで作れるいくつかのレシピを思い浮かべる。
「くっ……」
ふと聞こえた喉を鳴らす笑い声にアンジェリークはレヴィアスを見た。
「夕食と我を放り出して自分の世界に入ってたな?」
「ご、ごめんなさい〜」
「別に謝らなくてもいいぞ。
 百面相しているお前を見ていれば飽きんからな」
「……いじわる」
アンジェリークは頬を膨らませてレヴィアスを睨んだ。
しかし、すぐに花のような笑顔に戻る。
「明日、楽しみにしててね。
 あ、リクエストがあったら受け付けるよ?」
「くっ……お前に任せるよ」
それはそれでプレッシャーな気がするアンジェリークだった。





                                    〜 to be continued 〜







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