「どうして…こんな選択……」
崩れゆく城のなか、助けに来た仲間が見たものは、呆然と座りこむアンジェリークだった。
無理矢理引っ張っていかなければ、きっと瓦礫のなかに埋もれてしまっただろう。
いまだに廃墟の前で立ちつくし離れることが出来ないでいる。
「なんで…あんなコトしたの」
彼が触れた唇を指先でなぞる。
期待してしまった。
説得できたのではないか、と。
しかし現実はその反対だった。
一瞬期待しただけに、いっそう現実は辛いものとなった。
「ずるいよ。アリオス…どうして」
その時、泣きじゃくるアンジェリークの脳裏に彼の最期の言葉が浮かんだ。
「もしかして……」
『好きなら抱きしめてよ』
『愛してるならキスしてよ』
「ちゃんと応えてくれた……?」
そして、また会おう、そう言っていた…。
アリオスは何もかも諦めてしまったわけじゃないってことよね。
不思議ね。
あなたの一言信じるだけで気持ちが軽くなる。
強くなれる。
私達また会えるわ。
予感がするの。
あなたにまた会えそうな予感。
いえ 絶対会ってみせるわ。
アリオス…私の宇宙にいらっしゃい。
『皇帝』に縛られることのない自由なあなたに生まれ変わって。
ずっとずっと祈ってるから。
次に会えたときは。
きっと…。
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「アンジェリーク!」
ノックとともに自分の名を呼ぶ親友の声に、
アンジェリークは窓の外から視線を戻し、慌てて浮いた涙をふく。
「レイチェル」
「あのね…」
パタンとドアを閉め、レイチェルは途中で言葉を止めた。
「どうしたの?
泣いてた…」
「ううん。なんでもないの。大丈夫よ。
それより何かあったの?」
レイチェルの質問ににっこり笑って逆に聞き返す。
レイチェルにはまだ何も話していなかった。
大好きで大事な親友だからこそ、話せないままでいる。
「………」
はー、とレイチェルは大きく息をつき、話をもとに戻した。
「まぁ、そのことは置いといて…いい知らせだよ」
なんだと思う? という表情にアンジェリークは首をかしげる。
「新しい生命が誕生したよ!」
「ホント!?」
アンジェリークの顔がぱっと明るくなる。
それを見てレイチェルも嬉しそうに頷く。
「うん。それがねぇ、不思議な男の子なの。
左右の瞳の色が違ってスッゴク神秘的なんだから」
レイチェルのその言葉にアンジェリークは固まった。
(左右の…瞳の色…)
「金と緑の瞳にカンパーイ!ってね。
ワイン持ってきたよ」
「………っ」
彼だ、そう思った瞬間に涙があふれてきた。
「アンジェリーク」
突然泣き出した彼女をレイチェルは優しく抱きしめた。
「良かったね。やっと彼に会えるよ」
「え?」
何も話していないのにどうして…という瞳にレイチェルはくすっと笑う。
「詳しいことは知らないよ。
だけど…ここに帰ってきてからのアナタ元気なかった」
元気なフリはしてたケド、と付け足す。
「………」
アンジェリークは見破られていたのか、と苦笑する。
「親友としてはじっとしてられないじゃない。
だから報告を兼ねたお茶の席でロザリア様に聞いたの」
女王試験が終わった後、二人は新宇宙へ移ってはいたが、まだまだ発達段階、
いろいろと両方の宇宙で行き来があった。
女王はさすがにあまり頻繁に自分の宇宙を空けることは出来ないが、
その分補佐官が動いていた。
よってレイチェルはいつもの報告会という名目のお茶会で尋ねたのだ。
もちろん、本人の口から聞くべきことだから本当に大まかなことしか知らない。
ただ彼女のことが心配で、でも話してくれるのを待つだけも辛くて、
何かできないものか、と思って聞いたのだ。
「『一緒に旅してた人が皇帝だった』って…」
「…それだけ?」
「うん。それ以上はロザリア様言わなかったし、私もきかなかったよ」
「それだけで……」
「私を誰だと思ってんの?
優秀な補佐官でアナタの親友だよ。おまけに天才少女だし」
「ふふ…」
得意げな笑顔にアンジェリークは微笑む。
「レイチェル…ありがとう」
「さ、カンパイしよ?
彼の誕生を祝って」
「うん」
そしてアンジェリークは全てをレイチェルに話した。
「ごめんね。今まで怖くて話せなかった」
「なんで怖い?」
「だって…私、彼を選ぶつもりだった…。
レイチェルもアルフォンシアも大切なのに、いけないコトだってわかってるのに…」
ワイングラスの中のワインを意味もなくグルグル回しながら、アンジェリークは謝った。
「でも、彼がそれを止めてくれた。
アナタに罪を背負わせたくないから。
そういうことでしょ?
迎えに行くから待ってろって」
「たぶん…」
「自信持ちなって」
「…確かに彼にまた会いたいし、信じてる。
でも…彼は『ここ』まで来れるかどうか分からない。
過去のことは忘れているかもしれない。
それに、たとえ会えなくても私が願うのは彼の幸せだし…
無理に辛い過去を思い出させるのも…」
「あー、ストップ!」
そのまま延々と続きそうな不安なセリフに待ったをかける。
得てして恋する者は、不安が絶えないものなのだ。
早めにそれを取り払ってやらねば、とレイチェルは考えた。
「だいたいねぇ、女王の祈りなんてこの宇宙じゃ無敵じゃない?」
「そ…かな…」
「そーだよぉ」
「あんな強い感情、あなたから感じるのは初めてだった。
それほどの女王の想いが何も起こさないわけないでしょ?」
現に彼の転生という奇跡は起きた。
「……」
「それに!
私とアルフォンシアもついてるし。大丈夫だよ!」
(あっちで最後の懺悔もかなわなかったなら…。
こっちの世界には目をつぶってもらおう。
アナタには笑顔でいてほしい)
「…うん!
そうだね」
レイチェルの言葉にアンジェリークは笑顔で頷いた。
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ねぇ アリオス
あなたとめぐり逢うため 何度だって奇跡を起こしてみせる
だから 次に会えた時は きっと…
きっと はなれない
〜fin〜
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