Honey
そして11月22日。アリオスの誕生日当日。 昼間はルヴァやロザリア、オスカーがお祝いを持って訪ねてきてくれた。 「夕方には帰るわ。 お邪魔するのも悪いしね」 「ロザリア様〜」 ロザリアの微笑みにアンジェリークは頬を染める。 「あ〜、これはプレゼントです。 気に入ってもらえると良いのですが」 ルヴァが差し出したのは上等なワインだった。 「わぁ、ちょうど良かった。 私からのプレゼントはワイングラスなんですよ」 酒好きの彼にアンジェリークが選んだのはペアのワイングラスだった。 「サンキュ、アンジェ。そのうち一緒に飲むか。 前没収された酒の量はこんなもんじゃなかったけどな、ルヴァ?」 「あの時のお酒は原稿と引き換えに返したじゃありませんかぁ」 にやりと笑う彼をルヴァは受け流す。 「まぁ、そのおかげでこいつと会えたんだから良いけどな」 「そう言ってもらえると嬉しいですねぇ」 そしてルヴァは話し込んでいるアンジェリークとロザリアをちらりと見て小声で続けた。 「でも……どうするんですか?」 「なにがだよ?」 「三つの願い事を叶えたら彼女は帰ってしまうでしょう?」 「そう言えばそうだったな。 どうするんだ?」 オスカーも思い出したように尋ねた。 それに対してアリオスはあっさりと答える。 「別に。帰さなきゃいいだけの話だろ」 「「………」」 「俺のところに来たのが運のつきだと諦めてもらうしかねぇな」 いっそ清々しいまでの自己中心的拘束宣言。 「本気ですか?」 「問題あるか?」 心底不思議そうに問われてルヴァとオスカーは返す言葉を失う。 故郷に帰るはずの妖精を留めておくのは褒められる行為ではないだろう。 普通に考えれば。 ただ……。 「本気で他の願い事なんて思いつかねぇし、帰ることになったらあいつ泣くぜ?」 当たり前のようにこう言われてしまったら反論のしようがない。 結局当人がよければ良いのだろう、ということになった。 「そうだ、俺からのプレゼントだ。 夜にでも開けてくれ」 小さくも大きくもない箱を渡されてアリオスは中身を読めず、視線で問う。 代わりにアンジェリークが口に出して尋ねた。 「中身は何ですか?」 「開けてからのお楽しみってやつだ。 以前お嬢ちゃんの相談に乗ってやれなかったから、そのお詫びもかねてな」 「「?」」 アリオスとアンジェリークはその意味が分からず、首を傾げていた。 ささやかなパーティーと軽い夕食を終えて、アンジェリークは後片付けをしていた。 今日はたくさんご馳走を作ったので片付けも一苦労であるが、その苦労すらも楽しかった。 そこへ、電子音が響く。 「あ、アリオス。お風呂の用意できたよ」 「ああ」 頷いて浴室に向かおうとした彼のシャツの裾をアンジェリークは慌てて捕まえた。 「あ、あのね……」 「? どうした?」 しっかり服を掴んでいるのに歯切れの悪い少女をアリオスは不思議そうに見下ろす。 「あの……一緒に…入ろ?」 首まで真っ赤にして小さな声で呟く。 今まで断固として一緒に入ろうとしなかった彼女の誘いにアリオスは眉を上げた。 「そんなに見ないでよぉ。 ……これ、リクエストの答えになるかな…?」 赤くなった頬を隠すように手を当ててそろそろと見上げる仕種がかわいらしい。 悩みに悩んでこっちのプレゼントを考えたのだろうと容易に想像できる。 アリオスは喉で笑い、アンジェリークの頬を押さえている両手ごと包むように手を重ねて軽く口接けた。 「サンキュ。十分だぜ」 嬉しそうにはにかむ少女の髪をくしゃりとかきまぜ、手を引いて浴室へと向かった。 「ね、あっち向かない?」 シャツを脱ぐアリオスの横でアンジェリークは自分の服に手をかけたまま止まってしまった。 「くっ、往生際悪ぃぞ」 「そんなこと言ったって……」 「なんなら脱がしてやるぜ」 いつも通りにな、とにやりと笑うアリオスの表情に慌てて首を振る。 「だ、だめっ」 「遠慮すんなよ」 「だって……」 そんなことを許したら絶対『いつも通り』に最後までコトを進められてしまうだろう。 アンジェリークにとっては今夜はそれが第一の目的ではない。 「10秒だけ、見ないでね」 ごめんね、と舌を出して笑う。 ぱちんと指を鳴らすと近くにあったタオルで目隠しをしてしまう。 「おいっ、アンジェ」 「中で待ってるね」 「こんなことで魔法使うなよな」 ドアの向こうのシャワーの音を聞きながらアリオスは呆れたように微笑んだ。 「座って、アリオス」 自分の前をぽんぽんと叩いてアリオスを座らせる。 「髪洗ってあげるね」 シャワーを持ったまま無邪気ににこにこと告げるその表情に アリオスはこいつ本当に『一緒に風呂に入る』だけのつもりなのではないか、と思ってしまった。 この少女なら有り得る。 「? アリオス、目に入っちゃうよ?」 じっと見つめる色違いの瞳をきょとんと見下ろしている。 「……ああ」 半信半疑の状態でアリオスは瞳を閉じた。 濡れて艶やかさを増した銀色の髪を梳き、洗髪料を使って泡立てる。 強すぎず、弱すぎず丁度良い力加減。 細い指先が心地良い。 「気持ちいい?」 シャワーで泡を落としながらアンジェリークは尋ねた。 「まぁな」 「ふふ。髪切ってもらう時とか軽く洗うじゃない? あれって寝ちゃいそうになるくらい気持ちいいよね」 だからプレゼントにちょうどいいと思ったのだという。 「確かにこれも気持ち良くて嬉しいけどな……」 アリオスはシャワーが止まるのを待ってからアンジェリークを振り仰いだ。 そこには楽しそうなからかうような笑み。 「もっと気持ち良くなれるコトがあるだろ?」 「っ!!」 アリオスの眼差しひとつで心臓が破裂しそうになる。 アンジェリークは真っ赤になり困ったように頷く。 「ちゃんと……分かってるよ…」 はにかんで後ろからアリオスにきゅっと抱きつく。 「でも、ちゃんと洗ってから」 あっさりと離れて今度はスポンジを泡立てる。 「背中流してあげるね。ご主人様?」 そうにっこり笑われて……尽くされているはずなのに かわされている気がするアリオスだった。 もちろんそれはアリオスの気のせいではない。 恥ずかしいからずっと避けていたのをもうこれくらいしか考えつかない、と 半ば諦めたように決断したのだ。 開き直ることもできず、アンジェリークは彼の後ろにいられるこの状態を 長引かせようと一生懸命だった。 それに気付いているのかいないのか……焦らされていたアリオスはふっと笑って言った。 「礼代わりに終わったら同じことしてやるよ」 「ちょっ……やぁ、待って、こんなの……!」 髪を洗ってもらうのは良かった。 アリオスの指先は思っていたよりも優しくて、そのまま眠りそうになったくらいだ。 そして背中を流してもらうのもまだ良かった。 よくなかったのはそれ以降だった。 項に唇を感じたと思ったら後ろから抱きしめられた。 前にまわされた手が肌の上を自由に滑る。 「洗ってやるって言ったろ」 「背中だけ、で……んっ……いい、のにっ」 すっかり安心しきっていたアンジェリークは慌てて泡だらけの手を制しようとするが、 アリオス相手にそれが敵うはずもなく……。 「っ……」 やわらかな膨らみを覆うように触れていた手が敏感な部分を掠め、 アンジェリークはびくりと身体を竦ませた。 「あっ、や……」 愛撫に反応した胸の頂を確かめるように撫でられ思わず声が漏れてしまう。 その声が思っていた以上に甘く響いたのでアンジェリークは慌てて口を押さえた。 「くっ、聞かせろよ。 ここだといい感じに響くだろ」 耳元で囁かれる恥ずかしい言葉に口を押さえたまま、いやだと首を振る。 そんな彼女の様子を楽しそうに眺めながらアリオスは口の端を上げた。 「別にいいけどな。 どこまで保つかな?」 「っ〜〜」 煽るように先端を弄る手をそのままに、もう片方の手が身体のラインをなぞりながら下りてくる。 迷うことなく蜜に濡れた花弁に長い指が挿れられる。 「んっ……ぁ…」 胸への愛撫にすらギリギリのラインで耐えているのに 最も敏感な部分を巧みに触れられては敵わない。 「やぁん、ダメっ……そんなにしちゃ……」 耐えきれずにアンジェリークは彼の望む声を発する。 指先の動きに反応して震える身体で涙混じりに訴える。 「あ、んっ……こんな…激しくしちゃ……すぐに…」 「イけよ」 首筋に口付け、ぞくりとするほど魅力的な声で囁く。 さらに指を増やして内を掻きまぜる。 「見ててやるから」 「あ、あ、やぁ……アリオスっ!」 愛撫を止めない腕に縋るように重ねた手に一瞬力が込められた。 「いじわる…」 アンジェリークは泡だらけの身体をぐったりと彼に預けて拗ねた表情で呟く。 「アリオスまで泡だらけじゃない」 いきなり手加減なしで弄られイかされて少々ご機嫌斜めのようである。 彼の指だけで達してしまった恥ずかしさを隠すように頬を膨らませる。 「流せば済むことだろ?」 アリオスは喉で笑ってシャワーで二人の身体を流した。 「お前があんまり可愛い抵抗するからつい、な……」 「………」 「お前のイきそうなカオ好きだぜ?」 一番気に入っているのは花のような笑顔だが、涙混じりの女の表情もくるものがある。 抱きしめられて、優しくキスされながら言われたら アンジェリークはこれ以上不機嫌なフリをしていられない。 「だからもっと見せてくれよ?」 躊躇いつつも頷いてしまう。 アリオスと出会うまでの自分とは随分と変わってしまったと思うが嫌ではなかった。 「今度はちゃんと……アリオスがしてね…?」 はにかみながらそっと彼の首に腕を絡めた。 かわいらしいおねだりにアリオスは満足げに微笑む。 「くっ、当たり前だろ?」 長い口付けの後、密着していた身体を少しだけ離して、その隙間から手を這わす。 片腕は少女の背中を支え、自由に動く方の手は巧みに胸に触れていく。 「さすがに泡ごと舐めるわけにはいかなかったからな」 先程は手だけで触れていたが、今度は丁寧に白い胸に口付けを落としていく。 「っ!」 アリオスの手によって硬くなっていた先端をなぞられる。 ぴくりと反応する様子を楽しげに確認しながら、アリオスはそこに口付けた。 「あっ……ん…」 舌の動きを恥ずかしいくらい感じてしまい、アンジェリークは縋るようにアリオスの背に腕を回した。 胸への愛撫はそのままに片手は下へと降りてくる。 達したばかりの花はすでに新しい蜜で濡れていた。 「シャワーで流したはずなのにな」 くっと笑って花弁をなぞるとアンジェリークの身体が震えた。 「や、アリオスっ……いじわる…」 感じやすくなっているそこはすんなりとアリオスの指を受け入れた。 少し指を動かすだけでアンジェリークは甘い泣き声を聞かせてくれる。 「も……ダメ……アリオス…っ…」 限界が近いことを訴えるとアリオスはバスタブの縁にアンジェリークを座らせた。 「ひっくり返んなよ?」 からかうように笑うとアンジェリークは赤い顔のままで頬を膨らませる。 「そんなことしないもん」 そうは言ったものの不安になったのかお湯の中に落ちないようにと 片手はアリオスの肩に、片手はバスタブの縁にしっかりとつかまっている。 「くっ、そうかよ? お前無自覚にムードぶち壊すことあるからな」 「う……」 意識的にやっている確信犯ならお仕置きも考えるのだが、天然なのだからどうしようもない。 「まぁ、俺も雰囲気とか気にする方じゃねぇけどな」 それでもさすがに続行不可能になるような天然ボケをかまされるのはかなわない。 前科持ちの少女は頬を染めて視線を逸らした。 「今日は……大丈夫、なはず……」 自信なさげに呟くのを見て、苛めすぎたかとアリオスは苦笑する。 「そう願うぜ?」 宥めるように優しくキスされてアンジェリークがほっとしたように微笑む。 このくるくると変わる表情が愛らしい。 「んっ……あ、あっ……」 脚を開かせてその中心へと口付ける。 溢れる蜜を舐め取る音まで淫らに響いてアンジェリークはさらに頬を染めた。 「や、アリオスっ……」 声だけの抵抗は無視してアリオスはわざと音を立てて舐め、同時に指を使ってかき混ぜる。 「っ……はぁ……あ、ダメ、アリオスっ……いっちゃ…」 「いいぜ」 「やっ……」 アリオスに縋ってアンジェリークは首をふるふると振る。 「今度は……アリオス、んっ……一緒じゃ、なきゃ…」 「アンジェ……」 「お願い……もう…して…」 潤んだ瞳で甘い泣き声でねだられて……健気なまでの誘いを拒む理由などない。 アンジェリークを抱き上げて自分の上へと座らせる。 「っあ……はぁ……っ」 腰が降りるごとに身体の中にアリオスが挿ってくるのを感じる。 僅かに動くだけで敏感に感じてしまう。 「今日はやけに感じてねぇか?」 「そんな、こと……ない、もん」 「そうかよ? 身体の方がよっぽど正直だな」 刺激を与えられる度に強くアリオスを締め付ける。 くっと笑うとアリオスはアンジェリークを突き上げた。 「ああっ……や、ん…アリオスっ、もう……」 「アンジェ」 乱れた呼吸の中で大好きな人の名を紡ぐと、解っているとばかりにキスをして強く抱きしめてくれる。 何も考えられないくらい互いのことだけ感じ合って求め合った。 「アンジェ、大丈夫か?」 激しい行為の余韻にぼぅっとしていたアンジェリークをアリオスが覗き込んでいた。 「のぼせたか?」 「ううん、大丈夫」 「そろそろ出るか。倒れられたら困るしな。 今夜はまだ付き合ってもらうつもりだからな」 「もう、アリオスったら」 アンジェリークは抱き上げられて、苦笑しながらアリオスの首に腕を回した。 バスローブを羽織ったアリオスは昼間オスカーからもらった箱をアンジェリークに渡した。 「私に?」 「お前に着せろだと」 『お嬢ちゃんにぴったりのナイトウェアだぜ?』 何か企んでそうなオスカーの笑みを思い出しながら、アリオスは彼の言葉をそのまま告げた。 「ナイトウェア……って……パジャマ? でもこれから……ねぇ?」 言葉に困って省略しながらアンジェリークは首を傾げる。 「どうせすぐ脱がすんだから着ても一瞬だろうな」 代わりに羞恥心など欠片もなくアリオスがはっきりと言ってくれた。 「………………」 「とりあえず着て来いよ。 先に行って待ってるぜ」 「うん……」 アンジェリークは一体どんなものが入ってるのだろうと思いながら包みを開けていく。 その動きが一瞬止まり、その後の動作はやけにのろのろとしたものだった。 〜 to be continued 〜 |