Shining Star
                          
- 生まれたての星 -



長めの連休も明日で終わり、学生であるアンジェリークは明日の午後には帰る。
「あっと言う間だったなぁ……」
次のシーンが無事撮り終えたら、自分の出番は終わり。
ほっとする反面ちょっと寂しい。
(楽しかったな……)
皆良い人達ばかりで素人相手になにかと親切に教えてくれたし、
アリオス監督もけっこう声をかけてくれて、相談に乗ってくれた。
結局は、からかわれていることの方が多かったけれど……。
彼と話しているととても楽しかった。
色々と考えながら、アンジェリークは撮影現場である夜の海辺にやってきた。


主演二人のサポートといった役どころのアンジェリークは出番自体は
それほど多くはないが、映画の要所要所で姿を現した。
そして、これから撮影しようとしているのがクライマックスのシーン。
悪事を企む者達の船に忍び込んだ三人が彼らを追い詰める。
オスカーの見せ場で船上での戦闘シーンとなる。
「さすがオスカーさん……鮮やか〜」
「あいつは元々フェンシングやってたしな」
アンジェリークは出番待ち状態だったので、アリオスの側で彼らの演技を見ていた。
「それよりも次のお前のシーン……いけるな?」
「う……がんばります…としか言えないです…」


実はアンジェリークは今までで一番緊張していた。
大勢のキャストと一緒に甲板のセットに立ち、スタートの合図を待つ。
アリオスの声で戦闘シーンが再び始まった。
オスカーが見事な剣さばきで、次々と相手を倒していくが数が多すぎる。
『きゃあっ』
オスカーの背に庇われていたアンジェリーク・リモージュ扮する巫女が
敵に捕らえられそうになる。
『お嬢ちゃん!』
しかし、捕らえられたのは巫女を庇った不思議な少女の方だった。
屈強な男に捕まえられ、そのまま海に投げ出される。
「きゃあーっ」
「カット!」
アンジェリークは水面から顔を出して、勢いよく謝った。
「ごめんなさい!」
声を出さない役なのに素で悲鳴をあげてしまった。
「次は気をつけます」
ぽたぽたと滴が伝う衣装を変えて、髪を乾かして再度挑戦する。
今度は、悲鳴こそ堪えたものの怯えた表情が相応しくないとリテイクを言い渡される。
濡れて、乾かして、を何度も繰り返す事となった。
寒い季節ではないのが救いだけれど……何度もこれを繰り返していると
さすがに疲労が溜まっていく。
スタッフの中にもそろそろOKを出してあげても良いのでは……と心配そうに言う者も出てきた。
「お嬢ちゃん、休むか?」
「休憩してからやる?」
意外なのはオスカーもリモージュもその中の一人ではなかったことだった。
気遣ってくれるが、決して妥協はしない。
やっぱりアリオスと同じタイプなのだ、と分かってアンジェリークは笑って答えた。
「いえ、大丈夫です。
 一度休んじゃうと、もうできなくなりそうだし…」
疲れきって動くことも辛くなりそうだった。
「スタッフの人達も私のセット整えるの大変だし……次こそ決めます」
小さく拳を握り締めて笑ってみせる。
「ん、がんばってね」
「この俺が見守っててやるからな。
 なんなら下で受け止めてやるぜ?」
「こら、オスカー」
「もう、オスカーさんってば」
くすくすと笑ってアンジェリークは立ち上がった。


「いけるか?」
アリオスの声と視線にアンジェリークは頷いた。
「何度もごめんなさい」
「でも、アリオス監督もけっこう無茶言ってるわよ」
ぷん、とアンジェリーク・リモージュは頬を膨らませた。
「普通、女の子が大柄な男に海に投げ落とされたら怖がるでしょう」
「あいにく、こいつは『女の子』の役じゃないんでな」
普通の少女の反応は要らない。
「それはそうだけど……」
「高さだってたいしたことない」
怖がるほどじゃねぇだろ、と平然と言うアリオスにリモージュは呆れたように笑った。
「なんでもあなた基準で考えないでよね〜」
二人の会話を聞いて緊張に強張っていたアンジェリークもくすくすと笑い出した。
「本当に怖がる高さじゃないと思ったんだがな……」
「?」
呟くアリオスに視線で問うと彼は笑って言った。
「お前、初日に俺に投げられただろ。
 高さ的にあれと大差ねぇぞ?」
それを聞いて思わずアンジェリークは吹き出してしまった。


甲板に立って、下の海面を見つめる。
映像としてはかなり高くから落とされているように見せるが、実際に落下する距離は大したことはない。
長身のアリオスから投げ落とされた時より、少し高いくらい。
落ちる場所の水深も浅すぎもせず、深すぎもせず、安全である。
さっきまで暗い水面や落ちる衝撃が怖かったのに、今ではアリオスの言葉が頭に残って笑みまで零れる。
アンジェリークはこちらを見ているアリオスに気付いた。
セットの様子を見ているのかと思ったけど、その視線はずっと自分に留まったまま。
今度は大丈夫。
確信を持ってアリオスに微笑んだ。



何度もやったように巫女を庇って前に出る。
その腕を捕まえられ、そのまま甲板の外へ……海へ投げ出される。
ふわりと身体が宙に浮く。
落ちる感覚が怖かったけれど……今は大丈夫。
あの時もびっくりしたけれど、怖くはなかった。
(怖くない……。ここはあの人の映画の海。
 そして……私の海……)
自分の領域だ。
怖がることはない。
安堵の笑みすら浮かべる余裕がある。



海面に投げ出された少女の安否を確認する為、巫女と騎士が船の縁に駆け寄る。
『!?』
しかし、波間に現れたのは先程の少女ではなく神秘的な光さえも放つ人魚だった。
波を自在に操れるのか、甲板の高さまでの波に乗ってにこりと笑う。
その表情は行動を共にしてきた少女のものだが……。
『あなたがこの海の守り神……だったの…?』
『なるほど……どこか普通のお嬢ちゃんと違うと感じたのは…そういうことか…』
呆然としているのは二人よりも後方の男達である。
もはや言い逃れはできない。
守り神の裁きを受けるしかない。

『私達がお仕えしている神様にお会いできたのは嬉しいけれど……。
 神様の手を煩わせてしまったのは申し訳ない気がするわ』
人魚の姿をした少女は気にしないで、と微笑む。
私も楽しかったから、と。
いたずらっこのように笑う。
『これからは彼が王宮で、私が神殿でしっかりお仕えしますから。
 二度とこんなことはさせないので安心してくださいね』
『さて、お嬢ちゃんの計画通りにいくかな?』
『どうしてよ?』
水を差すような彼のセリフに元気なヒロインは睨むように見上げた。
『俺は君にも王宮に来てもらいたいんだが』
『え? 神殿の人間が王宮に行って何するのよ?』
やることなどないだろう、と問う。
『王妃になって俺と共にこの国と海を守らないか。
 やりがいのある仕事だろう?』
ウィンクまでつけて言われている内容は……。
『え…ちょっ……王妃って…あなた…』
彼が王位継承者であることに気付いていた女神は
うろたえる巫女とプロポーズ中の青年を眺めて、嬉しそうににこにことしている。
『もー、二人してずるいっ! 私のこと騙して!
 神様だってこと内緒にしてるし、王子だってことも内緒にしてるし』
『騙したなんて人聞きが悪いな。
 なぁ、お嬢ちゃん?』
神様でも姿が少女なら「お嬢ちゃん」らしい。
彼は悪びれもせずに笑いながら人魚に声をかけた。
彼女は楽しそうに闇の中でも虹色に煌く尾ひれをぱしゃんと振った。
跳ねた飛沫が月明かりにきらきらと輝いていた。





   ☆  ☆  ☆





「アンジェ、かわいいー。きれいー♪」
「レイチェル……」
試写会が終わった後、レイチェルがアンジェリークに抱きつきながら大絶賛をしていた。
「タダの女の子じゃなくって祀られてた神様だったんだね」
「うん。まぁ、神様って言うより、妖精とか精霊の方がイメージ的には近いかもって
 アリオス監督が言ってたけれどね」
「まさか人魚姿を見られるとは思わなかったヨ」
「ん、私も人魚の姿見たのは今が初めてだよ。
 CGってすごいんだねぇ」

アンジェリークが参加したロケ旅行からしばらく経って映画は完成した。
今日はその試写会があったのである。
顔パスで入れるレイチェルはもちろん観に来てくれた。
アンジェリークも自分が出演している映画は恥ずかしい、と言っていたのだが
レイチェルに引っ張られてやってきた。
それともうひとつ、アンジェリークが来たのには理由があった。
アリオス直々に招待されたのだ。
当然ながら普通の女子高生であるアンジェリークは
撮影が終わってから彼と会うこともなくなった。
普通に話して笑って、一緒に過ごせたあの一時が夢みたいなものだったと思い知った頃、
アリオスから招待状が届いた。
会えるかもしれない。
そんな思いでここに来た。
「アンジェってば立派に演技してたじゃない。
 やっぱり私の見込んだ通りだよ☆」
「アリオス監督とか……みんなが色々教えてくれたおかげだよ。
 でも、レイチェルにそう言ってもらえると嬉しいな」
「アリオス監督、か…。
 凄腕って評判だし、実力もあるみたいだけど…いったいどんなアドバイスもらったの?」
役者らしい気になる点をレイチェルが訊ねてみた。
「ん〜…いろいろあるけど。あ、そうだ」
返答に困っていたアンジェリークがようやくひらめいて手を叩く。
「ナニナニ?」
「『本物の人魚や女神なんて誰も見たことねぇんだ。
 お前のイメージする人魚や女神を演じれば良い』かな」
「ふーん?」
最初、女神や人魚なんてどんな風に演じれば良いのか迷っていた。
そんな時に彼が言ってくれたのだ。
「見たやつがお前の人魚は『イメージじゃない』っつっても気にすんな。
 そいつのイメージと俺達製作者側のイメージが違うだけだ」
くっと笑った皮肉げな表情が印象的だった。
「そういうやつには『お前のイメージこそ違ってるぜ』って言ってやれ」
傲岸不遜というか怖いもの知らずというか……でも、その強さが迷いを断ち切ってくれた。
「だから私は私なりの『彼女』を演じられたの。
 楽しかった…。
 アリオス監督には本当に感謝してる…」
寂しげな表情でアンジェリークが微笑んだ。
「あのさ、アンジェ……」
レイチェルが親友の暗くなってしまった表情を見て、口を開いたが
舞台挨拶の準備が整ってしまったので、仕方なく口を閉じた。



舞台に上がったのは主演のアンジェリーク・リモージュ、オスカー、そしてアリオスだった。
彼らは一言ずつ挨拶をして、記者達の質問に答えている。
その様子を見ていると、あの舞台の上でライトを浴びている人達と
一緒にいたのだということが信じられなくなってくる。
自分の座席と舞台。
距離にして見ると数メートルだけど、とても遠く感じる。
相変わらず役者に負けない存在感の彼を見つめて……でも、わけも分からず寂しくなって俯いた。
「アンジェ…?」
「なんでもない……」
気分でも悪いのかと心配する親友に首を振って答える。
「大丈夫?
 もうすぐ挨拶終わりそうだよ」
「ん」
これで本当にもうアリオスに会うことはできなくなるのだな、と思って顔を上げた。
司会者に最後に監督からの一言を……と締めの言葉を促されてアリオスは頷いた。
「今回の映画は今までで最高の出来だったと思ってる。
 まぁ、俺の実力が大きいがな」
横のオスカーに突っ込まれてアリオスは軽く笑った。
「だけど、支えてくれたスタッフ達、役者達、
 俺の期待に応えてくれたオスカーとリモージュに感謝してるぜ。
 そして……期待以上の演技を見せてくれた俺の女神に感謝してる」
(え……)
アリオスと視線が合ったような気がした。
離れていたから、もしかしたら違うのかもしれない。
本当はアンジェリークがいた辺りを見ただけ、だったのかもしれない。
(でも……私に…言ってくれた…?)
最後の言葉は確かにアンジェリークに向けて言ったものである。



記者達がアリオスの言う女神について質問をしようとしたところで彼は舞台を下りていった。
アンジェリークに関しては「アリオスが抜擢した素人を使った」としか
公表されていなかった為、話題にもなっていたのである。
それを踏まえたうえでレイチェルとアンジェリークは目立たない席を確保していたので、
映画の最中に気付かれることもなかった。
「そろそろいこっか」
アンジェリークに関する質問が記者達から関係者に投げられる前に。
「うん」



レイチェルに連れられて関係者しか通れない道を歩いていく。
やがて疑問に思って、前を歩くレイチェルに声をかけた。
「レイチェル……あの、本当にこの道あってるの?」
出口に向かうどころか、奥に向かっているような気がする。
「んー、あってるよ〜♪」
そして「控え室」というプレートがかかっているドアにたどり着く。
「実はここに来てくれって言われてたんだよネ」
ノックをして、中の返事を待ってドアを開ける。
「お邪魔しまーす」
「よぉ、ごくろう」
「この天才女優のワタシを案内係にするなんてアナタくらいじゃない?」
「この俺に頼まれ事されるなんざ滅多にねぇんだ。
 ラッキーだったな?」
レイチェルと似た者同志な受け答えをしたのはアリオスだった。
ネクタイを解いてすでにくつろぎモードに入っている。
「アリオス監督……お久しぶりです」
何を言ったら良いのか分からなくて、ありきたりな挨拶しかできなかった。
「また会えて、嬉しい……」
もう会う事はないと思っていたから。
こうやって話す機会はないと思っていた。
はにかむ親友があまりにも可愛いので、レイチェルは「二人っきりにさせたくないなー」とか
思っていたのだが、当初の約束通り部屋を出た。
「五分後に戻ってくるからね。ヘンなコトしないでよ」という言葉を残して。
「レイチェルったら……」
アンジェリークは親友が出ていったドアを見つめる。
「アンジェリーク」
「は、はいっ」
「くっ、別に取って食いやしねぇよ」
「ア、アリオス監督はそんなことしませんっ!」
くっくと可笑しそうに喉で笑っている彼を真っ赤になって睨む。
「お前の親友は五分しかくれねぇそうだからな。
 本題に入るぜ」
「はい……?」

首を傾げるアンジェリークの目の前でアリオスは忌々しそうに髪をかきあげた。
「前言撤回ってのは俺の信条に反するんだがな……」
「はぁ…」
彼の言おうとしている事が分からず、アンジェリークはきょとんと彼を見上げる。
「あの日、お前に出演交渉した時……一度で良いからお前を撮ってみたい、って
 言ったのは聞かなかったことにしてくれ」
「え……」
アンジェリークは目を丸くして呟いた。
「アリオス監督…」
「アンジェリーク…」
「そう言った事……後悔してます?」
「ああ」
アリオスに即答されて、見る見る間にアンジェリークの瞳が潤む。
「おい?」
「アリオス監督は舞台挨拶であんな風に言ってくれたけど……
 本当は後悔してるんだ…」
ぽろぽろと涙が零れてくる。
「撮ってみたいって思ったこと、後悔するくらい……
 私、期待に応えられなかったんだ…」
彼のためにがんばろうと思って出演を決めたのに、役に立てなかった。
「アンジェリーク?」
急に泣き出したアンジェリークの肩をアリオスが掴む。
「なんで泣くんだよ?」
涙に濡れた瞳で顔を上げると困惑したような表情が目の前にあった。
「だって……撮りたいなんて思わなきゃ良かった、って後悔してるんでしょ…?」
「……………くっ…」
珍しくも一瞬きょとんとして、それから彼は笑い出した。
アンジェリークの肩を掴んでいた手も震えている。
「え……?」
「ばーか、勘違いしてんなよ」
「え、え? 勘違い?」
アンジェリークは自分の肩に突っ伏して笑っている彼に聞き返す。
さらさらの銀髪が頬に触れてくすぐったい。
少し低い、心地良い声が耳元で聞こえる。
「くっ…こんなに笑ったのは久しぶりだぜ……」
「私だってアリオス監督がこんなに笑うの初めて見ましたよ」
拗ねたように頬を膨らませる少女の髪をかきまぜてアリオスは言った。
「俺が言ったのは『一度で良いから』なんて制限しちまったことに後悔したんだ」
「?」
「もっとお前のいろんな表情を撮ってみたい」
「アリオス監督……?」
「お前には役者を続けてほしい」
俺のわがままだけどな、と苦笑して付け足した。
「本当はお前の撮りが終わった夜……言おうかとも思ったんだがな…」
学校の都合で他の者よりも早く帰るアンジェリークの為に
一足早い打ち上げが企画された。
その時にアリオスはこの事を話そうかとも思っていた。
「だが、俺自身もう少し頭を冷やしたかったしな」
冷静に見て、映画が完成する頃、自分の気持ちが変わらなかったら
アンジェリークに話そうと決めていた。
「あの、私……」
「まぁ、すぐに返事をくれとは言わねぇよ。
 またやっても良いと思ったら連絡くれ」
そろそろ五分経つな、と腕時計を見る彼にアンジェリークは溢れる涙を拭って言った。
「あの、アリオス監督……」
「ん?」
「私、最初はアリオス監督の願いを叶えたい。
 期待に応えたいって思って演技してたんです。
 でも……楽しくて。途中からアリオス監督の為だけじゃなくて、自分の為でもあった」
「アンジェリーク……」
「養成所とか行ってないし、何も知らないけれど……
 今からでも私にできるかな…?」
泣き顔だけれど、その笑顔は紛れもなく同意のそれで……。
「ああ。俺が育ててやる」
金と翡翠の瞳が優しく強い光を宿していた。
アンジェリークの肩を引き寄せて、頬を伝う涙を指先で拭ってやる。
彼の言葉も指先も優しくて嬉しかった。
これからも一緒に仕事を出来ることが嬉しかった。
「アリオス監督……。これからも、よろしくお願いします…」
「ああ」


「そろそろ五分だよー。
 入るからね…ってチョット!」
時間通りに戻ってきたレイチェルが勢いよくドアを開けて、中の様子に目を丸くする。
「アリオス監督、ナニしてたのよー!
 なんでアンジェ泣いてんの!?」
二人の距離はやたら近いわ、アリオスの手は華奢な肩と涙の伝う頬にあるわ、
アンジェリークは泣いているわ…。
いくらでも誤解できるシチュエーションにレイチェルがきゃんきゃんと吠える。
「アンジェ、大丈夫!?」
「レイチェル……あの…」
がばっとアリオスからアンジェリークを引き離して、彼を睨む。
「アナタがアンジェを役者にしてくれるって言ったから協力したのに
 いったいなにしたのよ?」
「あのな……」
アリオスが呆れたように呟いた。
「別にお前が考えてるようなことはしてねぇよ」
「あの、レイチェル……私、嬉しくて泣いてたのよ…?」
最初は誤解していて悲しくて泣いたけれど。
勘違いに気付いたら、彼の気持ちが嬉しくて泣けてきた。
「なーんだ。それなら良いんだけれどね。
 も〜びっくりさせないでヨ」
「勝手に入ってきたのはてめーだろうが」
あはは、と笑ってレイチェルは誤魔化す。
「で、ということは……
 アンジェは役者続けることOKしてくれたってコト?」
「そういうことだ」
「さっすがアリオス監督☆」
「てめー……さっきまで俺のことすげぇ目で睨んでたのはどこの誰だよ」
「あー、勘違いってコトで。
 アレは忘れてヨ」
明るく笑い飛ばしてひらひらと手を振る。
そしてアンジェリークに向き直る。
「よかったー♪
 運が良ければ、またアンジェと共演できるね」
「レイチェル…」
「楽しみだな☆
 あのネ、ずっと言おうかどうしようか迷ってたんだ。
 アナタ、私とドラマに出たじゃない?」
頷くアンジェリークにレイチェルはにっと笑った。
「たったワンシーンしか出てないのに、アナタへの問い合わせがすごかったんだから♪」
「………」
呆然としているアンジェリークにアリオスが口の端を上げた。
「将来が楽しみだな、アンジェリーク?」
「ホント楽しみだね、アンジェ?」
「え〜と……喜んで良いのかなぁ…」
なんとなく二人の笑顔が素直に受け取れないアンジェリークだった。
その直感は珍しく当たっていて……
しばらくはアリオスとレイチェルからそれはそれは厳しい基礎特訓を受けることとなるのである。



                                            〜 to be continued 〜






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