重要判例
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重要判例1 秋北バス事件
昭和43年12月25日大法廷判決(最高裁昭和40年(オ)第145号、就業規則の改正無効確認請求事件)
本事件は会社(以下 Y社という) が一方的に就業規則の改正により定年制を設け、改正時点で既に定年年齢に達していることを理由として、退職を命じられた従業員(以下 Xという)が、この就業規則改正について同意を与えた事実はなく、定年を定めた規定の効力はXには及ばないと主張し、就業規則改正の無効確認を求める訴えを提起した事件です。
本判決は就業規則の法的性質および就業規則による労働条件の不利益変更の拘束力についてのリーディングケースとなっています。
<事実の概要>
- Xは、昭和20年9月、Y社に入社し、大館営業所次長(所長事務取扱)の職にあつた。
- Y社には、Xの入社当時はもとより、その後も停年の定めはなかった。
- Y社は昭和30年7月21日施行の就業規則で50才定年制を導入。但し、Xほか主任以上の職にある者に対しては適用がなかった。
- Y社は昭和32年4月1日に就業規則を「従業員は満50才を以つて停年とする。主任以上の職にあるものは満55才を以つて停年とする。停年に達したるものは退職とする。」と改正し、この条項に基づき、すでに満55歳の停年に達していることを理由として、4月25日付で、Xに対し、退職を命ずる旨の解雇の通知をした。
- Xは、右条項について同意を与えた事実はなく、満55歳の停年を定めた規定はXに対し効力が及ばないと主張し、就業規則改正の無効確認を求める訴えを提起した。
<判旨>
最高裁はまず、「多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体で定める契約内容の定型に従つて、付随的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているものということができる。」とし、就業規則が合理的な労働条件を定めているものであれば、法的規範性を有するとの見解を示しました。
次に「労動基準法は、このような実態を前提として、後見的監督的立場に立つて、就業規則に関する規制と監督に関する定めをしているのである。(89条、90条、106条1項、91条、92条)」、「このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、『就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となつた部分は、就業規則で定める基準による。』ことを明らかにし(93条)、就業規則のいわゆる直律的効力まで肯認しているのである。」と労働基準法が就業規則の合理性を担保しているとしました。
さらに、「就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至つているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知つていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。」として、就業規則の法的規範性の効力を明らかにしました。
そして、「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。」として、就業規則による労働条件の不利益変更についてもその内容が合理的なものであるかぎり、同意しない従業員に対しても拘束力を有するとの規範を示しました。
そのうえで、「@およそ停年制は、一般に、老年労働者にあつては当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減するにかかわらず、給与が却つて逓増するところから、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行なわれるものであつて、一般的にいつて、不合理な制度ということはできず、本件就業規則についても、新たに設けられた55歳という停年は、わが国産業界の実情に照らし、かつ、被上告会社の一般職種の労働者の停年が50歳と定められているのとの比較権衡からいつても、低きに失するものとはいえない。A本件就業規則条項には、必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによって生ずる苛酷な結果を緩和する途が開かれていた。しかも、現にXに対しても、Y社より、その解雇後引き続き嘱託として、採用する旨の再雇用の意思表示がされていた。BXら中堅幹部をもつて組織する「輪心会」の会員の多くは、本件就業規則条項の制定後、同条項は、後進に道を譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めていた。」として「以上の事実を総合考較すれば、本件就業規則条項は、決して不合理なものということはできず、同条項制定後直ちに同条項の適用によつて解雇されることになる労働者に対する関係において、Y社がかような規定を設けたことをもつて、信義則違反ないし権利濫用と認めることもできないから、Xは、本件就業規則条項の適用を拒否することができないものといわなければならない。」とし、社会的相当性、激変緩和措置、多数従業員の受容を理由に就業規則変更の合理性を認める結論を示しました。
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